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握る拳とその行方⑮

『リスタルちゃん、何とか15分持ちこたえて! そうすれば応援がやってくるから!!』


 イヤホン型の通信機からノイズ交じりに令華さんの声が聞こえる。もう応援が要請されていることはさすが令華さんなのだが……15分かぁ。


 牛頭を警戒しつつもシュバルツに目をやるが、シュバルツの肌はもう青白いを通り越して真っ白になりかけている。明らかに血を流しすぎている。


「令華さん無理です。シュバルツがもうそんなに持ちません!!」

『それは分かってる。でも牛頭は放置できないの…………ごめん』

「!? 令華さん、令華さん!!」


 令華さんからの通信は一方的に切られてしまった。そんなどうして。早く撤退してシュバルツを治療しないと命が危ないのに。


 でも令華さんの言っていることもわかる。もしここでわたしがシュバルツを連れて撤退してしまったら、牛頭が野放しになりどんな被害をもたらすのか想像に難くない。まず間違いなくこの辺り一帯は壊滅的に破壊されるだろう。それに巻き込まれ何人の市民が命を落とすことになるか。


 シュバルツ1人の命か不特定多数の市民の命、どちらを優先的に守らなければいけないのか。今この状況でどちらも守るというのは不可能だ。どちらかを選ばなくてはいけない。


 そして令華さん、管理局は選んだ。シュバルツ1人の命を犠牲にすることを。


 管理局はあくまでも魔獣対策のための機関だ。そのための一手段として魔法少女を使っている。決して魔法少女を保護するための組織なんかではない。魔獣対策の片手間に保護をしているだけだ。


 だから管理局の選択は間違っていない。それにたった1人の魔法少女を見殺しにするだけで、多くの市民を守ることができる。なんと素晴らしいことだろう。シュバルツは魔法少女とはいえ管理局の所属ではなく無所属、野良である。たとえ死んでしまったとしても管理局に何も不利益は生じない。


 確かに数字上ならシュバルツは見捨てるべきなのかもしれない。でもそんな理由でシュバルツを見捨ててしまってもいいのか。シュバルツは自らの血で作り上げた水たまりに横たわり、ピクリとも動かない。


 シュバルツのその姿に、あの時守れなかった妹の姿が重なってしまう。唇を血が出てしまうほどかみしめる。


 わたしはまた……守れないの?


 そんなのはダメだ。それを認めてしまったらわたしがわたしでなくなってしまう。あの時誓ったのだ。わたしの目の前でもう誰も死なせない。誰であろうと、どんな状況であろうと守り切る、と。


 1つだけ両方を守る方法がある。牛頭を倒してしまえばいい。それもシュバルツの限界が訪れる前に。失敗する可能性が大きいかもしれない。でも成功する確率が少しでもあるなら、それに賭ける両方の命を救う方法はない。


 覚悟を決め牛頭に刀を向ける。


「待ってて、すぐ終わらせるから」


 これは勝てるか勝てないかなんて問題じゃない。絶対に勝たないといけない。わたしの手の届く範囲の命を守るために、もうわたしの目の前で誰かを死なせたりはしない。


 刀に魔力を纏わせ牛頭に向かい駆け出そうとしたその時、シュバルツの体から突如可視化できるほど濃密な赤黒い魔力光が体全体から吹き出し始めた。魔力に覆われたシュバルツは操り人形が紐で引っ張られるように、不自然な動きで立ち上がった。


「シュバルツ、どうしたの?」


 依然として体のいたるところから血は出ているし、肌色も悪いままだ。そんな状態で立ち上がれるわけがない。それにシュバルツは魔力を使い果たしていたはず。どこからこんな魔力を持ってきているのか。


 シュバルツは失った右腕に気付いたのか、右腕の付け根を抑えつけた。その様は傷口を潰して無理やり止血を行っているようだ。


 だがそれはとんだ見当違いだった。シュバルツの右腕があった場所に魔力の一部が移動を始めた。その魔力が寄り集まり、腕のような形を作っていく。


 そして完全な腕の形になったところで、その魔力は実体化を始める。それは左腕についているような籠手と同じ形をしているが、前腕部だけでなく右腕を完全に覆いつくす。


 何度か具合を確かめるように手を開いたり閉じたりした後、シュバルツはわたしの視界から掻き消えた。


 牛頭が宙を舞った。そこからシュバルツの独壇場だった。あれほど脅威であったはずの牛頭がシュバルツに手も足も出ず、一歩的にサンドバッグにされている。だがそのシュバルツの戦い方はひどく乱暴で、前まであったシュバルツなりの戦術というものが一切なくなっている。


 自分のケガを顧みず戦うのは前と一緒なのだが、痛みを感じていないのか腕が砕けようが再生する前にまた殴りかかっている。まるでなりふり構っていられなくなった手負いの獣のようだ。


 シュバルツの魔力が再び右腕へと集まっていく。今度は一部などではなく全部が集まっていく。


「uruaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa」


 獣のような雄たけびを上げながら、その拳を牛頭へ解き放った。牛頭の体は千切れ飛び、千切れた端から消滅していく。そしてついに牛頭は魔核だけを残し、完全に消滅してしまった。

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