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握る拳とその行方⑭

遅くなり申し訳ございません


読みづらいかもしれませんが、途中で視点が変わっています。一応視点が変わる場所には印をつけています

 牛頭を貫き粉砕するはずだった拳、しかし実際には貫くことはできず右腕は咥えられてしまっている。


「は、離して!!」


 必死に腕を引き抜こうと左腕で牛頭の顔面を殴ったり蹴ったりするが、体勢が悪くあまり力の入った攻撃を放てない。それでも諦めずに何回も何回も牛頭の顔や首に攻撃をするが、一向に顎の力が弱まる気配がない。


 牛頭はゆっくりと僕の腕を咥えたまま、まるで草食動物が草を擦りつぶすように、歯を横に動かし始めた。


「やだ……やだやだ!」

「シュバルツ、今助けるから」


 リスタルが白刃を煌めかせ牛頭に斬りかかるが、それよりも牛頭の方が早かった。


 牛頭はリスタルの刃が届く直前に嗜虐的な笑みを浮かべ、さながら断罪のギロチンのごとく一気に歯を振り下ろした。


 唐突に僕は牛頭から解放された。だけど僕の腕は牛頭の口の中に取り残され、肩口から先の腕が何もなかった。


 ――喰いちぎられた。


「あああああああああああああああああああああああ」


 腕が……腕がぁ。


 肩口からはとめどなく血が濁流のように流れ落ちている。左手で抑え何とか血を止めようとするが、そんなことで止まるわけもない。だけどそんな無意味なことをやらずにはいられない。


 血が、血が止まんない。どうしてなんで治らないの。やだ、やだよ。早く治ってよ。


 だけど近くで喚く僕がよほど目障りだったのか、牛頭はリスタルと斬り合いながら、僕を蹴り飛ばした。


 牛のような蹄が腹にめり込む。ただでさえ濁流のようだった流血はさらに勢いを増し、さらに嘔吐感と共に口から大量の血を吐き出した。


「シュバルツ!! こんのォ!!!」


 何度もコンクリートの地面を砕きながらバウンドする。その度に肺から空気が強制的に排出され呼吸困難に陥る。


 牛頭からおよそ30メートル程くらい離れたところでようやく止まった。だけど体は、指1本すらも動かせない。


 傷は魔法で治るはずなのに、一向に治る気配すらもない。だんだんと視界が霞み始め、暑さも寒さも感じないのに体が震える。


 どうして僕ばっかりこんな目に……。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 わたしは何を惚けていたのだろう。わたしは経験からあの魔獣が危険なのは分かっていたのに、それを知らないシュバルツ1人に相手をさせるなんて。いくらシュバルツが来ることが予想外であったとしても、惚けすぎだ。


 シュバルツは泣きながら戦っていた。それに気づいたのはシュバルツが地面に叩きつけられた時だ。一度撤退を促すために駆け寄ったとき、シュバルツの涙を見て戸惑ってしまった。そのすきにシュバルツは再び牛頭に突貫してしまった。


 その結果、シュバルツは腕を喰いちぎられてしまった。助けるために斬りかかったけど遅かった。


 何とか牛頭の隙を見て、シュバルツを連れて撤退しないといけない。この傷を治療せずに放置していれば、失血で死んでしまう。でもやはり思っていた通り強敵だ。隙が見つからないどころか、一瞬でも気を抜いたら斬り殺される。


「ああああああああああああああああ」


 シュバルツの悲痛な叫びが聞こえてくる。シュバルツはわたしの恩人を傷つけた許せないやつだけど、死んでほしいわけではない。


 焦りが募る。シュバルツは魔法少女ではあるが、管理局に所属しているわけではない。つまりは一般市民、守るべき対象である。絶対に守らなくちゃいけなかったのに、守れず大けがを負わせてしまった。


 急に牛頭の攻撃が重たくなった。いや、それだけではない。牛頭自身が一回り大きくなっている。最悪だ、できればこうなる前に撤退もしくは撃破したかったのに。牛頭がシュバルツの右腕に含まれていた大量の魔力を吸収してしまった。


 もうこうなってしまったらわたし一人で対処できる規模を超えてしまっている。他支部に応援を要請して複数人の魔法少女で相手をしなくてはならない。今太平洋を渡っているあの人さえいてくれたらまた話は違ったのに。


 わたしはずっとシュバルツをかばうように立ち回っていたのだが、牛頭のパワーアップのせいでそんな余裕がなくなってしまった。だんだんとシュバルツから離れていき、気が付けばシュバルツは牛頭を挟んだ向こう側になっていた。


 これでは隙を見つけたとしてもシュバルツを連れて撤退ができない。何とかして元の位置に戻ろうとするが、防戦一方な状態ではそんなことでさえできない。


 油断をしていたわけではないが、牛頭の戦斧を受け流しきれずに大きく弾かれてしまった。その時ばかりは自らの死を覚悟した。だけど牛頭は何を思ったのか反転し、千切れた腕を抑えていたシュバルツを蹴り飛ばしてしまった。


「シュバルツ!! こんのォ!!!」


 ようやく掴むことができた牛頭の明確な隙ではある。だけどシュバルツを蹴り飛ばすために生まれた隙でもある。こんな形で掴みたくはなかったが、隙は隙である。急いでシュバルツに駆け寄る。


「大丈夫?!」


 だがシュバルツから返事はなく、瞳も虚空を眺めて焦点が定まっていない。そして口から血を吐いたのか口が赤く汚れ、右腕からも血が流れ続けている。このままでは本当に死んでしまう。

あと何話か耐えればオアシスが待ってます


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