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握る拳とその行方⑬

 魔獣がどこにいるかの正確な位置までは僕には分からない。でもサイレンが、逃げまどう人たちが僕を魔獣の元まで導いてくれる。


 導かれるがまま人の流れに反し走り続け、様々な食べ物の匂いが混ざりあう繁華街に入ったとき、ついに見つけた。人垣の向こう側に上半身だけが見えている。


 でも野次馬が邪魔で近づけない。どうしよう、これじゃ魔獣を倒しに行けない。僕は魔法少女、魔獣を倒さなくちゃいけないのに……この人たち邪魔だな。


 あたりを見回すが野次馬たちは魔獣を中心に取り囲むようにして、魔獣までの進路を邪魔している。しかもここは繁華街であるために背の高い建物もなく、サソリ型の時のように上から行くこともできない。


 どうやって行こうか考えながら、野次馬を眺めているとき、あることに気付く。野次馬一人一人の間に僅かながら隙間があるのだ。子どもが一人ギリギリ通れるぐらいの小さな隙間。大人では無理だろうけど僕ならいける。


 一気に人と人の隙間に身を滑り込ませ駆け抜ける。途中何度か何かを踏んでしまったり、後ろから何か倒れる音が聞こえたけど関係ない。だって魔獣を倒さなくちゃいけないから。


 やっとの思いで人垣を抜け、魔獣への道は開けた。


 一気に牛頭の魔獣に向け加速する。なぜか牛頭は動いていないが、だけどそれなら好都合だ。動き出す前に倒してやる。


「ああああああああああああ」


 牛頭の腹に魔力を纏わせた拳が突き刺さる。走った勢いを殺さずに放ったパンチの衝撃は強靭な筋肉を砕き牛頭を弾き飛ばした。そのせいで右腕の骨は砕けてしまったけど大丈夫、すぐに治る。


 牛頭を野次馬たちに突っ込むような形で飛ばしてしまっており、野次馬たちは先ほどまでのスポーツ観戦に来たかのような雰囲気が一転、魔獣に押しつぶされないように逃げまどい始めた。


 弾き飛ばした牛頭に追い打ちをかけるべく後を追う。牛頭はダメージが大きいのか起き上がれないでいる。


「待ちなさい。不本意ですがここは協力して……」


 突然リスタルが僕の前に立ちはだかる。ああもうどいてよ。魔獣を倒してるのに何で邪魔するの。リスタルだって魔法少女なのに。


「じゃま!!」


 何か言っているリスタルを押しのけて牛頭の元へ向かう。起き上がろうともがいている牛頭に馬乗りになり、顔面にラッシュをかける。


 殴る殴るひたすらに殴り続ける。 何度も拳は砕け、砕けながらも殴り続ける。牛頭の角をへし折り、歯を砕き、顔面を陥没させる。普通の生物なら死んでいてもおかしくない傷を負いながらも、未だ牛頭はしぶとく生き続けている。


 ――GRUAAAAAAAAAAAA


 牛頭が絶叫を上げ、僕は宙に投げ出された。だが一向に地面に落ちることが無い。上昇することもなく、下降することもない。ちょうど牛頭の顔が見える位置で止まっている。それから足が何かに絞めつけられているのか、骨が軋むようなそんな痛みがある。


 牛頭の口角がニィッと、僕をあざ笑うかのように上がる。そして牛頭の、僕の拳でめちゃくちゃになった顔が赤黒いオーラを纏いながら再生していく。へし折った角も、陥没させた顔面も、すべて砕いた歯も、最初からダメージなど受けていなかったかのように戻っていく。僕がやったことなど最初から無意味だった言わんばかりに。


「シュバルツ―――――――ッ!!!」


 リスタルの叫び声とこちらに走ってきている足音が聞こえるが、それをかき消す轟音が響き渡る。空がどんどん近くなる。青々と広がる無窮の空と煌々と輝き続ける偉大なる太陽、いっしょに飛んでいるのが魔獣でなければどれだけ素晴らしい光景だっただろう。


 そんな空中浮遊も束の間、すぐに下降を始める。そして牛頭は先ほどの意趣返しとばかりに、落下の勢いを殺さず僕を地面へと叩きつけた。


 道路の舗装は砕け、クレーターのようになっている。叩きつけられた衝撃で肺から空気が押し出され、耳はずっとキーンという金属音のような音しか拾ってこない。さらに口からは大量の血が流れだす。


 全身でもはや痛みを発していない場所はなく、だけどそんな痛みもすぐに引いていく。砕けた骨も、破けた皮膚もすべて瞬く間に再生していく。


「シュバルツ、大丈夫?」


 僕は魔法少女、絶対に魔獣なんかに負けない。負けちゃいけない。大丈夫、体はまだ動く。まだ負けてない。大丈夫、だいじょうぶ、ダイジョウブ。


「いったん退くよ」


 リスタルの口が動いているが何を言っているのか分からない。だけどやるべきことならわかっている。魔獣はまだ健在だ。ならば魔法少女としてアイツを倒さないと。じゃないと僕は……僕は――。


「シュバルツ?」


 生きている意味がなくなっちゃう。


「うあああああああッ!!!!!」


 一撃で牛頭を粉砕しないとさっきみたいに掴まれてしまう。右腕に僕が操作できる魔力をすべて集中させる。


 右腕に赤黒いオーラが漏れ始め、どんどんとその勢いを増していく。同時に籠手に赤い筋が走り、熱を発し始める。


 まだ、まだ足りない。防御なんかいらない。本当にすべての魔力を集中させてッ!


「死んじゃえ――――――」


 ほんの少しだけ残していた魔力で加速し、牛頭へ一撃必滅の槍と化した拳を突き出す。その時、牛頭の嘲笑のような表情がよりいっそう深まった。


「……え?」


 拳は突き刺さった……牛頭の口の中に。

最近の夢莉ちゃん叫んでばっかりだなぁ


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― 新着の感想 ―
[一言] あとで野次馬に慰謝料や損害賠償を請求されるね。リスタルは大人のドロドロした所を一度見た方がいい。
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