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握る拳とその行方③

 その『あと』が何なのかはすぐに分かった。おばあちゃんが30分くらい経ってから戻ってきた。その手にはタオルや石鹸やらが入った袋が握られている。


「近くの銭湯までお風呂入りに行くよ」


 なぜお風呂に入るのに銭湯に行くのか。その答えは簡単、このアパートにはお風呂がついてないのだ。驚きだね。


 昨日はいろんなことが起こったせいで汗を流せてないし、今日も今日で汗をかいているからちょうどいいのだが……猛烈に行きたくない。


 お風呂苦手、というよりか嫌い。


 おばあちゃんからの好意を断るのはなんか申し訳ないし、でもあの大量のお湯の中に入ることを想像すると鳥肌が立つ。


「……行きたくない」


 あ、それにほら女湯に入るのはちょっと、まだ僕には無理、難易度が高すぎる。今僕女の子になってるけど、昨日の朝までは男だったんだよ。


「やっぱりどこか具合悪い?」

「そういうわけじゃないけど……」


 やっぱりおばあちゃんは心配するよね。できれば見ず知らずの僕に手を差し伸ばしておばあちゃんに心配をかけたくはない。


 でもお風呂は別、絶対にやだ。


「はあ、そうかい。それなら体をふくだけにしとくかい?」


 おばあちゃんは深いため息をつく。よっぽどお風呂に行きたかったんだろうな。うー、でも大量の水の中に入るなんて……やっぱり絶対無理!!


 でもおばあちゃんとっても行きたそうだし…………あれ? おばあちゃんが僕のわがままに付き合う必要ってあるのかな?


「おばあちゃんはお風呂入りに行って。僕は一人で大丈夫だから」

「え、でも本当に大丈夫? 今朝みたいに一人で倒れたりしない?」


 ああ、おばあちゃんはあの時のことを心配していのか。今度は、今度は大丈夫なはず。あの時は覚悟が固まる前に見えちゃったからだし、今度は……。


「うん大丈夫。だからほら、おばあちゃん入ってきなよ」

「それならお言葉に甘えましょうかね」


 そういうと、ルンルンとスキップでもするような足取りの軽さで階段を下って行った。ほんとにおばあちゃんはお風呂が好きなんだなぁ。そんな事を思いつつ、僕は部屋に引っ込んだ。


 だというのに、おばあちゃんは再び戻ってきた。お風呂に入って来た、というには時間が経っていなさすぎる。それこそ5分も経っていない。そしておばあちゃんに手にはいろいろな物が満載されていた。


「はい、これが清潔なタオルね。それからバスタオルに、石鹸、桶でしょ。あとこれが今日の寝巻で……あ、あと変な人が来るといけないから私が行ったら部屋のカギは閉めるのよ。それから――」

「もういいから。ほらおばあちゃん早く入ってきなよ」


 なおも続けようとするおばあちゃんの背中を押し、無理やり銭湯に向かわせる。あのままじゃなし崩し的におばあちゃんがお風呂に入れなくなりそうだったし。


「はあ、体拭こう」


 この時の僕はあることを失念していた。それは体を拭くためには、服を脱がなければいけないということ。それに体を見なければちゃんと拭けないし、拭くためには体に触れなくてはいけない。


 それはちょっと……いやかなり恥ずかしい。


 それなら拭いたことにして今日はやめておくか。でも昨日もできてないし、今日も結構汗かいたからベトベトして気持ちが悪い。


 そして悩んだ末に、結局は汗が気持ち悪いという感情が勝ってしまった。要するに大人しく体をふきます。


 だがせめてもの抵抗として早めに済ましてしまおう。この際少しテキトーになるのは仕方がない、と割り切る。それに少し汚れている程度だったらあんまり気にならないし。


 覚悟を決め一気にTシャツの裾を握り頭から抜く。だがTシャツの下にはもう一枚布が、肩ひもで吊るされたシャツのようなものがあった。うう、そうだよね、下着付けてるよね。


 せっかく覚悟を決め一気に脱いだというのに肩透かしをくらい、さらにはもう一度覚悟を決めなくてはならなくなった。でも一回は出来たんだ、もう一回ぐらいどうってことない。そう自分言い聞かせもう一枚脱ぎ去る。


 そしてなだらかな双丘と、その頂上の桜色がお目見えする。肌は白く絹のように滑らかで、それゆえに肌と桜色のコントラストが芸術作品のようだ。しかしその芸術作品を切り裂くように、胸の傷を始めとする傷跡がそれを台無しにしている。


「なんだか醜いな」


 ついさっきまで感じていた気恥しさはなりを潜め、自分自身に対する嫌悪感が鎌首をもたげる。両親から貰い、魔法少女ヴァルキュリアによって守られたこの体を傷物にしてしまった。


 なんと愚かで罪深いのだろう。


 それにこの傷たちは僕の罪の証でもある。僕が正義の人々によって裁かれたときに負った傷である。全部全部僕が悪いのである。僕があの災害で生き残ってしまったから……。


「はやく終わらせよ」


 このまま体を見ていてもいい事は何もない。ただ鬱々とした気持ちになるだけ。それならば早く終わらせて、さっさと服を着てしまおう。そうすれば全部ではないがこの傷跡を覆い隠して見えなくなる。

これは誰が何と言おうともお風呂?回だ。異論は認める


思ったよりか長くなってしまったため、2話に分割しています。続きは来週です。お楽しみに!!


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― 新着の感想 ―
[一言] オフロカイダネヤッター 体の傷は正義の人々(笑)につけられた物だったんですね…
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