新たなる日常へ⑧
「た、倒せた?」
魔獣が光の粒子となり消え去っても、どこか僕が倒したという実感がわかなかった。昨日は逃げ回ることしかできなかった魔獣に、リスタルの手助けもあったけど、自分の手で魔獣を倒したということが、どこか夢のような感覚すらも覚える。
だけど警察や野次馬の歓声によりだんだんと実感が持ててきた。
「僕が倒したんだ」
ふと、魔獣がいた場所に宝石のような結晶が落ちていることに気付く。その結晶はだいたい500ミリリットルのペットボトルの蓋ぐらいの大きさで、絶えず光の反射で色を変化させている。
ただなぜだろうか、その結晶から魔力の波動?のようなものを感じる。だからとりあえずは拾ってみたものの、本当になんだろこれ。
「……ってそんなことよりリスタルは!?」
魔獣は倒したし、病院とかに連れて行った方がいいよね。血いっぱい出てたし、なんか変色してたし。でも僕一人で運ぶのは、ちょっと厳しい。
あれ、こういう時って変に動かしちゃダメなんだっけ? そうだ救急車を呼べばいいんだ。あ、でも僕ケータイ持ってない。
「お手柄ね、シュバルツ! …………ってどうしたの、そんなお化けでも見たような顔して」
「リスタル大丈夫なの?」
「ええ、大丈夫よ。そもそもあの毒だって魔獣の一部なんだから」
確かにリスタルは血の気も戻ってきているし、変色していた場所は元の肌色に戻っている。よかった、僕のせいでリスタルが死んじゃったりしないで。
「そうだ! リスタル、これ何かわかる?」
先ほど拾った結晶を手のひらに乗せリスタルに見せる。
「んー? どれどれ……これは魔核だね」
「マカク?」
「えっとね、簡単に言うと魔獣の体内で生成される魔力の結晶…………らしい」
「へー、そういうのがあるんだね」
「この結晶って何かに使えるの?」
「魔法少女によっては魔法を使うための触媒として使う人もいるし、あとは魔法に関する研究でも使われたりするかな」
じゃあ僕が持っていても宝の持ち腐れかな。僕の魔法はそういうの使わないだろうし、それならリスタルに渡したほうがいいかな。
突然人の壁を、さながら旧約聖書のモーセのように割りながら、一台の車がやってきた。その車の側面やボンネットには、六芒星の背景に箒にまたがった少女という、管理局のマークが入っている。
その車からスーツを着た一人の女性が下りてきた。とてつもない美人だが、目の下の隈やヨレヨレのままのスーツと、どこか疲れた印象を受ける。
「お疲れ様リスタルちゃん。それと野良の魔法少女ちゃん」
明らかに管理局の職員だ。どうしてこんなところに職員がやってくるのだろうか。
「あれ、今日は令華さんが来たんですね?」
「ああ、暇だったからな」
絶対嘘だ。暇な人の装いじゃない。家に帰れていない会社員のようなスーツ姿に、暇な人がなるわけがない。
「あ、シュバルツこの人は魔法少女の監督官なの。簡単に言うと魔法少女の活動を裏側でサポートしてる人なんだよ」
「初めまして、飯田令華です。えーっと、君はシュバルツちゃんでいいのかな?」
僕は無言で頷く。この人はリスタルの反応を見る限りいい人なのだろう。でも膝を折って僕と目線を合わせるのはやめて欲しい。ちっちゃい子みたいに扱われているようでなんか嫌だ。
「そんなに警戒しなくても大丈夫よ。あなたが何か大きな問題か何かを起こさなければ、私は貴女の意思を尊重するから。でも管理局に所属してくれると嬉しいな」
意思を尊重すると言ってはいるが、本心は分からない。そう言った直後に勧誘をしてくるし。それに政府側からすると野良の魔法少女なんて、目の上のたんこぶだろう。魔獣の対応だけでなく、野良の起こす面倒ごとの対処までやらなくてはならない。
それなら所属した方がいいのだろうがこの人たちの役に立つのだろうが、でも大人は信用できない。あいつ等は平然と嘘をつく。守ってくれるって言ってたのに守ってくれなかった。一番助けてほしい時に手を差し伸べてくれなかった。それどころか手痛く振り払われた。
だからあの監督官とかいうやつも信用できない。どうせ僕のことを知ったら態度を変えるに違いない。
「大丈夫、怖がらなくていいの」
ふと顔に影がかかる。何かと顔を上げてみると、手が迫ってきていた。
「いやッ!!」
その手が僕に触れる前に振り払った。だが振り払った際に感じた感触は、手と手がぶつかり合った反発しあうような感触ではなく、何か硬いものを砕くような感触であった。
「……!?」
監督官は蹲り、腕を抑えている。よくよく見てみると指や腕があらぬ方へ曲がっている。
もしかして僕のせい? いや違う。僕はこんなことをしたかったわけじゃない。ただ手を振り払っただけで、なんでこんな。
「令華さん!!!」
リスタルが大慌てで駆け寄っている。
「シュバルツ、あなた自分が何をやったか分かってるの?!」
リスタルからまるで噛みつくような視線を向けられる。
「違うちがうチガウ。僕のせいじゃない。違う」
「何をブツブツ言ってるの!!」
ダレかの手が僕の肩に触れる。途端に体が、頭が恐怖に支配される。そして衝動的にその手を振り払って逃げ出してしまった。
「シュバルツ、どこに行くの!!」
「追わなくていい。私が不用意に頭をなでようとしたせいだから」
後ろで何か話し声が聞こえたが、それを気にする余裕はなかった。
あれ、この主人公逃げすぎじゃね?
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