新たなる日常へ⑦
今日は2話投稿しています。まだ前話を読んでいない場合はそちらからお読みください
防御は不完全だったけど、何とか出来たというのに、勢いは止められずそのまま後方に弾き飛ばされた。
「り、リスタル大丈夫?!」
リスタルの頬からはかなりの量の血が流れだしている。
「このくらいなら、大丈――」
リスタルは立ち上がろうと膝を立て腰を浮かせるが、体が持ち上がることはなくそのまま前のめりに倒れた。
「……リスタル!?」
慌ててリスタルの体を抱きとめる。そこでようやくリスタルの体に異常が起こっていることに気付いた。
リスタルの体は氷のように冷たくなっており、細かく震えている。さらに健康的な肌色をしていた肌は、蒼白を超えもはや白くなっている。その白の中で頬の傷周辺だけ様子が違った。紫色に変色しているのだ。
「なに、これ?」
意味が分からない。どうしてリスタルがこうなっているのだろうか。原因は明らかに頬の傷だろう。でもなぜかは分からない。
でもリスタルがケガをする原因を作ったのは僕だ。僕がちゃんと気付いて避けていたら、こんなことにはならなかった。
傷自体は尻尾の切っ先がかすった程度だから、とても浅いだろう。それなのに一向に血が止まることがない。
その時、急に野次馬たちから悲鳴が上がり始める。そちらの方に視線を向けると、なんと魔獣が野次馬に襲い掛かろうと移動を開始していた。
「行かなきゃ」
何としてでも魔獣を止めなくてはならない。僕のせいで動けなくなったリスタルの代わりに、僕があの人たちを守らなくてはならない。
「待って」
魔獣に向けて駆け出そうとしたとき、倒れ伏したままのリスタルから静止された。
「リスタル、大丈夫なの?」
「大丈夫じゃない。多分毒にやられた」
サソリ型の魔獣、確かに毒を持っていても不思議はない。
「あなたはまだ魔獣と戦うの?」
一瞬リスタルから何を聞かれたのか分からなかった。だって魔獣と戦うのか、なんて聞かれるとは思ってもいなかったし。
「もちろん。僕はあの魔獣には勝てないと思う。でも今僕が戦わないと、あの人たち全員が殺されるから。だから僕は戦う」
それに今頃そんな質問をされても困るというか、そもそも戦う気がなければこんなところには来ていない。
「もし、もし勝てる方法があると言ったら、あなたは命を賭けれる?」
「もち――」
「よく考えて! この方法は失敗したらあなたは廃人になるのよ!! あなたは野良の魔法少女、魔獣と戦う義務はないのよ」
魔獣に殺されようと、廃人になろうと別に僕の命なんて惜しくない。それで誰かの役に……誰かを助けられるというのなら安いもの。
「それでも僕は魔獣と戦う」
「わかった。今からやるのはシュバルツの魔力をわたしが無理やり操作するって荒業。それで何とか魔獣と戦えると思う。でも失敗したらほんとに廃人になっちゃうけど……いいのね?」
僕は無言で頷く。リスタルは何とか上体を起こし、僕の手を握った。
「行くわよ」
その刹那、僕の中にナニかが入ってくるような感覚に襲われる。しかもそのナニかは中をぐちゃぐちゃにかき回して何か探しているようだ。
嫌だ、なにこれ気持ち悪い。……僕の中から出てってよ。
あまりの気持ち悪さに目に涙がたまり始める。
「拒絶しないで受け入れて! じゃないと……じゃないと廃人になるわよ!!」
そういわれてもなかなかに厳しいものがある。でも受け入れないとあの人たちを助けられない。我慢して受け入れろ。我慢して受け入れろ。我慢して……。
「うぁぁぁぁぁああああ!!??!!??!?!?!」
最大級の気持ち悪さに襲われ、その次の瞬間気持ち悪さは消え、体の奥底から力が湧いてくる。
「成功……した」
リスタルのホッとした声を聴き、この感覚が何なのかを悟る。リスタルによって無理やり流れる道を作られ、全身を魔力が廻っている。
「これなら勝てる!!」
魔獣に一気に駆け寄り、その勢いを殺すことなくそのまま魔獣に殴りかかる。
魔獣が完全に無警戒だったこともあるだろうが、見事に魔獣の側面にクリーンヒットし、魔獣の堅牢な甲殻に再びヒビを刻み込んだ。
さらに魔獣が体勢を整える前に、そのヒビに連撃を叩き込む。前までなら殴る度に骨が砕け、痛みで拳が鈍っていただろう。しかし魔力で強化された今、骨が砕けるどころか痛みすらも感じない。故に鈍ることなく連撃をたたき込める。
だんだんとヒビは拡大していく。だが甲殻を砕く前に魔獣が体勢を整えてしまった。
魔獣の尻尾がこちらを向く。だが今度は気付くことが出来た。紙一重になってしまったけれど、ちゃんと避けることができた。
地面から引き抜かれる針からは、得体の知れない液体が滴り落ちていた。
危なかった。僕もあれにかすりでもしたら、リスタル同様動けなくなっていただろう。そうなれば詰みになっていた。
魔獣は体勢こそ整えたが、明らかに動きが鈍っている。ダメージはちゃんと通っている。
「ならば一気に押し切る」
多少のダメージは気にする必要はない。尻尾の針以外なら、かすった程度すぐに治る。
だからこそ魔獣の攻撃を最小限の移動でやり過ごす。その間すらも魔獣への攻撃は怠らない。
そしてようやく、バキッという音と共に魔獣の甲殻が砕け散り、下の柔らかい肉が日の下に晒された。
「うぉぉぉぉおおお!!!」
体を廻る魔力が右腕に集まってくる。籠手には赤い光の筋が走り、赤い靄が漂い始める。
そして甲殻の隙間にフルスイングで、右腕を叩き込む。腕が肉に突き刺さり、そして衝撃波が魔獣を突き抜け、魔獣の体を内側から蹂躙する。
魔獣は一、二回痙攣した後、ついにその体を地に伏せた。そして光の粒子となり、分解されていった。
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