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新たなる日常へ③

 朝ごはんといっても僕の部屋にはまだなにもない。一応備え付けで冷蔵庫なんかもあるが当然空っぽだ。どこからか買ってくるにしても、僕はお金を1円も持っていない。


「なにをボーっとしてる、おばあちゃんのとこで食べるよ」

「あ、はい」


 おばあちゃんはもう玄関で靴を履いている。それに急いでついていく。


 僕が今使っている部屋は203号室で2階にある。それに対しおばあちゃんの部屋は1階の101号室で階段の上り下りがあるのだが、おばあちゃんは年齢を感じさせない軽快な足取りで下っていく。


 そしてたどり着いたおばあちゃんの部屋は、僕が今使っている部屋と違い、当たり前だがちゃんと生活感があった。


「ちょっとテレビでも見て待ってて」


 そう言うとおばあちゃんは台所へ引っ込んでいった。


 テレビなんて見たのはいつ以来だろうか。施設にいたころでさえあまりテレビは見れてはいなかった。

 だから少しワクワクしていたのだが、どのチャンネルも面白くもないニュース番組しかやっていなかった。でも考えたら今は平日の朝、ニュースしかやっていないのは当たり前である。


 テレビは諦め他に何か面白いものでもないかと辺りを見回す。そうしたら部屋の隅っこに紙の束が無造作に置かれている。勝手に見てはいけないと思いつつも、他に何も面白そうなものがないため、つい見てしまった。だが見て後悔した。


 『人殺し』『お前が死ねばよかった』『税金泥棒』などなど、どの紙にも心無い言葉の羅列があった。そしてその言葉はすべてが僕に向けられたもの。

 嫌な記憶が呼び起こされる。周囲にいる大人も子供も僕を汚物を見るかのような目で見て、さっきの言葉と同じことを口走りながら正義を振りかざす。


 なんでここでも。もう耐えられなくなって逃げてきたのに、なんで追ってくるの。


 不意に手に持っていた紙が取り上げられた。


「ごめんね、すぐ片付けようと思っていたの。嫌な気持ちにさせてごめんね」


 おばあちゃんが僕が持っていたのも含め、すべての紙をゴミ箱へと捨て去った。


「さあ、朝ごはんを食べましょう」


 いつの間にかテーブルの上には朝食が並んでいた。そのメニューはスクランブルエッグにウインナー、付け合わせのレタス、さらにはトーストとコーンポタージュと洋風だった。正直なところザ・日本の朝食が出てくると思っていただけに、とても意外だった。


 温かい食事というのは久しぶりだった。以前はたまたま知り合ったコンビニの店長に、賞味期限切れのお弁当を譲ってもらっていた。それもおいしかったのだが、どうしても冷たかった。


 だからこそおばあちゃんの作ってくれた食事は、涙がこぼれるほどおいしかった。


「ごちそうさまでした」


 おばあちゃんはニコニコと嬉しそうに、食器を片付けに行っていた。


 そして残された僕は今日何もやることがないために、そのまま惰性でテレビを見続けている。


 昨日の魔獣災害についてやってる。僕のことに関しては何もないな、どうしてだろ。あ、昨日僕が襲われた場所だ。ここだったんだ。ダメもとでカバンがないか見に行ってみようかな。


 そうと決まればすぐに行動に移そう。あ、でも勝手にいなくなったらおばあちゃん心配しちゃうかな。ちゃんとつたえてから行こうっと。


「おばあちゃん、ちょっと外出るね」

「んー? どこに行くんだい?」

「……ちょっと探し物を探しに」

「そうかい、ちゃんと帰ってくるんだよ。もうここは貴女の家なんだから」

「はーい」


 意気揚々と飛び出したまでは良かったが、場所が分かったが道が分からないで迷いに迷った。なんとかたどり着いたものの、黄色いテープが張り巡らされ、立ち入り禁止になっていた。場所を調整してなんとか路地裏を覗き込むも、当然カバンはなかった。


 うー、どっか飛んでいちゃったのかなぁ。どこにいったんだろ、僕のカバン。


 その後も見れる範囲で周囲を探してみたが、どこにもカバンはなかった。


探すのを切り上げ、トボトボと帰路についたその時だった。突然けたたましいサイレンの音が響き渡る。これは救急車でもパトカーのサイレンでもない。魔獣が現れたときになる、魔獣警報だ。つまり魔獣が発生したというわけだ。


「行った方がいいよね」


 正直僕が行ったところで何も役には立てないかもしれない。実際昨日はリスタルが来てくれなければ、あの魔獣の腹に収まっていたかもしれない。


 そんな僕だけど一般の人が逃げるまでの時間稼ぎくらいは、僕の魔法ならできるはずだ。

野良の僕には魔獣が出たからといって、退治しに行く義務も責務もない。だけど僕の手にしたこの力は本物で、この力を使えば誰かの役に立つことができる。


 僕にとって理由はそれだけでいい。僕はこの力を誰かのためにだけ使う。それがあの人との約束であり、僕が生きながらえた理由でもあるから。


 魔獣の場所はサイレンと共になっている放送で分かっている。ならばそこに向かう以外の選択肢はない。


 だって今の僕は魔法少女なのだから。

夏休みも明け講義が始まったため、小説のために割ける時間が減るので、投稿頻度を週1まで落とそうと思います。




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