表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/55

プロローグ

 僕は炎に包まれ崩壊した街を全速力で逃げていた。どのくらいの距離がまだあるか確認するため、後ろを振り向く。するともう近くまで狼のような化け物が迫っていた。


 焦った僕は少しでも距離を開けようと、曲がり角をそのままのスピードで曲がろうとした。が、舗装がはがれてできた穴に足を取られ、倒れてしまった。これを見逃す化け物ではなかった。化け物は大きく口を開き、飛び掛かってきた。


「だれか……助けて!」


 誰も来ないと分かっていても、叫ばずにはいられなかった。誰も他人を助ける余裕なんてない。こいつ以外にも化け物はいて、みんな自分の身を守ることで精いっぱいなのだから。もし助けてくれる人がいるとしたらそれは、よっぽどなバカか、それとも――


「やらせない!」


戦う力を持っているものだけだ。


 彼女は神話の女神のような衣装を身にまとい、槍を手に携え颯爽と現れた。そして彼女はあの化け物の頭を一瞬のうちに砕き、倒してしまった。そして不思議なことに、化け物の体が光の粒となり、宝石のような塊を残し消滅した。彼女はその石を回収したのち、こちらに振り返った。


「大丈夫? ケガない?」

「大丈夫、です」

「うそ、ほら膝擦り剥いてるじゃない」


 彼女はどこからともなく取り出した絆創膏を貼ってくれた。


「ありがと」

「うふふ、いいのよ。そんな事よりもぼく、お母さんかお父さんは?」


 さっきまで化け物に追われていた恐怖と、それから解放された安堵感で忘れていた。しかし聞かれたことによって、思い出した。思い出してしまった。


「パパとママはね……あの化け物にね……たべら……」


 食べられちゃった、と言い終わる前に彼女に抱き締められた。


「ごめんね、言わなくていいよ」


 さらに彼女は優しげな声色で言葉を重ねる。


「怖かったよね。でももう大丈夫だよ。お姉ちゃんが守ってあげるから」


 その言葉のせいか、僕は彼女の胸でワンワンと泣いてしまった。その間も彼女は優しい言葉をかけてくるから、収まりがなかなか付かなかった。


 涙が引き彼女の胸から顔を上げた。もう6歳にもなって、大泣きしてしまった事が恥ずかしく、恐る恐る彼女の顔を見上げた。だが彼女はなにか満足したような顔だった。


「うん、落ち着いたみたいだね。それじゃ向こうに自衛隊がいるから保護してもらって――って1人じゃ危ないか」


 彼女は1人でぶつぶつ呟いた後、手をこちらに差しのばしてきた。


「安全な場所まで一緒に行こうか」


 僕は彼女の手を握り、「うん」と頷いた。


周りからは化け物の唸り声や人の悲鳴がこだましている。さらに少し離れたビルの影からは、異形の巨人の姿が見え隠れする。彼女は明らかに戦う力を持っている。そんな彼女が僕なんかに構っていて大丈夫なのだろうか。


「大丈夫だよ。絶対に守ってあげるから」


 不安が顔に出ていたのだろうか。彼女はこちらを見ずに、安心させるように言い放った。


「あの、でもほんとに大丈夫なの?」

「うん、お姉ちゃんの仲間はみんな強いから」


 そこからはたわいもない話をしながら街の外側へと歩みを進めた。この話の中で知ったのだが、彼女は魔法少女とかいうものらしい。ちなみに名前はヴァルキュリア。それであの化け物――魔獣と彼女は呼んでいた――と戦っていたらしい。あ、ちなみに僕の名前は衛藤夢莉(えとうゆうり)だ。


「え!? 恩返しがしたいって? いいよそんな、無理しなくても」

「でもしたいの!」

「うーーーん……それじゃあ強い男になって」

「強い男?」

「そう、ただ力が強いんじゃなくて、自分のためじゃなく誰かのために動ける、強い人に」


 こんな無駄話ができるくらいには、魔獣とは遭遇しなかった。周りからは依然として様々な声が響いているというのに。これはやはり彼女……ヴァルキュリアお姉ちゃんと一緒にいるからなのだろう。このまま何事もなく逃げられるに違いない。


 だがそんな希望も次の瞬間打ち砕かれた。

 大きなビルの横を通り抜けようとしたその時、上の方から何かが降ってきた。それが何かなど確認する必要はない。まず間違いなく魔獣だ。


 落ちてきた何かは、ゆっくりと自らが作った土煙の中から出てきた。そいつを一言で表すなら鬼。筋骨隆々な体、頭には巨大な角、そして手には棍棒のようなものを持っている。はるか頭上から向けられる眼光は鋭く、見る者をすくませる。


 ヴァルキュリアお姉ちゃんは鬼を見るや否や、突然僕を抱え元来た道を引き返し始めた。しかもものすごいスピードで。だがお姉ちゃんの体に隠れて見えないが、後ろからドスドスと重たい足音が響いている。何よりも恐ろしいのが、だんだんとその足音が近づいているということだ。


 お姉ちゃんの顔を見上げると、こちらを安心させるように微笑んでくれる。おそらくだがお姉ちゃんだけなら逃げ切れるだろう。僕を助けてくれた時は、光のように速かった。だから僕はもしかしたら捨てられるかもしれない、という不安に駆られお姉ちゃんにしっかりとしがみついていた。


 だが不幸はこれだけに終わらない。


――ワォォォォォォォォォン


 この鳴き声とともに、狼の群れが現れた。もちろんただの狼ではない。ほとんどの狼は少し前にお姉ちゃんが倒したやつと変わらない。だが1匹だけほかの狼と比べて二回りも大きく、さらに首が2つもある。


 お姉ちゃんは慌ててブレーキをかけ、僕を後ろに隠し武器を構えた。

 前方に鬼、後方に狼の群れ。いくらお姉ちゃんが強くとも、こんな数相手に勝てるわけがない。僕もここで死ぬんだ。パパとママみたいにあの魔獣たちに食べられてしまうんだ。僕の心が絶望に染まっていく。


「――大丈夫だよ。お姉ちゃんは強いから」


 お姉ちゃんは魔獣の群れに突っ込んだ。勇猛果敢に戦い、1体、また1体と魔獣を倒していく。しかし常に僕から、つかず離れずの距離を保っている。そう常に僕を守れる距離で戦っているのだ。お姉ちゃん、すごい。


 そんなお姉ちゃんに、狼が焦れたように一斉攻撃を行った。さすがのお姉ちゃんもこれはつらいらしく、なかなかさばけないでいる。


――その時、僕の体が大きな影にすっぽりと覆われた。


 後ろを振り向くと鬼が棍棒を振り上げているところだった。

 鬼の顔が一瞬嗤ったかのように、口角が上がった。そして棍棒が振り下ろされる。


「だめぇぇぇぇ!!」


しかし棍棒が僕をつぶすことにはならなかった。突如飛来した銀色の棒のようなものが、棍棒を砕き、そして鬼の堅牢な表皮すらも砕き、鬼を刺殺した。

 だが僕はその時の衝撃をもろに受けてしまい、吹き飛ばされてしまい、そして棍棒のかけらがこちらに――。


 痛い、痛いいたいイタイ! なにこれどうなってるの!?

 胸からドクドクと血が流れだしている。そしてだんだんと意識が遠くなっていく。

 あぁ僕……死んじゃうのかな。


「死んじゃダメ! 生きるのを諦めないで!!」


 え? なんでお姉ちゃん、そんな泣きそうな顔してるの?


「……ッ!? よかった。もうすぐ自衛隊のところに着くからね。それまでの辛抱だよ」


 そして僕の意識はまた闇に閉ざされていった。

書いたあとで文章力のなさに悶えています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ