1、転生
私は死んでしまいました。
思えば非凡な人生
心休まる暇も、心許せる友もいない悲しい人生でした。
誰も好きになれず、何にも心動かせない
悲しい人生…
もし、やり直せるなら
私はーーーーーーーーー
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「村人Aにしてください!」
『ええぇえ…?』
何も無い真っ白な空間
そこに私は神様と呼ばれる存在と立っていました。
神様は浮いていたので、立っていたのとはちょっと違いますが、まぁそれはどうでも良い事です。
『いや…あのですね?次の人生では何にでもなれるんですよ?それこそ、私と同じ、神にだって…』
「村人Aにしてください!」
再度同じ答えを私は返しました。
何度聞かれても覆すつもりはありません。
神様と名乗った彼は複雑そうな顔をしました。
『あーえー…私はですね?貴女をとても気に入ってまして…不幸にして亡くなった貴女を違う世界では幸せにするべく、貴女を貴女の望む力を持つ存在にと…』
「ですから、それが《村人A》なんです!!」
何度も云ってるのに結構しつこい神様です。
このやり取り何度めでしょうか?
『…貴女の決意が固い事は分かりました…でも、何故《村人A》なのか…聞いても宜しいですか?』
神様が何だか悩ましげに眉を寄せ、額に手を当てて聞きました。
なので素直に答えます。
「神様は、死ぬ前の私をご存知ですよね?」
『…ええ、ずっと見てましたから…』
あ、ちょっとストーカーっぽいって思ったのは内緒です
『誰がストーカーですか!』
って神様が怒ったので、心読めるんなら理由聞かなくも良いのでは…と思ったのですが、必要な時以外はなるべく読まないようにしてるそうです。
…今は必要な時だったのでしょうか?
まぁ良いです。
「私は…とある財閥の令嬢として生まれました。」
生まれた時から、お金持ち
身の回りの何もかもを使用人がしてくれました。
欲しがって手に入れられない物など無かったし、望めば何だって叶いました。
ただひとつーーー
容姿だけは平凡でした。
チビで重っ苦しいペタっとした黒髪にそばかすで陰気で内向的な性格
必然的に人と関わるより読書などが好きで、小学校三年になる時には眼鏡をかける程、目は悪くなってました。
平凡というより、平凡以下
ですが、両親は私を可愛がってくれました
妹が生まれるまではーー
妹は私と違い華やかで、ふわふわの淡い茶色の髪にとても綺麗な顔立ちで明るい性格をしていました。
好かれるのも道理です。
妹が生まれてからは私は両親に疎まれるようになりました。
表立って殴られたり、罵倒された訳ではありませんが
「貴女は出掛けるの好きでは無いわよね?」
お母様にそうニッコリと云われ、休日は私を置いて、三人で出掛けて行きました。
服は姉である私が妹のお下がりを着るようになりましたが、妹用なので全然似合っておらず、滑稽で、使用人には陰で笑われる始末
でも、私はそれでも良いと思ったのです。
自分が好かれる人間かどうかは、物心付いた時に既に理解していましたから
学校でも、直接的には虐められたりなどしませんでしたが、誰も私に声を掛けず、連絡事項などあっても教えてくれない為、突然の移動教室などでは一人で置いてけぼりを食ったりして先生に注意されました。
幸い勉強は出来たので成績には困りませんでしたが、それも余計に気に入らなかったようで、よく靴が無くなったり、私物が消えたりしました。
そしてある日
私の高校入学直前
両親と妹が出掛けの事故で亡くなってしまいました。
遺産を相続したのは私。
後見人はあまり会った事の無い親戚でした。
父の兄とか云ってましたが…見た目からして遊び人風でした。
彼等は屋敷にやって来ると、自分達が屋敷の主人であるかのように振る舞うようになりました。
人の目があるせいか、表面的には私に対して好意的に接していましたが、実の所は私の相続した遺産を好き勝手したいだけでした。
そして、今迄妹に媚びを売っていた方々が今度は私に媚びを売るようになりました。
中には妹に言い寄っていた男性も居てーー
ちょっと危ない時もありました。
私は未成年だというのに何を考えているんでしょう?
ですが、私も護身術を習っていたので自分で撃退出来ました。
ええ、助けを求めても使用人は元より誰も助けてなどくれませんから
二度と悪さ出来ない程度には相手の方を痛め付けました。
可哀想?自業自得です。
お飾りとはいえ、父の会社も継いだものですから、視察と云う名のガサ入れをしてみました。
巧妙に隠していましたが…まぁ出るわ、出るわ不正の証拠
父が関与していたのもあれば、幹部達の独断とか、部下の着服とか、情報の漏洩などもありました。腐ってますね。
なので掃除しました。
全部
幹部はほぼ真っ黒なので切りました。
仕事もしないお飾り連中でしたので
あとは能力はあるのに、無能な上司のせいで不遇を強いられていた社員を昇進させ、上司は窓際、もしくは左遷しました。
元々有って無きような方々なので居なくなっても被害はありません。
スッキリしましたが、当然恨まれました。
会社の株も大暴落しましたが、まぁこの程度ならすぐ取り戻せます。
そしてーーー
物語の中だけかと思いましたが、命を狙われました。
本当にあるんですねぇ…ちょっと感心しました。
多分、私の後見人の親戚でしょう
私が居なければ、彼等が遺産を相続するのですから
流石にこれを一人で撃退するのは無理なのでボディガードを何人か雇いましたが、やはり金で動く人間は信用出来ませんね
何人かは親戚に唆されて、私を守っているフリをして、わざと危険に晒すように動いてました。
ですが他の数名は真面目に私を守ってくれました。
金で動いてくれてるとはいえ、彼等は私がこの現実で唯一信用出来た人間かもしれません。
ですがーーー
感情移入するのも考えものですね
私を守るべき彼等の窮地に…私は命を投げ出してしまったのです。
ああ、泣き声が聞こえます。
彼等が私を囲み泣いています。
死なないでくれと泣いています。
お金…だけでは無かったのでしょうか?
冷たくなっていく身体とは真逆に
とても温かい気持ちで目を閉じました。
思えば非凡な人生でした。
お金持ちの令嬢に生まれ、遺産相続、お家争い、金目当ての男に言い寄られたり、汚職や、暗殺…
本来ならこの役はチビで十人並み以下の容姿の平凡な私では無く
美人で聡明で凛とした方が良かったのでは無いのでしょうか?
当然、遺産放棄なども最初は考えましたが、そうすると、父の兄を名乗るあの方に金を使い込まれて終わりです。会社も潰れたでしょう。
与えられた役目を無責任に投げ出して、それで全てが破滅するのを見ているだけ…は私には出来ませんでした。
だからーーーー