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異世界での二度目の人生は孤独死を回避したい。  作者: 森山
第二章 旅は道連れ、世は情け  ドミナシオン編
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8.ドミナシオン編


「懐中時計、古めな地図、変装用魔道具、杖、使えるかわからん硬貨、換金用傷薬瓶、護身用ナイフ、羊皮紙束、インク壺、魔術式ストック束、小粒と中サイズ大サイズの魔石数十個、救急箱、遭難用非常食、野宿用テント一式、緊急帰還転移魔道具!よし、全部持った!問題ない!その他もろもろ必要になりそうな道具は空間拡張付き鞄とポーチに全部にぶち込んだ!」


 一ヶ月の特訓を終え、熟練度が少し成長した俺ですどうも。

 そんな俺の今日の装備はクローゼットの中にある服や物置部屋にあった物で取り繕った。

 上から淡い色合いの白の外套に、その下には黒ボタンが映える厚手の白いコートと白いボトム。両手両足には黒い皮手袋と皮のブーツ、腰のベルトと足ベルトには《空間拡張》と《重量軽減》、《時間防止》、《腐敗防止》の魔術式が施された大容量ポーチが四個。長い黒髪を結えば上から下まで立派な旅人風少年の出来上がりだ。


 目の前には輝く大きなセーブクリスタルのような魔石。俺はここから旅立つ。


 がっつり一ヶ月、とことん満足するまで検証とソロ特訓をした。

 もうすることはないと本日早朝六時、俺は旅人姿で二階のポータル部屋へと突撃したのだ。 気持ちもう二ヶ月は特訓したかったが、これ以上おひとり様生活を続けていたらこの便利な浮遊島から一生出なさそうである。人を引きこもりにする島。なんて素晴、いや、恐ろしい。

 それに、何かあればこの浮島へ一瞬で帰ってこれる方法はある。

 このポータル巨大魔石は世界の大陸数カ所に同じものが設置してあるのだ。元は一つのでかい魔石だったらしい。しかもそれらはすべてクデウさん個人の隠しポータル。これ使ってレアな素材やバターや牛乳を買いにいっていたのだろう。

 ポータルから浮島のポータルへと転移ができる他、持ち歩けるサイズの小型ポータル片の術式を起動させればどこからでもこの浮島へと帰ってこられるのだ。とても便利。

 転移の行き先は四箇所、人族が多く住むゲシェンク大陸、獣人族のクティノス大陸、森人族、竜人族、山人族が住んでいるアルマディナ大陸、魔物の巣窟ハーオス暗黒大陸、各大陸へと繋がっているようだった。

 その一つ、人族の大きな街の近くポータルへと行き先を決定した。獣人族の大陸も気になるが、何分見目は森人容姿でカラーは人族のものだ。人族の国の方が色々と誤魔化せそうだし都合がいい。


 第一、目標はまず、人族の街の様子を観察し、他種族や世界の情報を集めること。


 第二に、お金を換金すること。あわよくば街に一週間過ごせたら尚良し。


 クデウさんの物置を漁ったら硬貨っぽい物はごっそりと出てきた。だが、クデウさんが亡くなった後どれぐらい時間が経過したのかがわからない。もし通貨が古くて使えなかった時のため、確実に売れるだろう小さめのサイズの魔石を売ってお金にしようと思っている。そして、余裕があれば新しい地図もほしい。


「目標もある、準備もした、忘れ物はないな?あとは飛び出す勇気だけ…!」


 飛んだ瞬間、地獄絵図のような場所だったらどうしよ。ちびって速攻帰ってくる。


「ええい、旅立つ前から弱腰でどうする…!男だろう!いくぞ!あいきゃんふらーい!」


 飛び降りることはしないが鼻息荒くポータルを起動させた途端、眩い輝きが俺を飲み込み複雑な術式が何重にも発動するのを肌で感じた。転移するための魔力をぐんっと吸われる感覚、あ、割と魔力食うのな!

 目の前の景色がぐにゃりと歪み、瞬きする間もなく周囲の光景が様変わりした。


「………どこだここ」


 転移先は真っ暗な洞窟内部だった。お先真っ暗な旅立ちかよ。






「…森の中かーい…」


 どこからから野鳥の鳴き声やら木々の葉が息づく音が聞こえる。俺、絶賛森の中。


 ポータルの転移先が真っ暗な洞窟内部。照明の術式を使い細道を照らしながら進むと行き止まりへと行き当たった。

 出口はないのかと壁伝いにそっと手を置くと隠蔽系の自動魔術式が発動する。浮島にあったドアのセキュリティと同じような術式だった。 岩壁に触れた者の魔力を読み込み、特定の誰かと認識したら鍵が開く仕組み。術式が発動した途端、別の洞窟へと道が開きその先へと進むと森へと出たのだ。

 生物皆魔力を持って生まれるが、その魔力は人それぞれ違う魔素パターンがあるらしい。DNAとかそんな感じだろうか。浮島のドアもそうだが、クデウさんと俺の魔力波はほぼ同じと言っていいのだろう。


「しっかし、居場所を特定されないための処置なんだろうけど…」


 森へと繋がる大きな岩山の隠し入り口、そこにも感知阻害で隠された鍵術式が仕掛けてあった。よく見ると特定の人物以外が入り口の術式に接触した途端、連動して中のポータルが破壊する術式も仕組まれてあった。おひとり様拗らすとこうなるんだなと勉強になる。


「ところで。街ってどっちだ…?」


 古そうな地図は持っては来たが、どちらが北でどちらが南すらわからなかった。ならば、


「高い所から周辺を見るか」


【対象】※※【重力】※【操作】※【浮上】※※【高度】※【維持】


 術式を靴底中心に全身の服へと掛け、真上へと飛び上がった。空中に浮かぶ系はまだちょっとなれない。

 あたり一面の森を見渡せるほど上昇して止まる。広大な自然溢れる土地だ。一面の緑でぱっと見人工物がみえない。

 後方には大きく白い雪化粧をした山脈が地平線まで続き、その山脈のふもとには広い大森林が広がっていた。山脈の反対側を向くと大森林の境目が見える。森の先は広い草原が広がり、その草原を突っ切るように細い道が続いていて大きな湖と町らしきものが見えた。


 古い地図が未だに正しいのならば、ゲシェンク大陸の中央から少しずれた付近に転移されているはずだ。

 大陸の北半分がエマナスタ王国領土、南半分がオルディナ王国領土。ここら一帯はそのエマナスタ領地で見えるのがエーベネの街、の筈。多分。


「流石にあそこまで飛んでいくのは危険だよな。森の入り口付近の街道に降りて歩いていくか。」


 のんびり歩いて行っても一時間もかからずに街へ到着するはずだ、日が暮れることはないだろう。森の中を歩きか!と少しわくわくした。

 引きこもり生活が長いとなんてこともない行動がわくわくに繋がるのだ。自然はいいね、目に優しい。と、


「……ん?」


 木々の間から見え隠れする街道へと視線を向けたその時、何かが動いて見えた。あれは、


「…第一村人発見……って訳じゃなさそう」


 人だ、街道に人が見えた。それも複数、馬に騎乗して街道を駆けている。なんであんなに急いでるんだ?

 森すれすれの高度まで下がり、馬を全速力で走らせてる集団を木々の上から観察した。服やローブに迷彩術式を掛けているから、彼らには俺の姿には気づかないし見えないだろう。


※※(追え)!!※※※※※※※(森を抜ける前に)※※※※(捕まえろ)!≫


 異世界言語だ。言ってる事がわかる。


≪久々の上玉だ!逃すなよ!身包み剥いで売り飛ばして酒飲むぞぉ!≫


 まさかの追い剥ぎ、しかも人攫い。嫌な第一村人もとい、第一盗賊だった。

 盗賊らしい荒くれ野郎ども計八人は大地を轟かせ街道を掛け進む。 その街道の先を見ると、馬に乗った二人の姿が見えた。

 木々の間を馬の速度より早く飛び進み、追いかけられている二人組へ近づくと若い女の子の声が耳に届いた。


≪オネ!追いつかれるわ!≫

≪わかってる!≫


 追われ逃げているのは若い二人組みの女の子だった。

 もう少しで平原へと抜けられる間際、森の入り口付近に盗賊の仲間であろう男が弓矢を構えて待ち伏せていた。

 それに気づいた手綱を握ってる赤髪の方が避けようと身をよじる、が間に合わない。


≪フィー!つかまって!≫

≪オネ!きゃあっ!≫


 空を切る二本の弓矢の一本は赤毛の肩へと深々と刺ささり、もう一本は馬の足へと掠る。

 その衝撃で二人を乗せた馬は驚き二本足で立ち上がってしまい、馬の上の二人は投げ出されて地面へと転がってしまった。


(…やばい、どうしよ)


 ああ、彼女達の馬は無情にも主人達を置いて逃げ出してしまう。

 木々の間から一部始終を見ていた俺の心臓はバクバクと高鳴り出していた。旅立った直後、まさかこんな場面に出くわすなんて。助けるべきか?


(相手は盗賊九人…)


 できなくはないだろう、タイミングを見計らって奇襲をかければ。 魔術を使えば子供ほどの戦闘力しかない俺でも複数の男達を吹っ飛ばせる。

 だが、いいのだろうか?

 まだ世情に疎い状態だというのに、後先考えずに横やりを入れてもいいのだろうか。

 そんなことを考えている間に、追いかけてきた盗賊達は二人組の女の子をあっという間に取り囲んだ。


≪手こずらせやがって!観念しな、お嬢ちゃんら≫

≪っ、手を出すなら痛い目に合うぞ!≫

≪おーおー威勢がいいねぇ、そんな女は嫌いじゃねえな≫

≪フィー、下がって!≫

≪オネ!動いちゃダメ!肩に矢が…!≫


 赤毛のオネと呼ばれる人が、濃紺色の外套姿のフィーという人を庇うように立ち上がる。

 腰から短剣を抜いて盗賊達に向けるが、弓矢が刺さった肩がなんとも痛そうだった。


≪その肩でよく動けるな?ほら、やれるもんなら痛い目にあわせてくれよぉ!≫

≪…こいつらは私がどうにかする、フィーは≫

≪!オネを置いて逃げれるわけないでしょ!一緒じゃないとダメよ!≫

≪おーおー!泣けるねぇ!俺、こういうのに弱いんだわ!≫


 盗賊達がゲラゲラと笑い始め、逃がさないとばかりにジリジリと二人に詰め寄る。


(同じだな、俺もそういうのに弱いんだ)


 皮肉げに口の端がひきつる。迷ってる暇はない。

 目の前で若い女の子二人が大の大人九人に寄ってたかって追い剥ぎされてんだ。どっちが悪いかなんぞ一目瞭然。そっと丁寧に素早く術式を組み上げ、


≪さあ、身包み全部もらおうか、お嬢ちゃ≫


 盗賊が二人に手を伸ばした瞬間、俺は組み上げた短縮術式を展開させた。面前に術式の輝く文字が浮かび上がる。食らえ、一ヶ月の特訓の成果!


【対象】※【九人】※【電撃】※


 刹那、閃光が走り、轟音が森に響いた。


≪ぎゃっ!?≫

≪ぐぇっ≫

≪がっ!?≫


 くぐもった複数の悲鳴、バタバタと地面に倒れこむ音、音に驚いた馬達が砂煙を上げ駆け逃げっていく。


≪……え?≫

≪な、なんだ…?≫


 唖然とする二人組みの周りには盗賊9人、全員が地面に転がってる光景が広がっていた。






 ※※※※※






「……え?」

「な、なんだ…?」


 一瞬の閃光、稲妻のような轟音。


 何が起こったのかがわからない。地面に伏せっている盗賊はピクピクと身体を微かに痙攣させ全身を硬直させている。雷のような音に驚いたのか、盗賊の馬達は一斉に逃げてしまった。


「…何が起こった?」

「オネ、誰か近くにいる。…魔術を発動したんだわ」


 周辺の魔力がとても濃くなったと不安そうに呟くフィーの声、冷たくなった彼女の手を握りしめる。

 周囲を警戒するが魔術を使った張本人の姿は見えない。たしかにザワザワと眉間が痛みを覚え、周囲の魔素がざわついてる気がした。


(盗賊の次は()()()か、くそ、やっかいだな)


 高額で取引されてる魔術札は使い捨ての物ばかりだ。使い捨てなのに高額なのは強力だから。

 その一度限りの高い魔術札を使う場面は限られてくる。本当に危機的状況で切り札として使うもの。


(足止めの魔術札を使って切り抜けようと考えてたけど…消費せずに済んだ。と素直に喜ぶべきか?)


 胸元に忍ばせてある魔術札は盗んだ物だが、これからどう状況が転ぶかわからない。温存できるものはいざという時のためにとっておいた方がいいだろう。

 もう残りひとつの()()()をいつでも発動できるように魔力を意識する。


(けど、何者だ…?魔術札を使う人物なんて)


 誰しも使う事を渋る魔術札を複数の盗賊相手に使うという大盤振る舞い。 規模からして魔術札を数枚使ったはずだ。

 あたし達を助けるため? 余程の金持ちか? それともまさかもう()()が…?いや、そんな事はありえない、追いつけるはずがない!


「オネ…」

「…大丈夫、どうにかする」


 やわらかな細い指が弓矢で射抜かれた肩に触れた。それだけで痛みが軽くなる気がした。

 アイツらの手の者だとしても。誰だとしても。なんとしてもフィーだけは守る。その為になら、何だってしてやる。


「何処にいる!?隠れてるんだろう!姿を見せなければ敵と判断するぞ!」


 気配すら感じない相手に言い放つ。このまま動きがないようなら盗賊どもの馬を奪って街へ逃げ込むのがいいだろう。人混みに紛れれて撒けば勝機はある。

 ジリジリと森の木々へと身を隠そうとしたその時、街道から逸れた正面の茂みの向こうからがさりと物音がした。


「ぁ、あの、だい、じょうぶ、ですか…?」

「!そこで止まれ!」


 茂みの向こうから姿を見せたのは、淡い白色の外套に身を包んだ小柄な人物だった。

 深々とかぶっているフードで顔がはっきりと見えないが、声と背丈からして子供だろうか。敵意が無いとばかりに両腕を上げ、手のひらをこちらに見せるように広げている。


「…礼を言う前に確認したい。こいつら…盗賊の仲間、ではないな?」

「ぇぁ、はい!ぐうぜん、とおりすがっただけの、た、旅人です」


 幼げな声、舌ったらずでぎこちない喋り方だ。まるで喋り慣れてないかのような。


「…彼らを、動けなくしたのは、私です。おどろかせてすみません」

「!そうか、お前が…」


 確信は出来ないが、身につけている物は質が良さそうだった。

 身なりからして何処ぞかの貴族の坊っちゃんだろうか、お忍びで旅を?たった一人で?貴族なら最低数人の従者を側に置くはずだ。なのに他の気配は無い。


(なら、貴族では無い)


 萎んだはずの警戒が一気に上がり、痺れで覚束ない剣先を白外套の者へと向けた。途端、白外套は驚いたのか硬直して立ちすくむ。


「オネ…!待って!あの子、私達を助けてくれたのよ、剣を下げて!」


 相手が子供と知ったからかフィーから緊張が抜けたのがわかった。目の前の外套姿の人物を庇うように私の前へと出ようとする。


「あなたが助けてくれたのね、危ない所をありがとう。オネ、お礼を言わなきゃ」

「フィー、前へ出てはダメだ!何を隠し持ってるわからない。それにまだ魔術札を持ってるかもしれないんだぞ」

「……魔術札?」


 首を傾げたのか、白いフードがふわりとゆれて色素の薄い髪の毛が見え気がした。


「とぼける気か?盗賊相手に使った魔術だ、閃光か電撃の魔術札を使ったんだろ?」

「…いえ、魔術札というものは使っていません」

「嘘をつくな!魔術式でも書いたっていうのか!」

「…そうです、私自身が魔術文字の術式を組み立て発動させました」


 こんな風に、と上げていた片手を正面、私達へと向けるように動かした瞬間、空中に輝く文字が踊った。


「…魔術士…!?」


 まさかこんな子供が!?文字が発動し閃光のような光が走った。咄嗟に剣を向けるが間に合わない!


「ぎゃっ!!」

「!?」


 バチリ!と先ほど聞いた音が耳に響き、私たちの背後から男の叫び声が聞こえた。

 いつの間にか立ち上がっていた盗賊が剣先を私達に向けていたのだろう、その盗賊が仰向けに痙攣するように地面へ倒れ込んでいる。


「…すみません、この魔術は気絶させる事は出来ません。電撃で一時的に身動きを出来なくさせるものです。成功しましたが、個人差ですぐに動ける人もいるみたいです」


 ゆったりとした喋り方で白外套の人物は深々と被ったフードをするりと後方へ落とした。そのフードの下から現われたのは、


「ここを離れるか、彼らを縛り上げるかしないと危険です。…どうしますか?」


 艶やかな長い黒髪に、黒色の瞳が()()()()()だった。






 ※※※※※





 

「………」

「………」


 赤毛さんと紺色マントの二人組美少女がフリーズしている。


 警戒を解こうとフードを下ろしたのだが、更に混乱させてしまったのだろうか。

 殺気立っていた赤毛の人も紺色マントの人もこちらを見てぽかんとしている。変装魔道具ちゃんと効いてるよな…?

 こちらもこちらで心臓が跳ね上がっていた。

 初めて対人戦での魔術に初めての異世界人との現地語会話。オマケに若い女性二人組相手で緊張もストレス値も爆上がりだ。

 脳内辞書のおかげで難なく聞き取れるし喋ることも出来るが、圧倒的に経験不足でぎこちない喋りになっている気がした。

 こっちもテンパってるが、赤毛の人は驚きながらもこちらを警戒して剣を向けたまま。赤毛さんの緑色の眼光はとても鋭い。視線だけで殺されそうだ。

 とはいえ今は盗賊だ。そんなに強力な電撃を食らわせてはいない、今のうちに動けなくするのが得策だろう。


「外套の下に鞄があります。その中に縄が」

「おい、動くなと…!」

「彼らを縛らなければ。…ゆっくり出しますから、斬りつけないでください」


 敵対心はありませんよアピールを続けているが、赤毛の彼女はなかなかに警戒心が強いらしい。なるべくゆっくりとした動作で鞄から縄を引っ張り出す。いざという時の縄、必要になるかもと色々と過剰に突っ込んできた内のひとつだ。

 彼女たちを刺激しないように近場の盗賊から両腕を縛り上げ、上げ、クソ重い!この野郎うつ伏せにならない!しかもなんか服ばっちい!臭い!風呂ぐらい入れよ糞野郎!


「……。……手伝う」

「!あ、はい、おおお願いします…」


 頼りないと思われたのか、警戒モードを緩めた赤毛さんが剣を鞘へ納めて手を差し出してきた。非力な少年ですまなんだ、中身おっさんだけど。

 赤毛さんに縄の束を渡すと、怪我人なのに手早く盗賊の両腕と両足を縛り上げていった。ものの数分で九人仲良くお縄となる。

 食らわせた電撃で体が痛むのか、おっさんどもが呻く声がなんともいえない。


「…彼ら、どうしましょうか?」

「ここより東の街、ケントルムダソスで暴れまわってた盗賊どもだ。彼らの縄張りに運悪く入ってしまって目をつけられたんだ」


 油断したと反省がにじむ声。赤毛さんの横顔を見上げるとグリーンアイズがクールな美少女だった。

 くせっ毛で目に鮮やかな赤毛、しなやかな細身にモデルばりの長身。歳の頃は17歳ぐらいだろうか、なんだがその顔からは濃い疲労が見えた。


「こいつらに懸賞金がかかってるかもしれないが…このまま放置しておけばいい、見るからに盗賊供だ。誰かが通ったらそいつが街の憲兵に知らせるだろ。ついでた、こいつらの武器金目のもの全部ぶんどって売り飛ばしてやる」

「オネ、肩の傷を早く手当てしなきゃ、見せて」

「待ってフィー、矢を抜いてないから出血は少ないだろ?森を抜けた先、見晴らしのいい所で頼む。森の中…盗賊の近場じゃ落ち着かない」

「…わかった」


 紺色マントさんは肩を落としてそわそわとしている。赤毛さんが肩の矢をそのままにして動くから心配しているのだろう。


「…先ほどはすまなかった、助けてくれた礼をしたい。…街まで一緒に来てくれるか?」

「危ない所を本当にありがとう…!」

「…は、はい…」


 お礼というより尋問されそうな雰囲気でオネさんに見つめられた。眼光の鋭さに震えそうになる。お家帰りたい。






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