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異世界での二度目の人生は孤独死を回避したい。  作者: 森山
第四章  スローライフにはまだ早い  就職活動編
36/62

34.就職活動編

 

 穏やかな朝だ。


 頬や手に触れるのは少し硬めな枕と石鹸の香りがするシーツ。 清潔な布団の中での目覚めは至福そのものだった。

 午前の眩い日差しが窓から差し込む中、俺は寝汚く芋虫のように布団の中へと逃げ込んだ。


「…サクマ、二度寝したら朝ごはん食べれなくなっちゃうわよ?」

「んんー…」


 丸まってる俺を優しく抱きしめる暖かな体温が包む。

 ぼやける視界にはヘーゼルナッツ色の長い髪。細い指がふにふにと頬をくすぐり、密着する柔らかな体がとても暖かくて気持ちいい。


「…うう…おき、まう…」


 額をシーツに押し付けてもごもごと呻いていると子猫みたいでかわいい、なんて声が聞こえてくる。

 女子のかわいい発言は口癖とか鳴き声みたいなもんだって俺は知っているぞ。

 のそりとシーツから起き上がれば、白い寝間着姿のフィエルさんが青い瞳を細めて微笑んでいた。


「おはよう、サクマ」

「おはようございます…ふぃえるさ…ひゃっ」


 彼女は俺を抱き寄せて頬に小さなリップ音を落とした。 寝ぼけた両目を瞬かせながら見上げると彼女は満面の笑みで頬を差し出している。

 恥ずかしさで呻きそうなのを堪えつつ、俺はそっとフィエルさんの頬に唇を寄せた。


「…ふふっ、サクマの口付けくすぐったい」

「な、慣れてないんです、この挨拶…!」


 一気に眠気が吹っ飛んで顔が熱くなった。


 魔力持ちへの偏見に奴隷問題が蔓延る北のドミナシオン領。 そんな物騒な国で出会ったのが聖女ジョブのフィエルさんと赤髪のイケメン女子のオネットさんだ。

 そして、混血児ボーイである俺ことサクマ。 中身は日本人の魂を宿した三十五歳おっさんである。

 異色の三人組パーティの俺たちは協力し合い、どうにかこうにか南のオルディナ領へと国外逃亡に成功した。


 亡命組みの俺たちの次の目的地がオルディナ王都になり、正統派イケメンのイロアス隊長に個性豊かな女騎士の精鋭部隊、宮廷技師のフラーウさん達との旅路になった。

 魔物とのエンカウントや初魔物狩りを体験をこなしてオルディナ王国へと到着!

 したのだが、俺の混血児モドキ設定のせいで一悶着も起こってしまった訳で。

 一触即発間際、ラウルス国王陛下とカダム宰相と交渉し互いが納得出来る所で話をつけた。


 魔物に襲われ傷ついた村人達の治療や第二王子のイズロヴィオ殿下の体を治療をした事で、ラウルス陛下はとても感謝しているようだった。

 国王陛下曰く、()()が確認できるまで王宮で暮らしても構わないと言ってくれたのだが。

 城のゲストハウスでの暮らしはVIP待遇であり、二十四時間つねに護衛騎士やメイドさん達に囲まれる生活になる。

 贅沢な暮らしを堪能できるものの、ぶっちゃけると息苦しい環境だった。

 国王陛下は親切だし、宮廷高官やお貴族達の褒め言葉の数々はまだいい。 しかし、因縁があるドミナシオン領から来た俺たちをどこか敬遠したり、物珍しい目で見てくる人物も少なくなかった。

 そんな暮らしが続けば嫌でもストレスはたまる。

 特にフィエルさんのストレスがピークに達しまい、俺を抱っこ人形のように抱きしめては離さなくなる症状が出始めた。

 治癒の力を持っている故にドミナシオン帝都で酷使され続けてきたフィエルさん。 もしかしたら王宮の場はトラウマを呼び起こすのかもしれない。

 そんなこともあり、俺達は城下町の宿へと移って一週間になる。


 晴れて自由の身!制限はあるが魔力持ちだろうが魔術を使おうが(もちろん、それなりの制限はある)虐げられないぞ!

 ――というには、まだ少しやっかいな()()が残っていたのだ。


「ああ?お前らまだ寝台でゴロゴロしてるのか」

「あ、オネ!おかえり!」

「オネットさん、おかえりなさい」


 気配ゼロで扉を開けたのは、鮮やかな赤髪がまぶしいイケメン系女子のオネットさんだ。

 防具皆無の軽装なのに腰の厳つい双剣が割と目立つスタイル。


「今日も魔物は狩れましたか?怪我は…」

「怪我は無い。仕留めたのは牛っぽい魔物で割とでかいヤツ一頭で、手のひらサイズの赤魔石一個で二十万オーロ。 他の部位は全部素材にして売ったから今日の稼ぎだけで合計七十万オーロ!小銀貨六枚だぜ! 狩人組合様々だな」


 そこら辺を散歩して来た風だが、彼女は一人、オルディナ王国の東側の平原へ魔物狩りに出かけていたのだ。

 城から出た一週間前、オネットさんは魔物狩りを生業にしている狩人を束ねる狩人組合の実技試験に一発合格で狩人資格を得たのだ。

 彼女が剣を握る姿は何度か見てはいたが、剣の腕は強い部類に入るらしい。 狩人組合のムキムキ試験官のおっさんが感心していたほどだ。


「お疲れ様、オネ。 お風呂入ってゆっくり休んでね」

「ん。 フィー、何かあったらすぐに通信魔石で知らせて」

「ふふっ、わかってる」


 フィエルさんがオネットさんの頬にキスをし、オネットさんもフィエルさんの頬にキスを返す。 その照れを一切感じない二人をぼんやりと眺めてしまう俺。


 安堵の現れか自由になった気持ちの緩みなのか。 オルディナ城から出たフィエルさんは朝や寝る前に頬にキスをするという映画の中だけで見るような挨拶をし始めた。

 ドミナシオン領やオルディナ領、それぞれの村や町を駆け足ながらも見ては来たが、人々の挨拶は片手での動作や握手、せいぜい感極まってのハグだったと思う。

 頬へのキスやリップ音だけのエアーキス、頬と頬を合わせるチークキスのそれらは親しい人向けの挨拶で、ドミナシオン領やオルディナ領にもある習慣らしい。 ただ、大衆の面前や他人の目がある所ではやらないのがマナーだという。

 両親や兄弟や姉妹、親友への挨拶という名の愛情表現。 そこら辺は地球の海外諸国の挨拶に似ている。 日本じゃ馴染みの無い挨拶だ。俺にとっては恥ずかしいことこの上ない。


 ともあれ、長身の赤毛イケメン女子と聖女ジョブ美少女がその身を寄せ合う光景はなんとも、


(うーん、絵になる…)


 かっこいい女の子とかわいい女の子が戯れる構図はなんとも絵になる。 素晴らしい、心が浄化されそうだ。


「昼頃には起きる。 サクマ、フィーの見送り護衛頼んだぞ」

「あ、はい、わかりまうぎゃっ」


 オネットさんの片手が伸びたかと思うと俺の頬にくすぐったい感触がかすめた。

 いわゆる頬に挨拶をされたのだ。 このイケメン女子、俺が挨拶チッスを恥ずかしがっていると知ってるくせに仕掛けてきやがる!

 案の定、してやったりとばかりにオネットさんが緑色の瞳を輝かせていた。


「ぎゃってなんだ、ぎゃって。 ああ? あたしに口付けされるのは嫌か?うん?」

「ひぇ、首に吸い付かないでくださ、ぎゃわっ!」

「あーっ、私も仲良ししたいー!混ぜて!」


 若い子は朝から元気いっぱいだ。




 オルディナ王国の中心街から離れた東地区。 その端っこにある寄宿舎で俺たちは寝泊まりしている。

 狩人組合が経営している寮のような施設だ。


 狩人組合。 オルディナ国民を魔物の被害から防ぐ自警団のような組織でもあり、腕さえあればかなり稼げるのが狩人職だ。あれだ、モ〇スターハンターに似ているな。

 勿論、魔物を狩るということは生死にかかわる大怪我を負ったり、魔物に殺されることも少なくはない危険な職でもある。

 報酬は狩った魔物から獲れる素材の売買価格で左右され、特定の魔物の討伐依頼が出ていたら上乗せで依頼者から金一封も貰えるんだそうだ。

 近年の魔物の増加に伴い、赤魔石の需要の高さもあって高額で取引されているらしい。

 そんな危ない職に身を置いているのは血の気が多い奴か腕に覚えがある奴ら、訳ありの奴らが集うイメージがある。 しかし、荒くれ集団に見える狩人組合は割と福利厚生がしっかりしていた。


 新人狩人が狩りの経験と稼ぐ量が安定するまでの数か月から半年ほど、私生活のフォローをしてくれるのが狩人寄宿舎なのだ。

 魔物を狩る狩人職は国の防衛に無くてはならない存在らしく、新人育成は考えられているようだった。多少の金は掛かるが、普通の宿屋で泊まるより格段に安いのでお得だ。


 寝室は一人部屋だったり数人部屋があったりと空きがあれば好きに選べる。 ただし、お風呂やトイレに洗面台が男女別で食堂が共同。 そんな寄宿舎で働いているおじさんおばさん達が出来立ての料理や洗濯をしてくれたりと至れり尽くせりな状態だ。


 俺らの寝室は女性専用東館の二階にある二人部屋。

 ベッドを二つ置けばミチミチになる十畳あるかないかの小さな部屋だが、日当たり良い窓辺にしっかりした収納家具も備え付けてあるそれなりのいい部屋だった。

 本来なら狩人の資格がない俺とフィエルさんは泊まれないのだが、国王陛下の口添えもあって特別に許可をもらっている。

 さらに言えば男性専用の西館に俺は泊まる予定だったのが…。 フィエルさんが俺を一緒じゃないと安眠できない!と主張した結果同室となった訳で。 俺は悪くねぇんだ!


 風呂に向かうオネットさんと別れ、俺とフィエルさんは服を着替えて一階の洗面台で仲良く並んで歯と顔を洗った。 いざ朝飯をと食堂へ向けて一歩踏み出した瞬間、フィエルさんが俺の肩をぐっと掴まれた。

 そんな彼女の片手には木の櫛と紐がしっかりと握られている。


「今日はどんな髪型にしよっか?」


 めちゃいい笑顔ですね~フィエルさん~。


「……。…フィエルさんにお任せします…」

「ふふっ、今日もかわいく結ってあげる!」


 降参とばかりにおとなしく鏡の前に舞い戻った。

 国境門を越えてからというもの、彼女はかいがいしく俺の身支度をしたがった。 最近はエスカレートして俺の髪型まで弄るほどに。

 毎日飽きないなぁと黙って彼女の鼻歌を聞きながら鏡を見つめていると、数分もしないうちに毛色が少し変わった三つ編みボーイが出来上がった。


「三つ編みかわいい! サクマの髪、とっても綺麗で長いから弄り甲斐があるわ!」

「ワァー、カワイー、アリガトウゴザイマス…」


 上出来とばかりにフィエルさんが満足気に笑う。

 フィエルさん、もしかして俺の男の娘化計画を企んでいるのでは…いやまさかな…。

 慣れない髪型に違和感を感じて頭を動かせば長い三つ編みがゆらりと背をかすめた。 なんだかこそばゆいなこれ。


「ほら、こうすればお揃い!」


 ご機嫌な彼女の声に振り向くと、ヘーゼルナッツ色の長い髪が三つ編みになって揺れていた。

 お、おそろ三つ編み…だと…!かわいい美少女とおそろい三つ編みの三十五歳独身男性。 字面の破壊力すごい。 

 ちなみに昨日はポニーテールだった。 なんだって女の子っておそろい好きなんだろう? 一緒にする事で仲間意識が強くなるんだろうか? 共有、共感を何かと大事にするもんな女の子って。

 しかし、頬をほんのり赤くして楽し気に笑う彼女を見ていたらちっぽけな男のプライドはどうでもよくなった。 野郎の髪で良ければ気が済むまで弄り倒してくれ。


「うーん、でも何か物足りないわ…そうだ!サクマの白銀の髪に似合う髪飾り買おうっか!」

「そ、それは不要です…」

「ええ~っ、今度一緒に買いにいきましょ!お給料出たら奮発しよ?ねっ」


 ぎゅむりと抱きしめられたが、レースリボンやらガール用のアクセサリー類はアウトです。


「…おれじゃなくてオネットさん用に買いましょう」

「はっ!いいわね、それ!オネの髪も伸びてきたし、何が似合うかしら!」

「すっごいカワイイ物にしましょう」


 フィエルさんはきらきらした目で提案し始めた。 かわいく着飾るというイベントを回避できたぞ!グッジョブ俺! オネットさんグッドラック。


 明るい午前の陽射しに照らされた廊下を進めば賑やかな気配が強くなった。

 一階には共同の洗面台の他にお風呂場や女性用トイレにリネン室が並び、中庭には訓練場も覗いている。 中庭の奥に見える建物が男性用の西館。 訓練場には数人の新人狩人らしき男女が手合わせしているようで、微かに剣がぶつかる金属音が聞こえてきた。

 廊下をまっすぐ進んで右に曲がれば男性西館と女性東館をつなぐ中央館にたどり着く。

 中央館にはちょっとした会議室に大きな食堂と厨房、治療室、各狩人施設と連絡ができる通信室があり、緊急時に全狩人へ通達がいくようになっているんだとか。 ここを案内された時には設備がしっかりされてるんだなと感心したものだ。


 朝帰りの狩人とすれ違いながら食堂へ向かうと、数人の狩人の笑い声の合間からパンやベーコンが焼かれている美味しそうな匂いが鼻をくすぐった。


「サクマちゃん、フィエルちゃん、おはよう!おいしい乾酪(チーズ)豚肉の腸詰め(ソーセージ)が入ってきてるよ!」


 木製のテーブルの合間をエプロン姿のがっしりした中年女性がトレーを持って声をかけてきた。 俺達の顔を見つめると、茶色のくりっとした目が優し気に細まる。


「あらあら!二人ともお揃いの髪型ね、仲良しだこと!」

「おはようミテラさん!ね、かわいいでしょ! ふふっ、ほんとに美味しそうな匂いね、今日のおすすめ定食ひとつ!」

「おはようございます、ミテラさん。えーと、おれもフィエルさんと同じものをお願いします」

「あいよ!おすすめ定食二人前ね!」


 本日のおすすめ定食二人前!とミテラさんの通る声が厨房へと向けられた。 厨房の奥からはオーダーの復唱が聞こえ、四人の男衆が調理してる様子がちらりと見える。

 そんな厨房と食堂を区切るカウンターを、ミテラさんが行き来してはメニューを運んだり食器を回収したりと朝から忙しそうだった。

 東地区の狩人寄宿舎のボスとも言えるミテラさんは元狩人らしく、結婚の際に狩人職を引退して裏方職についたという。 給仕やら洗濯や掃除、なんでも豪快にこなしてしまうパワーあふれる肝っ玉お母さんだ。


「あ、オネが買ってきて欲しい物あるんだって」


 空いている席に着くと、フィエルさんが小声でポケットから楕円形の魔石を取り出して見せた。 その透明な魔石の表面には輝く文字が踊っている。

 内容は、『サクマへ、狩りの時に双眼鏡壊れた。暇してたら代わりの物を買ってきて。代金は後払いで。オネ』とあった。


「双眼鏡…ってどこにあるんでしょうか」

「うーん、中心街の道具屋なら大体置いてるんじゃないかしら? 狩人や旅人には必需品だし」

「じゃ、フィエルさんが治療所にいる間に買いに行ってきますよ」


 パシリは祖父母相手に何年もやっていたから得意である。

 上着の胸ポケットに忍ばせている楕円形の魔石を取り出し、その表面に魔力を帯びた指を滑らせてゆっくりと文字を綴った。


「双眼鏡の件、承知しました。サクマ…っと」


 魔石の表面には光り輝く文字が浮かび、指先の動作一つで輝く文章が点滅して消えていく。 すると、数秒後には別の文面が光り輝いて踊った。


「助かる、おやすみ。だって!ふふっ、ほんと便利ね!サクマが改良してくれた通信魔石!」


 フィエルさんがウキウキとばかりに楕円形の魔石を握りしめた。


 彼女達が通信魔石と呼んでいる楕円形の魔石は、元々はドミナシオン帝都でオネットさんがパクった魔石らしい。

 両手サイズ程の大きさの魔石を二つに割った物で、微量の魔力を流せば両方の魔石が光るという半端な術式を施された質の低い魔石だった。

 二人は光るだけという仕組みを利用し、簡易的な合図を考えモールス信号のように使っていたのだと言う。

 三キロ離れてしまったら信号が届かなくなるらしいがなんともたくましい子たちだ。 その時の二人の状況を考えたら目頭にグッときたのは内緒。


 宮廷で寝泊まりしている間にこの魔石の事を知り、僭越ながら俺が魔改造させてもらったのだ。 魔石自体の質を上げるために不純物を取り除き、手持ちの魔石を混合させてから半端な術式を書き換えて高度な術式をブッ込んだ。

 更に信号が届く距離を三十キロにまで引き伸ばし、光るだけという単純な動作を文字を送るという機能に改良。 ただし、一度の送信で送れるのは百文字だけという制限付き。

 文明機器スマホと比べればかなり劣るがポケベルよりはマシ、そんな所だろう。

 一文字一文字を指先でなぞって入力する手間があるものの、信号を受けたら点滅通知機能もつけた。 いざという時のために通信魔石自体に位置特定ができる術式も施してある。 ちなみに俺用にも同じものを作った。

 俺とフィエルさんにオネットさん。 どの魔石からでも文字を発信すれば三人全員に届くという強制一斉送信なので秘密のやり取りはできない残念仕様。

 これらの簡易通信魔石は魔道具レベルの機能になってしまったので、ルールに従って申請と許可はきちんと取ったので問題はない。


「音声通話とかもっと細かな機能をつけたかったんですが…材料不足なんですよね」


 携帯電話に近い物にしたかったが本音だ。 だが、浮島から持ってきた魔石は残りわずかだったこともあり、それを足してもパソコンでいうメモリが足りなかった上にHDD容量も足りなくて個別機能を付け加えるには限界があった。 通話できるまでとなると質のいい魔石が多く必要になってくるのだ。


「何言ってるの、サクマ!これだけ便利になったのよ?十分なぐらいよ」

「だといいんですが…」

「もー、サクマは心配症ね」


 フィエルさんに頬をプニプニされた。

 可愛い子が褒めてくれているというのに、素直に褒め言葉を受け取れなくなってしまったのはいつからだろうか。 すっかり捻くれたおっさんになってしまった。


(クデウさんならもっと便利な物を作れただろうな…)


 この少年ボディを SSR素材や禁術盛り盛り術式で作り上げた張本人、クデウ・ソフォス・ハエレティクス。 大賢者とまで言われた人物だ。

 隠された日記を盗み読みしたイメージは、クデウさんは天才型の変人…もとい、筋金入りの職人気質な魔道具発明家だと思う。

 大賢者やら人族と獣人、竜人族との戦争の元凶やら戦犯やらと呼ばれていた彼だが、存命ならとんでもない着眼点と発想、特級の魔力と技術力で便利魔道具をしこたま作って文明に革命を起こしている事だろう。


(この体のことで聞きたいことも山ほどあるのにな…)


 残念なことにクデウご本人は五百年前に死んでしまっている。 ガチで惜しい人を亡くしたと思う。


「はーい!今日のおすすめ朝食定食二人前!お待ちどうさま!」

「わあ、美味しそう!」


 ぼんやりと魔石を眺めていたら、目の前にどどんとワンプレート定食が置かれた。

 ミテラさん今日のおすすめ朝食は、焼きたてのパンと厚めに切られたチーズ、茹でたてソーセージとカリカリのベーコン、飲み物に牛乳。 しかもフルーツのデザート付きという贅沢なメニューだ。 まさに海外!な朝食である。


豚バラ肉(ベーコン)一枚オマケしといたからね」

「嬉しい!ありがとうミテラさん!」

「あ、ありがとうございます、頂きます」

「子供が何畏まってるんだい!おかわりあるからね、遠慮なくしっかり食べてしっかり大きくおなりよ!」


 あっはっはっ!とばかりにミテラさんがズイズイと食堂を闊歩していく。

 彼女の言うとうり、チーズは濃厚な味がしてソーセージは歯ごたえがある粗挽き食感でとても旨かった。

 旅の間も人が作ったご飯を頂いていたが、自信で作るよりとても味が繊細に感じる。何より新鮮な材料で作りたてで暖かくてとても美味しかった。


 甘く感じるパンに濃厚なチーズを咀嚼しながら俺は考えを巡らせる。


(…一度、浮島に帰るのも手かなぁ)


 俺が目覚めた浮島には質のいい魔石素材が大量にある。

 浮島から持ってきた魔石の素材は、国境門の時にドミニス公爵へ九割渡してしまったし、通信魔石で手持ちの魔石を更に消費して残りは小粒の魔石が三個ほどしかないのだ。

 座標と転移場所さえ整っていればドミナシオン領にあるポータル地点を経由せずにオルディナへと戻ってこれる。

 今後何があるかわからないし、魔石は何にでも使えるから質のいい材料はある程度は確保したほうがいいだろう。


(うーん、転移術式は魔力消費がデカいからバレる可能性もあるよなー)


 この件については追々タイミングを見て考えよう。

 今は午前の任務をきちんとやらなければならない。 狩人組合東支部にある医務室まで、フィエルさん護衛任務を任されているのだ。


 女神からの祝福であり、奇跡の治癒の力を持っているフィエル・ノルトエッケ。

 民衆からは聖女と謳われ貴重な力を持つ存在でもある。 そんな聖女様は今、幸せそうな顔でパンに噛り付いている訳だが。


 帝都で奴隷のように酷使され続けた彼女達は、決死の覚悟でオルディナ王国まで逃れてきた。

 やっと自由の身だと表情が明るくなったのに、未だドミナシオンの影が付きまとっている。


(…俺が側に居られるうちにやっかいごとが片付けばいいけど)


 手放しで自由を謳歌出来ないやっかいな問題。


 それは長年オルディナ王国に潜伏してるドミナシオンの姿無き()()の存在だった。














更新を再開いたします。

基本的に土曜か日曜更新になるかと思います。

まだ話数ストックがたまってないので

しばらくは週一更新か、二週一更新になるかもです。


■お知らせ■

過去の各話数の修正をしました。

※話の展開は変えてません。

文章の修正や言葉のニュアンス変更のみです。


今後の更新、または過去の話数で誤字脱字等があれば

誤字報告ツールでご報告していただけたらとても助かります。

何卒よろしくお願いいたします!



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