光
「まただ……」
デジタル時計は前回同様に4月10日の7時半を表示している。
「時間が戻ってる。 なら恵も……!」
そう言いかけた瞬間は部屋のドアが開かれた。
「おはよぅって佳っ!?」
恵が部屋に入ってくるなり僕は恵を抱きしめた。
「ちょっと佳どうしたの!?」
「よかった、恵が生きてて……もう会えないかと思った……」
「佳……?」
「あっごめん」
僕ほ恵から体を離す。
「私はいいけど佳、ほんとに大丈夫?」
「うん、ごめん大丈夫」
恵は平静を装っているけど顔がほんのりと赤いのは僕の気のせいじゃないだろう。
「そっか、早くしないと始業式遅刻しちゃうよ! 早く行こ!」
「あぁ」
僕は身支度をしてから家を出る。
当然恵にいつもと違う道で行くことを伝えて。
「なぁ今日一緒に帰らないか?」
「いいけど今日ちょっと用事があるから少し待っててもらってもいい?」
「わかった」
そんなことを話しているうちに学校に着き前と同じようにクラスを確認して教室へ向かう。
「佳、叶さんおはよ!また同じクラスだな」
教室に入ると秋が話しかけてきた。
これも前と同じだ。
「おはよ秋、お前も同じクラスだったんだな」
「おはよ秋くん今年もよろしくね」
僕らはSHRを終え始業式をするため体育館へ向かう。
「やっぱりこれタイムリープ、だよな……?」
始業式が始まり僕は思考を巡らせる。
もし仮にこれがタイムリープだとするとトリガーはきっと恵の死だろう。
じゃあこれはあと何回出来るんだ?
それまでに恵を救えなかったら?
そもそもなんで前回のループで恵が死ぬはずの道を避けたのに恵を救えなかったんだ?
いや、まずなんで僕はタイムリープなんて出来るんだ?
「あぁ、くそ……!」
分からないことが多すぎて考えがまとまらない。
恵みを救うには、恵が死ぬ未来を変えるにはどうしたらいい……
「これで始業式を終わります。 生徒の皆さんは教室へ戻ってください」
先生の声を合図に流れるように体育館を後にする。
「結局なにもわかんないじゃん」
そんな独り言を呟いて僕も教室へ戻る。
「なぁ佳、この後しぶりにゲーセンでも行かね? どーせ家帰っても積みゲー消化するだけなんだろ?」
教室に戻ると秋が話しかけてきた。
「……?」
「どうかしたか?」
「いや、なんでもない」
なんだ、内容は前回と同じはずなのに、なんなんだこの違和感は……
「で、どーすんだ?」
「あ、あぁ、悪い今日は恵と帰ることになってんだ」
「あー、なるほどねー」
「なんだよ」
秋が意味ありげにニヤついている。
「いやー、ただ相変わらず仲がいいんだなぁと思ってさ」
「それは、幼なじみだから」
「ふーん、ほんとにそれだけかー?」
「ほんとにって……」
「お前ら席付けー」
そこで先生が教室に入ってくる。
「やべっじゃあ席戻るわ」
他の生徒も席付きSHRが始まり、先生が適当な挨拶と連絡事項を言う。
「じゃあSHRはこれで終わり、これからよろしくなー」
それだけを言い残し先生が出ていくと教室が話し声で満たされる。
「佳、じゃあな」
「おう」
どうやら秋は違う友達と遊びに行くらしく、数人のクラスメイトを連れて教室をあとにする。
「恵は……もう居ないか」
そーいえば恵の用事ってなんだろ。
「生徒会ならそう言うだろうしな」
恵は1年の時から生徒会に入っていてその明るく誰とでも仲良くできる性格からかそれなりに人望もある、らしい。
すると、
『でもお前、そんなこと言ってると先に誰かに取られちまうぞ。 叶さん人気だから 』
秋の言っていたことが頭をよぎり、不安感に襲われる。
もしかして、告白とかかな?
恵ならありえない話じゃない。
もし仮に、仮にだ、万が一告白だったとしてそれなら相手は誰だろうか? 恵はなんて答えるのだろうか?
考えれば考えるほど不安ばかりが募る。
「はぁ……寝よ」
どれだけ考えても答えなんて見つかるはずもなく不安感に駆られるばかり。
こうなったらもう現実逃避を決め込むしかない。
そうだ、それに告白と決まったわけじゃない。
きっとなにか仕事があったんだ、そうに決まってる。
僕は考えるのやめ机にうつ伏せて目を閉じる。
「うぅ……」
どれくらいの時間寝てたんだろうか。
意識はまだ覚醒していない。
眠たい目をこすりながら体を起こし、時間を確認する。
「……3時半か」
ん?待てよ?今何時って?
「って3時半!?」
SHRが終わったのが1時過ぎだから2時間半近くも寝てたのか!? さすがに寝すぎだろ。
「恵はっ!?」
僕は慌ててめぐみの席に目をやる。
鞄は、、まだあるな…… ってことはまだ用事は終わってないのか、よかった。
メッセージも来てないしもう少しかかるのだろう。
メッセージを確認していると窓から心地よい春風が吹く。
窓に近ずき外を眺める。
グラウンドではいくつかの部活が練習に励んでいる。
すると、ふと隣の後者の屋上に居る人影が目に入る。
春風に揺れるセミロングの髪、見間違うはずもない。
「恵?」
恵が柵を背に立ち正面には男子生徒がいて何かを一生懸命に伝えている。
あぁ、なんだ……。
「……やっぱり告白じゃん」
焦燥と不安とほんの少しの諦めの混じった声が漏れる。
しかし、次の瞬間に別の不安が僕を襲う。
男子生徒が恵ににじり寄り恵が後ずさっている。
ただ、本当の不安はそこじゃない。
「恵!!!」
叫んだ時にはもう遅い。
叫ぶのとほぼ同時に恵は柵に手をかけ、そして落ちていた。
なんであんな所にいるんだよ!
恵がいた第1校舎は建て替え工事がされてないため僕がいる第2校舎と違い古く、屋上の柵のネジがゆるくなっていて柵が外れる可能性があるから立ち入り禁止になっている。
「……ッ!!」
僕は気がつくと走り出していた。
間に合うはずなんてない。
でも何もしないなんてありえない。
外に出てめぐみが落ちたところへ向かう。
第2校舎の近くには既に人混みができていて人をかき分けてその中心へ向かう。
そして僕の目には飛び込んだのは赤い血を流したそれ
数秒後ようやくそれが恵なのだと理解した。
いや、理解はしていた。
ただそれを恵だと認めることを無意識の内に拒絶していたのだ。
「恵……」
僕は恵に近ずきしゃがみこむ。
「恵……なぁ恵……恵!」
教師達の抑制も生徒達のざわめきも全てが蚊帳の外。
「……れ」
何も聞こえない、何も感じない闇の中で。
「……れよ」
光を求めて叫ぶ。
「戻れって言ってんだよ!!」
すると、もう何度目かもわからない白い光が視界を覆う。
そして、視界が開けると毎回のように僕の部屋にいる。
「何度繰り返せばいいんだよ……」
それからは前回と同じだった。
恵が部屋まで迎えに来て、一緒に登校する。
当然いつもと違う道を通ること、放課後一緒に帰ることを伝えて。
そう、全てが前回と同じだった。
ただ一点を除いて。
僕が学校に着きHR、始業式となんの問題もなく終わり放課後秋が話しかけて来た。
「佳ちょっといいか?」
「なんだよ?ゲーセンなら」
「いや、ゲーセンならいいんだ。」
「どーせ断れるってわかってるから。」
食い入るように秋が言ってくる。
「え?」
こいつ、今なんて……?
「なぁ、お前さぁ」
秋が顔を覗き込み、少し小声で言う。
「タイムループしてるだろ?」