決意
交通事故だった。
僕の家から学校に行く途中学校付近の交差点で居眠り運転をしたトラックに轢かれたらしい。
「ねぇ、嘘だよね?恵が死んだなんて嘘だよね?」
「……」
僕は現実を受け入れることが出来ず何度も母さんにそう問いかけたが母さんは辛そうに顔を背けるだけで何も返してはくれない。
ただその母さんの悲しみに満ちた顔と沈黙は僕にとって何よりも辛い答えだった。
もう、本当に恵に会うことは出来ないのか?
本当にあれっきりなのか……?
恵が死んだことを認識した途端僕の目から涙が溢れ、僕は力なく座り込んだ。
「なんでだ、なんでだよ!だって恵は……」
そこまで言って僕は気づいた。
「……僕のせいか」
もしあの時恵と一緒に学校に行っていたら、もしあの時もう少しだけ引き止めていたら、恵は死なずに済んだんじゃないのか。
「ハハ……全部、僕のせいじゃないか……」
そう言い残し僕は自室へと戻る。
「佳……!」
そんな母さんの声も僕の耳には入らなかった。
それからどれくらいの日数が経ったのだろうか。
その間、僕は学校はおろか外にも出ずただ恋愛シュミレーションゲームを片っ端からやっていた。
そうしている時だけ、ほんの少しだけだが気を紛らわすことが出来たからだ。
父さんと母さんも僕の心情を察してか学校に関して何も言ってはこなかった。
しかし今日ばかりはそんな訳にもいかない。
「佳、そろそろ行くぞ」
「分かってる」
控えめなノックの後に父さんの呼ぶ声が聞こえてくる。
僕は学校の制服に着替え、下に停めてある父さんの車に乗り込む。
僕らが向かっているのは家から車で10分くらいにある葬儀場だ。
今日は恵の葬儀の日なのだ。
葬儀場に着いて中に入ると恵のお母さんがいた。
「宮野さん、来てくださったんですね。佳くんも」
「この度は突然の事でほんとになんて言っていいか……」
そんな挨拶を終えると恵のお母さんは僕の方に向き直って言った。
「ずっと塞ぎ込んでるって聞いていたから心配していたの。あなたが来てくれて恵も喜んでるわ。」
恵のお母さんは笑って言ったがその笑顔は傍から見ても無理のある引きつった笑顔だった。
ただ、僕は幼なじみが死んでまで愛想笑いができるほど大人にはなれず、会釈だけして歩き出す。
「あなたのせいじゃない。」恵のお母さんとすれ違う時、そう言われた気がしたが僕が振り返ることは無かった。
葬儀は順当に終わりみんなは帰り始める中僕はなんとなく車で帰る気きなれず歩いて帰ることにした。
そして、しばらく歩いて僕はある公園の前で足を止めた。
「ここって……」
ここは遊具が3つしかない小さな公園で僕と恵がよく一緒に遊んだ思い出の場所だ。
「懐かしいな……この公園ってこんなに小さかったかな……」
僕は公園に入りブランコに腰掛ける。
この公園には恵との思い出が溢れていて僕が現実を思い知るには十分な場所だった。
「ほんとにもう恵に会うことは出来ないんだな」
そう言うが早いか僕の目から涙が溢れていた。
「いやだ……いやだいやだいやだ!!」
僕は叫ぶ。
「恵に会えないなんていやだ!恵の声が聞けないなんていやだ!!」
恵が死んだのを認めたくなくて。
認めるのがどうしようなく怖くて。
「恵が死んだ!?そんなの認められるわけないだろ!!」
そこで僕はふと恵のお母さんの言葉を思い出す。
「恵が喜ぶ?……僕のせいじゃない?……そんなわけ、ないだろ……」
酸欠になりながらも僕はそう呟き目をつぶる。
そして決意する。
「たとえどんな手を使おうと、絶対に……恵を救ってやる……!」
方法なんて知らない。できるかなんて分からない。
それでも、必ず救ってみせる……!そう強く誓い目を開ける。
すると僕は見慣れた部屋の中にいた。