動植物神話体系―Eukaryotarum Mythologia―
大きな世界樹の下で
たくさんの木々が並ぶ中でも、飛び抜けて大きな木があります。その木は世界樹と呼ばれ、至る所に根を張り世界を見守っています。
世界樹には色とりどりの子供達がいます。
薔薇、百合、それだけでなくたくさんの花々。彼らは世界中に散らばっています。その中に、百花と呼ばれる一本しかない花があります。世界樹が1番愛している花です。
「世界樹様、ご機嫌よう。ただいま戻りました」
「おお、愛し子よ。息災か」
百花が挨拶をすると世界樹は枝を震わせて喜びました。百花はよく旅に出ています。兄弟たちの様子を見るのが百花の務めです。
今日は薄紅色の小ぶりな花弁を咲かせています。百花はその時々で違う花を咲かせるのです。
「はい。皆つつがなく」
百花は甘くすっきりとした香りを漂わせながら、世界樹のそばまで寄りました。
「世界樹様、外には色々な生物がいて楽しく過ごすことができました」
「ほう、どのような生物に出会ったのだ」
コロコロとした声で報告する百花に、世界樹は興味が湧きました。
「はい。ヒトに会いました」
「ヒト、とな」
百花の言葉に、世界樹は葉を揺らしました。世界樹もかつてヒトに会ったことがあります。そこで学んだことは、ヒトは不純な生物であるということでした。
珍しい世界樹の力を、ヒトは欲しがるのです。ヒトは大いなる父と母とに愛された命なのです。世界樹の力なんてなくても、立派に生きていけるはずのヒト。それどころか、世界の一部であることを忘れつつある彼らに世界樹は落胆しました。
欲しがるばかり、その気持ちだけが向けられた世界樹は悲しくなってヒトに会うことをやめました。
「ヒトはどうだった」
「はい、面白くて可愛らしいものでした」
どうやら、百花は世界樹と違ってヒトに好意的のようです。
「一生懸命に生きて、笑ったり怒ったりしていて……見守っていて楽しい生物でした」
百花はクルクルと花びらを散らして回りました。百花が笑うと黄色い太陽の花が顔を出します。
そんな百花の姿に、世界樹は和みます。百花には健やかに過ごしてもらいたいのです。世界樹はそうとても強く思うのでした。