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ファーストインプレッション

桂に彼の働くところ、つまり陸軍死刑執行部を見学して入るかどうか決めたいと言った時、桂は苦虫を噛み潰したような顔をしながら、おススメはしませんよとだけ言った。あれ程私が死刑執行人になる事を嫌がっていたのに、やけにあっさりとした対応だ。恐らく、彼としては私が広場に行く事を知った時点でこうなることはお察しだったのだろう。

見学当日までの日々はくっきりとした対比が続いた。家の収入が増える(私とミーナは、私がもし働くことになったら給料の38%をミーナに渡す契約をした。この事からもう、ミーナの浮かれポンチさが分かるだろう。何せ、まだ働く事は決まってないのだ。)かもしれないミーナは異様なまでに上機嫌で、私が話しかけるとそのスイートなボイスをさらに極限まで甘くして返答してくれた。甘いのは苦手だが、甘い声は好きだ。反対に桂は日に日にグルーミーになっていって、声も老犬のように低い重いものしか出なくなっていた。

見学当日の朝、出かける直前になって桂は言った。「もう戻れませんよ、人には。いいんですね?」

「…はい。構いません。あの支配感の正体、熱狂の正体を知りたいです。」

「…行きましょう。」

「がんばってね、平川さん。しっかりね!」

あれ程丁寧な口調のミーナが、完膚なきまでに壊れている。ディスイズマネーパワーなのか。

ケンプに乗り、市街地へ向かう。初めてここに来た時のように、桂が乗せてってくれた。

「陸軍に入るためには、本来二年間の訓練が必要なんですよ。ですがね、そこはまだ文明の浅い世界。僕の推薦状一枚あれば、貴方をどこに配属させる事もできる。訓練なしでね。だから、別に死刑にこだわる必要もない、ってこれは余計でしたか。まあ今日の見学が気に食わなければそういう選択肢もあるって事を覚えておいて下さい。」

道中、そんな事を述べていた桂にはもう広場のオーラはなかった。しかし、あの時の桂はなんだったのだろう?立ち振る舞いや言葉にはどこか偉大な雰囲気が漂っていて、誰も近づけない孤高さがあった。そして、あの狂気の死刑。それに熱狂する人々。あの光景はどこか神秘的で正直魅せられるものがあった。何故?分からない。それを探りに見学に行くのだ。桂の謎、死刑の謎。なんだか、教育漫画みたいである。宇宙の謎、みたいな。

異様に臭い市街に入り、町の人々を見る。皆地球と同じように生活している。野菜を売る者、洗濯を干す者、煉瓦らしきもの(厳密には違うらしい)を補強するもの。路地裏では売春婦達が談笑しているのがチラリと見える。その奥で殴り合う老人。(老人と言ったが、彼らは厳密にいうと人とは若干違う生き物らしい。猿に近い生き物から進化したのは間違いないらしいが。)

街並みは所謂中世のヨーロッパに近い雰囲気で、シンデレラとか幸福な王子を思い出すものだ。やはり生き物が住んで心地よいと感じる場所や物は異世界でも変わらないのだと実感する。そして、それらの命を奪う仕事というものの、恐ろしさと責任を実感する。さっき見た野菜売りを殺す事だってあるのだ。やはり中々にイカれた仕事である。

そうこうしてるうちに目的地についた。陸軍本部だ。しっかりとした煉瓦風造で、余計な総称は無いが、カクカクしていてサイコロのようだ。しかしここまで四角だと見ていて面白い。

ゆっくり見る間もなく、桂に連れられ中に入る。受付の美人さんを尻目に奥へ奥へ暗い方へ進む。そうしていると、1番奥のドアにたどり着いた。重そうなドアには、死刑執行部とあった。桂はドアを引き開け、入るよう私を促した。

入ると、数人がこちらを一斉に見て来た。転校生のような気持ちだ。

「初めまして、本日見学させていただく平川鳴子と申します。」

そう言ったはいいものの、皆さん明らかに困惑している。お、おうみたいな空気が漂う。

ファーストインプレッションがこれか、まずいぞ、と思った。


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