広場にてpart2
平日の昼間とは思えない人だかりだった。みんな暇なのだろうか。
初めて死刑執行というものを見た時は周りの事を気にしている余裕なんてものはなかったが、改めて見てみると広場には屋台や大道芸などが出ていてちょっとした祭りのようだ。これから人が死ぬ事を考えると、中々にイカれた光景である。
ミーナと私は手を繋いで広場をぐるっと一周した。格段手がスベスベで気持ちいいとか、心音が聞こえてきそうでドキドキしたとか、間近で見る幼女はやっぱり可愛いとかそういう事はなかった。ナルコウソツカナイ。
ミーナは火を噴くオッサンや尻から花を生やす男を見て、ケラケラと笑っていた。こういうのはどこの世界でも変わらないんだなと思った。
そんな事をして暇を潰していると、いよいよメインイベントの時間だった。私たちは広場の隅の段差に座った。人々はまた熱狂の中へ飛び込んでいった。
死刑執行というものにも手順があるのよ、とミーナは言った。まず鼓笛隊の演奏と共に罪人が広場の中央にやってくる。次に陸軍死刑執行部部長である桂が罪状と死刑方法を宣告する。そうして最後に死刑が執行される。死刑方法はいくつかあって、八つ裂きの他にも火炙りや絞首刑があるらしい。こう言った恐ろしい内容をミーナはよく分からない揚げ菓子をぽりぽり食べながらすらすらと述べた。私は小屋で感じた恐ろしさをふと思い出した。
そうそう、とミーナは付け加えた。桂の死刑執行はバラエティ豊かで人気があるのよ。
私は頭に?が浮かんだ。はて?バラエティ豊かな死刑とは?私はこの恐ろしいものをなんだか見たくなくなって来た。
ふと遠くから軽快な音楽が流れて来た。鼓笛隊だ。人々は待ってましたと言わんばかりの歓声をあげる。鼓笛隊の後ろからは遠くからでもわかるくらい汚い数人の男女が兵らしき人に連れられ、のそのそと歩いていた。
桂は少し遅れてやって来た。改めて観察して見ると、歩き方や書類の受け取り方はどこか権威的で小屋で見る腰の低い男とはあまりにも違う印象を受ける。先ほどミーナは桂の事を陸軍死刑執行部部長と如何にもといった役職で呼んだが、人というものはここまで位というものに合わせて行動するのかと思うと思わず笑いそうになる。未だに私の事を平川さんと言って名前すら呼びもしない男の姿ではなかった。
桂は書類を読み上げた。
「タンム、アープルス、ノンチラ、ケルッソル、以下の四人を国家転覆の罪で串刺し刑とする。」
広場は一瞬静まり、そして一気にざわついた。その後それらは歓声に変わった。隣のミーナもニヤつきながら言った。
「ようやく新作か、待ちくたびれたぞ。」
なるほど、これがバラエティ豊かな意味か。桂はどうやら死刑のパターンをどんどん増やしているらしい。こうやって新しい死刑を次々見せることで娯楽化しているのだろう。
言葉の意味は分かっても、肌馴染みは悪いままだった。罪人の後ろでは、鈍い音を立てながら大きな何かがセッティングされていた。
大きな何かは三、四メートルくらいあった。全体を見ると木の箱のようで、側面にはいくつか穴が空いている。ご丁寧にと出入り口もついている。プリンセステンコーを彷彿とさせるものだ。このフォルムと串刺し刑という名前、私は全てを察した。
罪人は何か叫んでいた。今の国家は腐っているだの、神はお前らを許しはしないだの、そんな事だった。なるほど、国家転覆の罪に問われた者らしい最期だと言えよう。
見窄らしい体系の女性がまず、無理矢理箱に押し込められた。それと同時に鼓笛隊をしていた四人が剣をもった。四人は穴の外で今にも、と言った感じで待機をしていた。桂はカウントダウンを始める。
5、4、3、2、1。
0、と桂が言った瞬間、剣は箱の中に一斉に侵入した。地獄のような叫びがこだました。鳩が驚いて広場から飛び去った。人々のボルテージは最高潮に達した。
兵は念入りに何度も何度も刺していた。人々はその度に盛り上がっていた。すると、桂は兵を止めこう言った。
「ご来場の皆様、どうでしょう。この罪人を串刺しにして見たいという方はどうぞ手をあげて下さい。何人かの方に是非刺していただきたいと思います。」
もう会場は盛り上がっていた。桂はまるで支配者のように、いやまるでという言い方は適当ではない。確かにこの時桂は支配者であった。人々が手を挙げているのも、もう支配者への祈りのようだった。
先ほど私は位が人の行動を変える、と言ったがこの熱の中心において変わらないものなんてある訳がない。それほど、この瞬間の桂という男は凄まじいものだった。ナポレオンも目ではない。
その熱の中心を夢のように眺めていた私はふわふわとした気分になっていた。ミーナは黙って死刑を見ていた。何人かの者が狂ったように箱に剣を刺していた。
後の者の死刑は覚えていない。私は自分の中のふわふわを制御する内に家に帰って来ていた。ふとこの熱はどこから来るのだろう?と疑問に思った。そして少し死刑というものに興味が湧いた。