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唾液

女神のように美しい子をぼーっと眺めていると、向こうが話し始めた。話す姿もおそろしくかわいい。

「ねえ桂、この子は一体何かしら?まさかまたニポンからやって来たとか言わないわよね?」

「ニポンじゃなくて日本ですよ、ミーナ。ええ、そのまさかです。どうやらあの忌々しいホールを抜けてこっちに来てしまったそうなのです。ああ、平川さん自己紹介を。」

「ど、どうも平川鳴子と申します。一応日本から来ました。どうぞ宜しく。」

なんだが声が上ずってしまったが、私はきちんとそれらしい挨拶をしてみせた。この恐怖すら覚える愛らしさを持った幼女の前で。普通の人間なら凄まじく狼狽しているだろう。

そのくらいこの幼女は素晴らしいものだ。美しさとはまた違う、何も恐れぬ破壊的な強さ。内面からはそんなものが溢れ出ていた。可愛いという言葉すら彼女の前では霞んで見える。凡百の言葉で説明する事が烏滸がましく思える。私の愛が目に見えるなら、きっと今頃彼女のために全てを捧げる用意をしているだろう。

そんな事を考えていると、悩みの種ことミーナがため息をついた。そのため息すら、彼女にとっては彼女を美しく見せるアクセサリーでしかない。この世に彼女を引き立たせないものなどあるのだろうか。あったら是非お目にかかりたいものだ。

「まあ来ちゃったものは仕方ないですよ。それより僕の時みたいにアレしてあげないとマズイでしょう。」

「そうね…。ねえ平川さんそこに座ってくれる?」

指さされた方を見ると、品のいいグレイの椅子が置かれていた。なんとなく貴婦人が座ってそうな印象を受ける。

椅子に座ると、ミーナは私の左横に立った。ちょうど視線が耳の穴に来ていて、変な気持ちになる。

「自己紹介まだだったわね。私はミーナ・スピラソング。ニピョンでいうところの魔女よ。魔女と言っても変なことしたりしないから安心してね。」

私の右耳はこの時きっとすざましい不満を溜め込んだに違いない。左耳だけあの子の湖のように雄大で微笑ましい声を間近で聴けるなんて、と。そして変な事をして欲しいと思った自分という生き物は死に値する罪だと思った。

「平川さん、もう桂から聞いたと思うけど、この世界はニピョンでいう異世界よ。正確にはあったかもしれない地球の未来、なのかもね。時々事故的に時空のタイムホールが空いちゃって事故的に別の時空の人が吸い込まれる事があるの。貴方はそれに巻き込まれた不幸なだけの人よ。貴方は何も悪くないわ。必ず帰れる保証はできないけど、魔法でなんとか頑張って見るわ。」

「あの魔法って…。」

「あるのよ、この世界では。ここではね、魔法と科学は等しくおんなじだけあるの。最も魔法は素質のある人しか使いこなせないけど。」

「へ、へえ。」

「魔女はね、強い魔力を生まれつき備えているの。体の器官や体液の効果がほかの人と違う事だってあるわ。」

「じゃあミーナさんの魔法はなんですか?」

「こういう事よ。」

その時、ミーナは私の耳の穴の中に自分の唾液を入れた。

私の体はゾクゾクしてたまらなくなった。あまりのことに床で這いずり回るしかなかった。何故か耳が焼けるように熱かったからだ。

「いきなり驚かせてすいません。でもこれで貴方もこの世界の言葉を理解して喋る事が出来るようになります」

焼けそうな左耳はほっといて右耳でそう聞いた。左耳を押し当てた床からはジュワジュワと音がなっている。

「今私の唾液が貴方の脳に侵入して、貴方の細胞に喋れるように無理やり特訓させています。二時間程度で喋れるようになるでしょう。」

魔法とはこういうことなのか。私はそう思った。そしてこちらジロジロと見ていて背後で笑っているだけでケタケタ笑っている桂は死ねばいいと思った。

こうして私はこの世界の言葉を理解する事が可能になった。

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