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魔女の元へ

「この生き物はケンプと言うんです。可愛いでしょ?モモ肉は厚切りにして焼くと美味しいんですよ。」

桂はそう言った。馬風もといケンプに乗りながら。可愛いと美味しいを同列に出来る人間も中々珍しい。

「市街はねえ、多少発達してるんですけど匂いがねえ。何せ、水道がないからみんな糞や尿をその辺に捨てちゃうんですよ。当然、日本のように毎日シャワーも浴びられないし。ああ、僕は毎日水浴びしてるのでご安心を。」

桂は先程から気を遣って色々な事を言っているのだが、正直言ってあまり知りたくない情報ばかりだ。勿論、臭い原因は知れて良かったがそんな事より大事な事がある。私は思い切って聞くことにした。

「そんなことより、ここはどこなんでしょう?教えてください。」

「ん、うーん…。何というか、説明しづらいなあ。」

ケンプはポコポコとのんびり進んでいた。ヨーロッパ風の景色はずっと続いていた。整備されてないガタガタした道と、周りの人々のジロジロとした視線で私は段々と後悔し始めた。何故こんな奴について来てしまったのだろう。その辺でのたれ死んだ方が幸せだったかも知れない。何より、この男の意味ありげな態度に苛立っていた。後頭部の切りそろえられた髪でさえ鬱陶しく思えた。髪色は少し茶色がかった黒だった。引っこ抜いてやろうかとさえ思った。

「どうせ後でミーナが説明するけど、俺なりに簡単に説明しますね。この世界は、違う宇宙に存在する地球なんです。」

桂への感情が私の中で怒りから同情へと変わった。こいついかれている。しかし、私は黙って話を聞くことにした。何せ、何が起こっても不思議ではない世界なのだ。もちろん、頭から信用するわけではないが。

「貴方が巻き込まれたのは、時空のブラックホールのようなものです。ごく稀にバグのように他の宇宙への扉が開いてしまう、そういう事があるそうです。まあ全て、魔女のミーナの受け売りですが。」

「あの、他の宇宙ってどういう事ですか?」

「科学で習いませんでした?宇宙の外にはまた別の宇宙があるって話。宇宙の端に行ったと思ったらまた別の宇宙に入っちゃうんですね。つまり、その別の宇宙のどこか一つに生命が住める環境である星が誕生した。それがこの星である、そういう事なんです。」

「なんか、宗教みたいですね。」

「いや、神なんて偶像ではなく徹底した科学と魔法なんですよ。」

「魔法?」

「そう、魔法。この世界では科学と魔法は同時に存在しているんですよ。まあ、魔法を使えるのはごく一部ですがね。ほら、さっきから魔女のミーナと言っているでしょう?そう、比喩ではなく魔女なんですよ彼女は。」

「へえ、どんな魔法を使うんですか?まさか私を頭から食べたりしないですよね?」

「まさか。彼女はこの世界のことを魔法によってよく知っているし、色々便利な事をしてくれるんですよ。言葉を喋れるようにしてくれたりとか。」

「本当に?それは便利ですね。」

「…あんまり信じられないですか?」

「目にしたもの以外は信じないたちなんで。」

ふと、周りの景色がかなり変わっていることに気がついた。周りは市街地ではなく、のどかな農地が広がる場所になっていた。後ろを振り向くと、市街地が少し遠くに見える。そこまで遠くもないのにここまで差があるとは少し驚きだ。最もこんなことでいちいち驚いていては、心臓がもたないのだが。

「さあようやく着きましたよ。あれが魔女のミーナの家です。」

桂は右斜め前を指差した。そこを見ると、なんの変哲も無い小さな小屋があった。一見木造に見える(木という概念がこの世界ある確証はない)、こじんまりとした小屋だ。壁には何か文字がびっしり書いてあった。呪文の類だろうか。

ケンプを止めると、桂は私を下ろして何かを怒鳴った。すると、ケンプは足をたたんでその場に座り込んだ。多分お座りだろう。

「じゃあ行きますか。」

そういうと、桂は戸をどんどん叩いた。先程から思うがこいつは案外デリカシーがない。話のチョイスしかり、ドアのノックしかり。全くひどいものだ。

そんな事を思いながら立っていると、戸が開いた。中には幼女がいた。ぽってりとしたほっぺた、肉付きのいい足、白い肌、ため息のでそうな美しい金髪。

宇宙だのなんだのよく分かりはしないが、来た価値はあると私はそう思った。

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