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平川と桂と吐瀉物と

それは中々のゲロだった。

今朝の米とシャケが一部形を残して白と黄色の中間くらいの色をした液体に鎮座していた。さっきまで臭い臭い連呼していた女が凄まじい悪臭を放つ液体を吐くなんて、いいオチがついたものだ。というか、今日嗅いだものの中で一番臭い。

「だ、大丈夫ですか?」

桂が心配してきた。手を差し伸べてきたのだが、その手にべっとりついた血が原因だとは中々言いづらい。よく見ると桂の着ている赤い軍服も所々血がついて鈍い赤になっている。あの男女はどれだけの血を出したのだろう。想像して、また気持ち悪くなってしまった。

私はあまり考えないようにした。それと同時に、この桂とかいう男を信用しすぎるのも考えものだと思った。さっきまで人を八つ裂きにしていた男だ。腹の底で何を考えているのかわからない。

「すいません、多分大丈夫だと思います…。」

そうとだけ言ってあまり目を合わさないようにした。しかし、冷静に考えてみるとこいつ以外頼れる者はこの世界にいない。何せ言葉が通じないし、文化もわからない。知らずのこの世界のタブーに触れてしまい次に八つ裂きになるのは私、なんてこともあり得る。私は桂と目を合わせた。飢え死か八つ裂きなら、八つ裂きで構わない。

「桂さん、この世界はなんなんですか?一体ここはどこなんですか?知っているなら、教えてください。」

「え、ああ、うん。」

「…もしかして答えにくい質問でしたか?」

「いや、やけに冷静だなと思いまして。こんな訳の分からないところにやってきたんだから、もう少しアタフタするものかと。僕もそうでしたし。」

「アタフタして解決するなら幾らでもそうしてますよ。それより、質問に答えてください。」

ポリポリと頭を掻きながら桂は悩んでいた。相当答えにくい質問なのだろうか。やはりここで生きることは難しいことなのだろうか。それとも私を騙す方法でも考えているのだろうか。

「うーん、僕も正直よく分からないんですよ。それに僕に聞くより、分かりやすく説明してくれる人がいますよ。魔女のミーヤという人…まあ厳密には人じゃないけど、の所に行った方がいいと思います。案内しますよ。」

桂は遠くにいた兵隊に何か大声で叫んだ。すると、先程の主役である馬風の何かがトコトコやってきた。思ったより小さく、足は太く、短くて細いツノが生えていて、ギュムギュムと言う声で鳴いていた。正直に言って可愛かった。

「ほら乗ってください。えーと、何さんでしたっけ?」

そういえば自己紹介をしていないことに気づいた。なんとも失礼な奴だ。

「あ、自己紹介してませんでしたね。すいません。平川鳴子と言います。17です。」

「平川さんか。まあよろしく。仲良くやりましょう。」

私は握手することなく馬に乗った。悪臭をまた周りにただよわす訳にはいかないのだ。桂が馬風の頭を優しく叩くと、馬風はトコトコ進み始めた。可愛い生き物だ。

その時、兵隊が何かを大声で叫んだ。桂が呆れたようにそれに言い返して、兵隊はまたさらにそれに言い返した。馬風を止まらせ、言葉のラリーはしばらく続いた。やがて、桂は馬風から降りて私に心底うんざりしたような顔でこう言った。

「平川さん、ジョッペ、ああ兵隊がね、吐瀉物掃除してから帰れって。」

あまりのくだらなさにおもわず笑みがこぼれた。歯からはまだ先程の悪夢の香りがした。

ジョッペらしき兵隊から見慣れぬ掃除道具を受け取り、石で出来た地面を掃除して、我々はようやくミーナと名乗る魔女の元へ向かう事を許された。

私がこの謎の場所に来て最初に行った事は吐く事で、二番目に行った事はその嘔吐物の処理だった。



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