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無気力少女ですが、実は最強です  作者: 冬野氷空
魔導戦入門編
8/72

開戦

 フィールドへの転移は、それすなわち試合の開始を意味する。

 対戦相手の羽柴はしば勇人はやとも既にフィールドに入っているようで、ムイの左手の計器はすぐさま試合終了までのカウントダウンを始めた。


 ムイは改めて周囲を見渡し、「はー」と感嘆の息を漏らした。本当にフィールドの姿が変わるのか、と。

 つい先ほどまで陸上競技場のような殺風景だったフィールドには、今やアマゾンの奥地なのではないかと錯覚するほどの木々が所狭しと生い茂っている。そのどれもこれもがムイよりはるかに背の高いものばかりで、彼女はまるで小人にでもなったのではないかと感じた。観戦者は既にフィールドの外に退避しているようで、周囲に人の気配はない。

 ムイは初めて目にする巨大な植物群を見上げながら、ユカにされたルール説明を思い出す。


 ――相手に魔剣ブレイドで攻撃すれば勝ち。


 で、あるならば問題はユカが危惧していた通り、如何に接近するかだ。

 接近することさえできれば――と、ムイは考える。

 接近することさえできれば、まず自分が負けることはないだろう、と。


「にして、あの人は一体どこにいるんすかねぇ」


 辺りを見渡してみるも、目に入るのは鬱陶しい草木ばかりだ。視界には緑色が溢れ、対戦相手の姿などというのは微塵も目視できない。見える範囲はというと、およそ5、6メートルといったところか。

 闘技場の全周は約700メートル。一周するのに徒歩ならば十分ほどかかるだろう。この視界の狭さと足場の悪さならば、その二倍はかかるかもしれない。そんなフィールドにおいて、敵と遭遇するというのはやはり難しいことだった。どれだけ五感を研ぎ澄ませたところで、人間の――人間()()の能力では限界がある。

 ムイは左手を顔の前に持ってきて、端末を確認した。


 制限時間――28分21秒――刻一刻と減っていく。

 魔導着スーツ耐久値――100%――束の間の安堵。

 敵との距離――約100メートル――秒速2メートルほどの速さで接近中。


 これならば交戦するまでにあと数分はかかるだろう。


 しかし、次の瞬間――


「っ!?」


 ムイは咄嗟に横に跳んだ。その脇を、人間一人くらないならば容易く飲み込めてしまえそうな火球が、凄まじい速さで通過していった。回避に成功したムイであったが、もし直撃していればと思うと、冷や汗が背筋を流れるのを感じた。現に完璧には回避しきれてはおらず、彼女の端末に表示されている魔導着スーツ耐久値は96%を示している。


 ムイは姿勢を臨戦態勢に整え、火球が飛んできた方向に目をやる。


 ――どこから?


 視界の範囲はどう見ても5、6メートル。端末の機能を信用するのならば、たとえ障害物がなかったとしても目視は難しい距離だ。ともすれば敵は何か相手の位置を把握できる能力を持っているのだろうか? しかし相手が持っているのは“炎を操るタイプ”の能力のはずだ。何か特殊な索敵能力があるというのなら、相手は複数の魔法を同時に使える人間ということになる。そんなことができる人間はかなり少ない――数万人に一人程度――ということは、初心者であるところの彼女でも知っているような、世界の常識である。


 しかし、その考えはすぐに捨てることになった。

 火球の再度の接近――しかしそれは、つい先程の瞬間までムイがいた地点、つまり回避する前とまったく同じところを狙ったものだった。


 ここでムイは一つの結論に達する。


 相手に自分は見えていない。

 ただムイのいそうなところ、つまりスタート地点を狙って攻撃を仕掛けてきている。


 初心者ならば試合開始時にフィールドの雰囲気に圧倒されるのは自然なことだ。それを対戦相手の羽柴勇人は狙ったのだ、とムイは理解した。


 しかしながら100メートル以上離れた距離でありながらあれだけの威力を保ったまま到達する攻撃を放つのも相当な脅威である。通常の魔法攻撃ならば、その特性にもよるが射程距離はおよそ50メートル前後だ。単純に考えてもハヤトの攻撃は常人の二倍以上の威力を誇ることになるだろう。

 だが、ムイはそんなことは気にも留めていなかった。


「いやぁ、まさか自分から位置を教えてくれるとは……ラッキーっすね」


 彼女は表情一つ変えずに腰のホルスターに装備された左右の魔剣ブレイドを抜くと、火球の飛んできた方向に歩き出すのだった。


日間ローファンタジーで54位に入りました。

ありがとうございます!

感謝の意を込めて以下のSSをどうぞ。


とある日の放課後、帰り道にて。


ユカ「ねー、キリノー」


ムイ「……」


ユカ「キリノってばー」


ムイ「……」


ユカ「もう、いい加減機嫌直しなって」


ムイ「別に、わたしはいつも通りっすけど」


ユカ「嘘。怒ってんじゃん」


ムイ「別にー、わたしは体育でペアになれなかったくらいでー、怒ったりしませんよー」


ユカ「思いっきり棒読みだし……ごめんってばー!」


ムイ「どうせ? わたしには友達はいないですし? ハルミさんは人気者ですしね、ペアを組む相手には不自由しないんでしょう」


ユカ「あんた意外とめんどくさい性格してるわよね……ほら、私のたいやきあげるからさ」


ムイ「いりませんよ、そんなの」


ユカ「いいから、ほら!」


ムイ「むぐっ……」


ユカ「どう? 美味しいでしょ?」


ムイ「まあ……てか、これって間接キスじゃないっすか?」


ユカ「なに―? あんたもしかして照れてんのー?」


ムイ「そういうわけじゃないっすけど……良いんすか?」


ユカ「他の人ならともかく、私はあんたとなら平気だよ?」


ムイ「ハルミさんって割とあっさりそういうこと言いますよね」


ユカ「ん? キリノは私との間接キス嫌なの?」


ムイ「……別にそういうわけじゃないっすけど」


ユカ「んー? 聞こえないなー」


ムイ「……」


ユカ「冗談! 冗談だから怒らないでよ、キリノー!」




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