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無気力少女ですが、実は最強です  作者: 冬野氷空
魔導戦入門編
11/72

赤の世界/決着

 ムイは木々の間を移動しながら考えを巡らせていた。

 最も効果的だと思われた奇襲が防がれてしまった。今後、あの炎攻撃をかいくぐり、敵に接近するチャンスはあるだろうか。

 チラリと、足元――僅か後方を見ると既にハヤトがムイを追いかけてきていた。右手に持つ魔剣ブレイドには既に先程のように炎を纏っており、臨戦態勢ということは明らかだ。


「いやぁ、参ったっすねぇ……」


 次の枝に跳ぶ。

 すると先程まで乗っていた枝に、人間一人は軽く覆いつくせる大きさの火球が命中した。炎が当たった枝は折れ、弾け、その根元はパチパチと音を立てて燃えている。もし魔導着スーツを着ていない状態で直撃していたらきっとひとたまりもないだろう。

 連続で枝から枝へ――次々に燃え堕ちていく足場。全て間一髪。


「じれってえ……コイツで、どうだっ!」


 ハヤトが木の下で魔剣ブレイドを構える。そして、大きく横に振るった。

 その次の瞬間――彼の魔剣ブレイドは文字通り火を噴いた。そして先ほどしたのと同じように、一気に周囲の木々を焼き払った。


 ムイの小さな身体がふわりと宙に投げ出される。その足元ギリギリを炎の刃が掠めていった。


「危ない危ない」


 彼女は空中で姿勢を立て直す。

 だが、そこでハヤトはニヤリと笑みを浮かべた。


「どれだけ身体能力を強化しようとよォ……足場のない空中じゃあ、避けようがねえだろ!」


 ゴウッ! と音を立て彼の魔剣ブレイドはさらに大きな炎を纏う。そして火球が同時に三発、空中を舞うムイに向かって発射された。火球は真っ直ぐにムイの方へ加速していく。炎の弾丸は間違いなくムイに直撃するかと思われた。


 しかし、次の瞬間――


「なっ!?」


 ハヤトにとって信じられない出来事が起こった。


「何ぃっ!?」


 自由落下するだけだと思われたムイの身体は、ふわりと、しかしまるでしっかりと地面を踏みしめて跳んだかのように空中に浮かび上がった。


「よっと」


 両手に握られた魔剣ブレイドで上手く身体のバランスを保ち、次の枝に着地――同時にさらに跳び、ハヤトと距離をとる。やはり魔法を連発したことによる疲れが出ているのだろう、追いかけてくるハヤトに先程までの速度はなかった。あっという間に二人の距離は離れ、ハヤトの姿は見えなくなる。


 ここでムイは方向転換――丁度、ハヤトの側面に回り込めるように東側に移動を開始。

 ムイは跳びながら、端末に目をやる。


 制限時間――15分42秒――間もなく半分を切るだろう。

 魔導着スーツ耐久値――88%――気付かぬ内に攻撃が掠っていたようだ。

 敵との距離――およそ30メートル――奇襲のチャンス再び。


 そこからさらに10メートルほど移動。再び端末に目をやると敵との距離は25メートル――追跡の証拠。

 ムイはここでさらに方向転換した。進行方向を東から南へ。つまり相手の進行を西から東へ、と予測したのだ。ムイ自身が南へ動けば相手の側面をとれる。そうすれば再び奇襲をすることができるだろう。


 彼女はその左右の手に握る魔剣ブレイドに再度意識を集中――魔力を流し込むと、柄に埋め込まれた白い石は僅かにその輝きを増した。


 枝から枝へ――その距離およそ5メートル。常人ならばまず乗り移れない距離だ。しかし、今のムイにはそれが可能だった。より正確に言うならば、彼女の持つ魔剣ブレイドによってそれが可能になっていた。


 木と木の間――ムイの身体が空中で失速し、自由落下を始める。

 しかしその次の瞬間、彼女の足元には目に見えない“力場”が発生していた。彼女はそれを踏みしめ、再度跳躍――目標の枝へと難なく着地してみせた。


 ムイはこの技に名前を付けてはいない。頭の中ではいつも“足場の発生”だとか“二段ジャンプ”だとか呼んでいた。それどころか、それが彼女が固有する魔法かどうかすら理解していなかった。


 ムイからすれば、ただ跳んでいるだけなのだ。

 毎日出前をしていれば道が混む日もある。そんな日は彼女は空中に足場を形成し、道なき道を往く。それは彼女からしてみれば当たり前のことだったし、生活の知恵でもあった。


 それに、出前の度に父親から頭の上に乗せられたコップのこともある。

 コップの中の水を溢さず、かつ早めに仕事を終わらせるためには、“力場”を発生させて支えるしか方法はなかった。また、頭の上にコップなどという間抜けな格好から、恥ずかしさも相まって彼女の移動速度がどんどん上がっていったということは言うまでもない。


 そういうわけで、ムイにしてみれば枝から枝へ飛び移るなどということはまさに朝飯前の芸当であった。


 少し進んで、今度は木の下に降りて身を屈める。


 ――敵は木の上にばかり意識を集中させているはずだ。


 彼女はそう予測し、今度は低空から奇襲を仕掛ける算段だった。


 敵との距離――およそ20メートル――確実な接近。


 そして数秒して、ガサリと音が響いた。ムイは音のした方向を見据え、じっと息を潜める。


 しかし、次の瞬間――


「喰らいやがれ!」


 炎が辺り一面を包み込んだ。


 あの少年が再び魔法を使ったのだ、とムイは瞬時に判断――同時にバックステップ。炎から距離をとるように跳躍してみせる。


 が、それは明らかにハヤトの方に有利アドバンテージのある選択だった。

 姿を晒すということは、すなわち奇襲の失敗を意味する。


 ムイは体勢を整えつつ、その足元に“力場”を形成。しかしその隙を敵は見逃すことはない。


 ハヤトはすぐさま次の攻撃動作へ――炎を纏う長大な日本刀を、さながら居合斬りのように構え、一気に振り抜いた。


 火球の発生――および飛翔。

 灼熱の弾丸が、空中のムイ目掛けて直進する。

 絶体絶命――しかし、ムイは表情一つ変えることはない。いつも通りの眠たげな眼である。


 少女は“力場”の一つを蹴った。さらに上空へ。しかし当然ながら炎の射程範囲から逃れることはできない。


 火球が命中するかと思われたその瞬間、彼女は一層強い魔力を左右の小剣に流し込んだ。

 発生する“力場”――最大級のサイズ、および強度。

 激突――火球がまるで壁にでも当たったかのようにひしゃげて、爆炎が広がる。


 ハヤトの顔に緊張が広がった。一刻の油断も許されない。


 やがて爆炎の中から小さな人影が現れた。

 人影は自身の身体を保護するかのように胸の前で十字に組まれた左右の腕を、まるで煙草の煙でも払いのけるように一気に展開する。すると瞬く間に黒煙が晴れ、そこにムイの姿を映し出した。


 それを見てハヤトの顔がより一層強張る。


 ――直撃したはずだ。


 しかし現在、自由落下に身を任せる少女は明らかに無傷そのものだった。


 ――一体何が起こっている!?


 “力場”の存在など知る由もないハヤトにとって、それはまさに未知の相手だった。相手の魔法を防ぐ“魔法”を使う人間は稀に存在するが、同時に身体能力を上げたり空中に足場を形成したりする魔法など、彼は見たことも聞いたこともない。


 落下していく小さな身体――迎撃態勢をとる少年。

 火球の発射。少女のステップ――空中で上下左右自由自在に。

 ムイは()()()()間、時折自分は鳥にでもなっているのではないかと錯覚することがある。いや、ある意味鳥よりも自由なのかもしれない。


 火球の一つを弾き飛ばす――花火のように弾ける。


 炸裂エクスプロード――!


 爆発を背後に感じながらムイは心の中でそう呟く。


 それから彼女は上空から辺りを見渡した。観客席でユカが祈るように両手の指を絡めているのが見えた。一体何をそんなに心配しているのだろう、とムイは不思議に思った。

 それから再度視線を直下へ――少年が炎を纏った魔剣ブレイドを上段で構えているのが見えた。


「ちょこまかちょこまかと……コイツで終わりだッ!」


 敵の中の魔力が一点――魔剣ブレイドへと集まるのが分かった。ゴウッ、と音を立てて彼の周囲に炎が巻き上がったかと思うと、それらは集約され、あっという間に一匹の巨大な炎の不死鳥(フェニックス)を形成した。


 怪鳥音、羽ばたき、粒子の輝き、熱量。それらが一斉にムイの方に発せられた。

 しかしムイがそれに動じることはない。ただ真っ直ぐに見据えて、落下を続ける。


 少女と不死鳥――激突――飲み込み、上昇を続ける炎の塊。


 ハヤトはニヤリと、口角を上げた。過去さまざまな相手と対戦してきたが、この攻撃を回避しきった者は皆無だった。一撃必殺、回避不能、絶対無敵――ありとあらゆる称賛と畏怖の言葉で表現されてきた技である。


 神鳥が再度比喩しがたい声を上げ、夜空に爆散した。キラキラと降り注ぐ粒子は、この戦いの場でなかったらその美しさに目を奪われていたかもしれない。


 ハヤトは剣を空振りし、僅かに残っていた熱を払った。

 しかし、次の瞬間、とてもではないが彼にとって信じられないことが起こった。


「あのー、すみませーん、これって私の勝ちってことで良いんすよね?」


 ムイは明らかに場違いな声で、ハヤトにそう尋ねた。


 ――相手に魔剣ブレイドで直接攻撃したら勝ち。


 それがこの競技のルールだった。そしてムイはそのアドバイスに忠実に、今この瞬間、圧倒的なまでの炎を武器にする敵――羽柴勇人の背中にその小さな白い魔剣ブレイドを添えている。

 ハヤトはゾクリと背筋が凍るのを感じた。


 ――今、自分は何をされた?


 彼の内心は軽いパニック状態である。

 自身の必殺技で確実に仕留めた相手が、しかしそこに確かに存在している。立って、自分に刃を向けている。それも全く視認できないほどの速さで。あるいは完全に気配を消して。


 ――あり得ない!


 ハヤトは思わず呟いていた。


「お前は一体……何者だ……!?」


 その問いかけに、ムイはやはり同じような調子で答える。


「ただの通りすがりの女子中学生っすよ」


 一閃――

 ハヤトの背中――魔導着スーツをムイの刃が僅かに削り取った。しかし、当たり判定を得るには十分な接触である。ハヤトはまだ何か尋ねたがっているようだったが、魔導着スーツの転移機能には抗うことは敵わず、言いかけた言葉もろともフィールドから消えていった。


 対戦相手が完全に消失するのを見届けてから、ムイは「ふぅ」と小さく息を漏らした。


「やれやれ、これで一件落着っすね」


 身体の端から順番に粒子と化していきながら、ムイはそう呟くのだった。

霧野夢衣きりの むい

無所属

得意魔法「???」

パワー……B スピード……A スタミナ……A 火力……D 射程距離……D

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