バルコンに 逆光の海 輝きて 時止めるすべ 我に問う君
季節外れの海を照らす陽は、眺める間にグングンと海に迫っていく。
夕陽、夕焼けが有名なホテル、潮風の当たるこのテラスで旅を締めくくろうと、
もう1時間も前からコーヒーを飲みながらとりとめのない話をしていた僕たち。
ただ僕は美江がだんだん無口になっていくのを気にしていた。
季節が過ぎた海の街のリゾートホテル。
美江はそんなこと気にしないというけれど、君の今と将来をもっと大事にしなくては、
だから二人が遊ぶ先はいつも人影がない。
「どうしたの?寒い?」
胸を抱くように腕を組む美江は静かに首を振るだけ。
何かを耐えるときの美江のしぐさと十分知ったうえで尋ねる僕。
「いつから夕陽って名前が変わるのかな」
美江がふとつぶやく。
「え?」
「太陽がだんだん低くなって、空の色が青からオレンジに変わっていくでしょう。
それに太陽を直接見ても平気なくらい光は優しくなる」
「うん」
「夕陽っていう名前になるのは空の色?光の勢い?どこからなのかなと思ったの」
徐々に大きさを増す太陽の後ろの空はオレンジのグラデーションに変わって、
真上の空の青は消えかけている。
そして美江の横顔と向こうの海の波頭の一つ一つが逆光に照らされ輝き始める。
「あの落ちていく距離を時間というのね、だったら止められないのは仕方ないか」
美江の眼尻にひとつ光が加わった。