いや親父が憑くなんてありえないのでマジやめてください。
――七夕――其れはカップルの為の日……でも世の中はそんな事カンケー無く動いている。
そんな日に彼女いない歴16年(歳)の俺は、学校も創立記念日の休みで何の部活にも入って居らず、且つ何処かに遊びに行く小遣いも無く、自室に引き篭もっていた。
そんで親に買って貰ったPCの前に陣取り、暇を手余して……高速に利き腕を動かすべく、おかずを物色したワケよ。
んで、エロサイト波乗りしてタイトルバナーをポチっとな!
「全然ダメじゃん! リアリティねぇ!」
……まぁいくら暇でも、昨日からⅢ発も〇けばそりゃあね、飽きてくる。
誰か誘ってゲーセンでも行こっかな…。
「オイ、達人! 居るかぁ? 居るな、入るぞ!」
「ちょ! 父ちゃん! 待てよ!」
「……かぁー! くっせぇ。なんだこのティッシュの山は……オマエ猿か? 猿なのか?! ちったぁ外でてナンパでもしてこいよ( ゜д゜)、ペッ」
「俺の勝手だろ! てか何で下履いてねえんだよ! 入ってくんなよ! もう!」
「あぁ~なんかオマエ良いもん持ってねぇかなぁってさ。」
ケツをポリポリ掻きながら丸出しの親父がほぼ無断で部屋に入ってきた。
空いた片手には薄い本。と……
なんでパンツ脱いでんだよ!。息子からおかず借りんなよ!
「親父こそ外にナンパしに行きゃいいジャン! つうかパンツ履け! あ~もう、そのまま座んなよ!」
ブラブラさせたままドカッと胡坐を掻くとベッドの下を漁りだす。
「ちょ……コラ! なに勝手に探ってんだよ!」
「うるせーなぁ。今日暇なんだよ。休み今日だけだし……お、やっぱ親子だなぁ、俺と趣味似てやがる」
「ゲ! それ借りモンなんだよ…俺未だ全部見てねぇし……て、返せよぅ、もう!」
「良いジャンか…ケチくせぇ」
「……しょうがねぇなぁ、こっちなら良いけど」
「あ~、マンガかよ……ふぅん……んじゃホレ、こっちのやるゾ、見るか?」
「ハぁ? あ、……ほ~ん……うわちょ、モロ……」
パラっパラっと紙を捲る音、しばし静かな時が流れる
・・・・・・・
・・・・・・・
無言の時は流れ
「ふぅ。……まぁなんだな。公然と息子とおかずの交換なんてのも父子家庭の特権かもな!」
「……(いや、別に公然とかじゃねぇし)」
「なんだよもう賢者モードか? だらしねぇな。」
「……な、父ちゃん」
「ん? なんだ?」
さぁ終わった、とばかりに丸出しのケツをこっちに向けて部屋を出て行こうとする親父に声を掛ける。
先っぽにティッシュ付いてンぞ。あと、そのエロ本俺ンだけど!
「……再婚しねぇの?」
「…フッ、心配すんな。……俺は母ちゃん一筋よ!」
「モテねぇでやんの……」
「オ・マ・エ・!……(ハァ)人の事言うより彼女の一人でも作れよ? 俺ぁちゃんとホレた女と一緒になったぜ?」
……フン! かっこつけやがって。
そのイカツイ顔、赤らめて言ってもサマになんねぇぜ!
大体がその、エゲツねぇモン仕舞ってから言えや!
この丸出しヤロウが!
「(お?)……なんだ、黙んなよ……焦らなくっても良いんだぞ? 俺も結婚したの、遅かったからな…」
「べ、別に焦ってなんかねぇよ…」
「そうか……まあ頑張れよ」
フッと鼻で笑って(勝手に俺に理なくエロ本取った手とは反対の)空いた片手を振りながら部屋を出て行った親父は、翌日会社から帰る途中で事故に合い、そのまま帰らぬ人となった。
こうして俺は天涯孤独になった。
元々物心つく頃には母は既に他界し、親父と二人暮らしだった俺。
本当に一人になった俺を、親戚一同は心配したが、特にそれまで碌に顔も会わせた事も無い人達と同居等折り合いがつく訳もなく、生命保険だけは毎月滞りなく払っていた親父のお蔭で、俺が成人して少しくらいまでなら生活費は十二分に保証された。
……親父、今頃お袋と会えたかな。もしそうなら大事にしてやれよ、俺の分までさ。
カッコつけてそう、ポソっと墓の前で呟いただけのつもりだった。
だけど、気が付くともう駄目だった。
涙が溢れて止まらなくなった。
アレ、俺泣くつもりなんて無かったのに……
親戚も誰も居なくなって、ただ単に中二病(?)的にカッコつけたつもりなだけ、の筈だった……のに…!
唐突にボロボロ溢れてくる涙をどうやっても止める事が出来ず、墓の前で俺は一時間くらい泣き喚いた。
(達人、可愛い私の息子)
(泣かないで。私が守ってあげる)
誰も居ない家に帰り、自分で飯を作り、それも余りの味気無さに辟易して、風呂に入って寝る。
多くは無い友人達も、日毎何かとメールしてきたり、時には家に来てくれた。
が、幾ら乾いた笑い顔を繕ってみても、明らかに感情の無い表情しか出来ない俺に何となく声を駆け辛くなるらしく、次第に遠巻きになっていった。
そんなこんなで意識する事無く入った夏休みもあっという間に終わり、殆ど記憶に残らない二学期の日々のある日、夢に女の人が出て来た。
写真でしか見た事のない、お袋だった。
《達人……達人……私が、母が分る?》
《誰って……本当に…か、母さん?》
《えぇ! そうよ達人! 会いたかった! 私の達人》
《母さんか…えっと、初めまして。息子の達人です》
《そ……そうね。達人にとっては初めてなのね。__です。貴方を生んだ母ですよ。》
《どうした…の? 俺に……会いたかったの?……》
《えぇ、えぇ! 当り前よ! ずっと会いたかったわ! 貴方の母なんだもの!》
《そうか、俺……俺も会いたかった。今、初めて感じた! 母さん!》
生まれて初めて母という母性を感じた俺は、無条件に泣きじゃくり母の胸に飛び込んだ。
夢ならではだろうか、今俺は何故か赤ん坊になっている。
あぁ、ずっとこうして居たい……
……けど、気になる事が合った。
起き上がり身を離すとまた元の姿に戻る俺。
《あのね、母さん。親父は……父さんとは会った?》
《達彦さん?……お父さんならソコに居るじゃない、気付いてないの?》
振り向くとそこには……
目や口から血を吐き、全身血塗れの無残な親父の姿が在った。
「うわぁぁぁああああ!」
ベッドに飛び起き、全身汗まみれで壮絶に呼吸を繰り返す。
心臓がそのまま飛び出すんじゃないかと思う位激しく踊っている。
「なんだよぉ!。夢かよ!……あんまりなモン見せんな!」
手近にあった枕を八つ当たりで壁に投げつける。
ボフツ!っと壁から落ちた枕を見つめ、誰も居ない部屋で俺は泣き叫ぶ。
「くそ! なんで! なんで今になってこんな夢見んだよ!」
あんまりじゃないか!
こんな、こんな俺だって親父の事……好きだったさ。
母さんなんて覚えちゃいないし、親父はあれで……俺の、たった一人の家族だったんだぞ!
それをあんな……あんな最後ってあんまりだ!
「そっかぁ。お前、俺の事気に入ってたのか。父ちゃん嬉しいぞ!」
ビクゥ!っと顔を上げ、声のした方を振り返る……!
「な!%&(%$#!」
心底、否魂の奥底から恐怖と悲しみが込み上げて混乱し、思考が滅茶苦茶に荒らされる。
「う゛ひ゛ゃ゛ぁ゛ぁぁぁぁあああああああああああああああ!」
「な、なんじゃそりゃ! オマ、どっから声出して…お、落ち着け! オマエの顔の方が恐ろしいわ!」
そこには生前となんら変わりない姿の親父が居た。
「なな、なんで親父がっ! アンタがココにいんだよ! アンタ、死んだんじゃ無かったのか!?」
「ま、まぁ落ち着けって、その顔マコトちゃんか己は! オマエなんちゅう声出してんだよって……、まぁしょうがないか」
「どどど、どうして?! なんでココに?! 誰か化けてんのか?!」
「いや、俺ぁお前の父ちゃんだよ。」
「し! しししし、信じないぞ! だって、お、俺アンタの…父ちゃん、俺っ! 火葬場でっ! スイッチ押したんだぞ!」
そう叫んだ瞬間、バツの悪そうに曇った表情の親父が、直ぐに考え直した風な、まるで諭そうとするように片手を挙げつつ、ゆっくり俺に近づいた。
俺は到底信じられない光景に言い知れぬ恐怖が込み上げ、全身に冷水を浴びた様に身体をガタガタと震わせ、タオルケットをほっかむる。
「はうわぁぁぁ!」
「スマンな、脅かして悪かった。……だから怯えんなって、ちゃんと話すから。なぁよぅ……そうだ! 父ちゃんともっかいセン〇リでも掻くか!」
言い様の無い恐怖に脅える中、そこで俺の何かがプツン! と切れた。
目覚まし時計が壁に打ち付けられ粉々になる。
なんだよコレ、まさかドッキリとかじゃないよな?!
もし……そうなら……幾らなんでもアリエネーぜ!
俺、相当頭に来てる……つーか、えらい力入ってんな……。
頭の何処かが急速に冷静になっていくのを自覚しつつ、それでもまだ俺は混乱から完全には立ち直ってはいなかった。
「心配すんな……お前の記憶通り、俺ぁちゃんと死んでるよ」
「!? じゃ、じゃあやっぱり成仏出来なくて化けて出た!?」
「ま、まぁそうなるけど、実の息子に祟ったりしねぇよ……。安心しろ!」
「そそ、それじゃなんで? こんな事に?」
「いいか達人、しっかり聞け。俺は死人だ。が、その前に何よりお前の親父だ。嘘は言わん!」
「う、うん……」
そ、そうか……そうだよな……親父が死んだのは本当なんだ……
まだ信じられないけど…てか信じらんねーよ!
今まで見た事ない位饒舌気味な、自称(?)死んだ親父に由ると、どうやら自分が死んだあと、魂(?)だけの存在となって上から一部始終を見下ろしていたらしい。
(どう呼びかけても他人は疎か、俺すら反応しないので、そう自覚したとの事)
「てかよぅ、そう感じたらもう……解っちまった。『あぁ俺は死んだんだな』て納得した、つー感じかなぁ……。それからふとな、『まぁ死んだンならいっそ、先だった愛しい妻に会えるかも(♡)』とな?、ふよふよ~と家に帰って来た訳だ……誰も相手してくんねーしよぉ。……勿論、オマエもな。」
「ハ?! いや、ぜっんぜん聞こえなかったし! て大体俺、…葬式の後、すぐ家に帰ってきてたじゃん…」
なんだよ、その(♡)印はよ……
「いやそれがなぁ、俺の時間の流れが違うのか…家に帰ってきてからはなぁ、ホントにお前の姿すら見えなかったのよ。それこそゴーストタウン……いや、ハウスか。侘しいったらなかったぜ…」
家に居た俺すらも認識できなかったらしい。
が、それはまぁ今はイイ。
兎に角それから親父は、まんじりともせず、かと言って家から出る気には為らず、永遠に暮れない夕日の射す家の中で、文字通り途方に暮れていた、という。
そしたらとうとう、
「「お迎え」が来やがった。」
と親父は溜息をついた。
その時の親父の説明は余りにも奇怪、ていうか願望混じりの御都合展開に思えたので割愛することにする。
んで、連れて逝かれた冥界とやらで、他のふよふよした何かの塊の様なモノ達の列に加わって、何れ来る審査の順番待ちをしていたらしいんだが(何故かそう理解したそうな)、親父だけ「オマエさんはコッチ」と引っ張られて、気が付いたらイキナリ目の前にドデカイおっさんが鎮座した卓前に引っ立てられていた、との事。
「無茶苦茶怖かったぞ! ありゃ閻魔様って奴だな!」
「閻魔様?! へぇ……た、大変じゃないか…」
閻魔様って確か、生前の罪を記録された閻魔帳に応じて、魂を地獄へ申し渡す人(?)だったはず…だっけ…!?
「ンだよ、ノリ悪いなぁ」
「いや、ノリとかそんなんじゃないだろ! ……親父……もしかして、地獄行きなの?」
流石にたった一人の家族だった親父が地獄行き、てのはちょっと納得がイかない。
理屈なんかじゃない、そんなモノ、どうだっていい。
俺にだって親父に関して言い分が、……ある!
俺自身、過去に持て余したイライラを八つ当たり気味にバカやった時、それこそニ三度ブッ飛ばされた事はあったさ。
だけど、ネグレクトとか虐待された、なんてことは先ず一度もない。
それに俺は知っている。
(今は社畜とか言うんだろうけど)
会社のチームの為に、敢て部下に嫌われる役を買って出た事。
それでも部下には慕う人も結構居る事。
その理由が嘗て居た上役が致命的なミスを犯して、其れを一方的に部下に責任転嫁をして来た時、全くの管轄外にも係わらず、『相手先に顔が効くから』と云って躊躇なく一緒に頭を下げに回ったりした為だという事も聞いた。
「達人君だね? 牽牛室長……君の御父さんには、苦しい時に本当にお世話になったんだ。……取引先への信用が損なわれない様、迅速に対策業務の手を打った上で、直ぐに僕を営業先に引っ張って。……横暴なだけだった当時の上役が居なくなった後でも、何かとチームがギクシャクしない様に、現場が円滑に回る様に、いつも気を配って下さった。……少なくとも僕は、僕たちは……。あんな風に部下を思いやれる、尊敬できる人を他に知らない…!」
葬式後、わざわざ火葬場まで来てくれた、何人もの会社の人達から何度も同じ様な事を聞かされた。
涙を堪えながら、それでも肩を震わせて背を向けたその人たちに、俺も熱い何かを感じた。
他人からそんな風に慕われる親父を、俺は尊敬してるし、誇りに思う。
それでも地獄行きだってんなら…俺は……、俺は!
「へ…、俺ぁ良い息子を持った。クッ!」
「え、…な、泣くなよ。て、心読むなよ! てか読めんの?」
「おう、楽勝でな!」
「へ、へぇ…」
ソ・レ・で、閻魔様が宣うには。
↓
親父は別に今回の事故で死ぬ運命では無かったらしい。
云わば死神側の管理チェックミスだったのが発覚した時には既に遅く、親父の肉体も火葬され魂の戻る器が無い。
が、普通こういう事って滅多に、つーか、何百年も起こった事が無いらしい。
↓
どうにも胡散臭い何かが在るので冥界側が調べる。
↓
親父は仕方ないので沙汰が下るまで俺の背後霊になっててヨイ。
とのお達しで現世に戻ったそうな。⇦今ここ
「えぇぇ、じゃコレからどうすんのさ」
「別にお前の邪魔にはならん。良いだろ? 実の父親が背後霊なんてYO!」
「よぅ!て……どうツッコんだらいいんだか判らんけど…背後霊って?……守護霊じゃないの?」
「ン、微妙に違うらしい。(格がどうとか、どうでもイイだろ、俺が息子を守ればいいんだからな!)」
「なんか言った?」
「いや? 何も?」
「ハイハイ。ココで冥界の使者である私が参りましたよ、とね」
「な! なんか別の出た! お、親父! こ、この人(人なのか?)誰?!」
「あ、死神さん! お世話になります」
ペコっと頭を下げる親父。その親父に特に偉そうにするでもなく、同様にペコリと頭を下げる黒装束の人。
なんだかどっかの営業マン同士の挨拶みたいな…。
「初めまして牽牛達人さん。私、こういうモノでございましてねぇ」
手渡し(?)してきた手は骸骨の手!
そんでよく見ると顔は幼女なのに半分がシャレコウベで、しかも透けて見える!
ウワ! この人(?)、本物だ!
……てか『あの世』に名刺て、…有るんだ……
「牽牛達彦さん。困りますねぇ。幾ら息子さんの背後霊でも、こうもペラペラと社外秘(?)を話されてはねぇ」
「すいませーん! 息子は頭が固くて事実をちゃんと教えとかないと、偶に曲解しちゃって大変なんですよ。それに……」
「(下手に隠すより最初に『隠しようのない事実だけ』言ってしまっとけば、後から変に合わせるよりマシですよ。ネタがネタですから他人に漏らしても相手にされませんし!)」
「(そーかもしれませんがぁ…、あんまり御痛が過ぎると閻魔大王様もねぇ……。夜魔の王様、怒らせるとねぇ、怖いンですよぉ……チョー危険なんです(私の身が!)」
「(はい、それはもう……あの、最後何て仰いました?) 」
「ウォッホン!(いえ別に! …閻魔様の御叱りって解りますよねぇ?……もしそうなったらアナタ、本当に、タダじゃあ済みませんよ?)」
「(も、勿論ですとも! 全力を尽くします!)」
勿論俺はとっくに蚊帳の外で、何やらウンウン、と頷く死神娘さんに妙な違和感を感じるが、まぁイイ。
「さて達人さん、これからしばらく厄介になります。宜しくお願いしますね」
「は!? はぁ? ど、ドウイウコトデスカ?!」
「実はですねぇ、貴方さっき酷い夢にうなされてたでしょ? アレ夢魔が取り憑いたんですよねぇ」
「へ!?」
「アナタのお父さんである達彦さんが、守護者である私に警告、私が悪霊を祓う。というサイクルで、貴方を見守る役を買って出た訳なんですねぇ」
顔半分にシャレコウベの面を付けた、見た目は可愛らしい幼女っぽい死神娘…いや死神子か? は、何時の間にかドコから取り出したのか、親父の倍はあるサイズの大鎌を背後に背負っていた。
それにしても、顔半分は面だけど、身体はホントに半身が骸骨て……
「そ、そうなの!?」
「そうだ、お前は俺が(見)守る!」
被り気味で親父が生前(?)見た事ない程、頼もしいドヤ顔を輝かせる。
……ツッコミどころが掴めない俺はそのまま流して質問する。
「守護者というのは? 何故貴女が……えっと、」
「カササギと申します。」
「カササギさん? 守護者と云うのは?」
「はい、貴方の守護霊はどっか行っちゃってて…。居ないんですよね、今。(ていうか背後霊も全部居ないんですけどね)」
「え!? そうなんですか? それっておかしいんですか?」
「いやまぁ、ソレで私達が憑きますから安心してください。……閻魔大王から直々に警護を遣わすなんて滅多に無いですからねぇ。誇ってくださいねぇ。」
よく解らない……いや、なんでそうなるの?
でも親父が、死んだはずの家族が、こうしてまた話したりする姿を見て、なんとなく……この上ない安心感を感じるのは、歳のせいだけじゃないハズ。
俺、実は結構恵まれてるのかな。
「(あ、達人)」
「(え、何? なんでヒソヒソなん)」
「(俺のAVそのままにしとけ。片付けんなよ)」
「(は? とっくにマイコレクションにしたって、そんなモン)」
「オイオイ、いくら息子でも家族間にはプライバシーてのが」
「何のお話ですかねぇ?」
「いやぁ、こっちの話ですよ? な!」
「え、ええ、親子水要らずって奴ですよ!」
「そうですか、あ、私守護者ですけど、別に四六時中一緒って訳ではありませんので安心してくださいねぇ」
「は、はぁ(ホッ……良かったぁ。いくら死神ても幼女だし…ねぇ?)」
「それにしても……流石にこのお年頃の男子の部屋は私にはキツイですね。こりゃ生身になったら(生臭さで)卒倒しそうですねぇ…」
「え?! 生身ってなんですかソレ? ……よく判らないけど、必要なんですか? ソレって…」
「(ちっ)…」
え、……ナニその『勘の良いガキは嫌いだよ』みたいな顔…?
瞬間覘かせた、醜悪な老婆の様な表情を直ぐに取り繕うと、死神子は
「いやぁ悪霊ってね、人間に憑りついたりするでしょ? さっきみたいに。私も冥界からずっと監視するのも七面倒なんでねぇ(他にノルマあるし)。かといって間に合わなかった、からの祟られて破滅、なんて嫌でしょ?……まぁそれだけ今の貴方は無褒美だって事ですねぇ」
と説明長な喋りで、まるで何も無かった様な幼女な笑顔で言った。
途中にボソっと挟む独り言も気になったが、死神子の言ってる内容を噛み砕いている内、段々現実感が追い付いてきて、
(もしかして結構腹黒キャラ? ヤレヤレ、コイツは……ヘビーな展開って奴だぜ…)
なんて内心呟いた、己の中二加減にゾッとしてきた。
(イヤイヤイヤ、俺こんなキャラじゃないって!……でも、なんだろう今の)
「それじゃ、達彦さん? 何か合ったら呼んでください。私、ソロソロお暇しますねぇ」
「あ! ハイ。これから息子共々宜しくお願いします。」
「父共々、宜しくお願いします。」
「ハイハイ、宜しくですねぇ~」
で? ナニ、生身って……なんかすんの? 全然わかんないんですけど……
半分シャレコウベ、半分幼女顔の死神さんは還って(?)逝った。
多分あの世に。というか「冥界」か…
これからどんな生活が待っているのか解らないが……まぁ、なる様になるだろう。
取り敢えずは親父も一緒だし……やっぱりどっかで安心した。霊だけど。
我ながら随分落ち着いてきて、さっきアレだけ取り乱したが嘘の様な感じだ。
正直淋しかったのは本当だけども。
……にしても母さんか。なんであんなに懐かしいって感じたんだろ。
実際に顔見た事……覚えてすら無いのに。
「なぁ、親父……何やってんだよ?」
「うん? ……お前さ、俺のコレクション全部持ってきたんか」
「あぁ、だってメンドクサイじゃん、一々親父の部屋取りに行くの」
「ん~~。あ、お前偶に俺に身体貸せ、な。」
「ハァ? 何言ってんの? 普通に怖いんだけど」
「いやな、俺幽霊だからさ、ムスコ扱けねぇんだよ。肉体無いから。お前まだ若いんだし、つか猿だし、良いだろ?」
「出てけよもう!」
はぁー、どうなってんだか。先の事は思いやられるのでとっとと寝る事にした。
タオルケットをもう一度腹にかけ直して目を閉じる。
いつか今度は、自分が死んで親父やお袋と水入らずで過ごしたり出来るんだろうか。
そんな淡い子供チックな事を考えながら、その後は夢なんか見ず、久しぶりにぐっすり寝た。
そして翌朝。
「ピンポーン」
鳴り響く玄関チャイムの音に目を開けると、目前にニヤリと笑う親父の顔のドアップで慄き、スカる俺のパンチ&キックを涼し気にシカトしながら、屁をコク仕草をして見せる親父に癇癪をぶつけるも、何故だか安堵する俺なのであった。