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ぞわりの穴  作者: 村良 咲
4/25

河原

シュッ・・・ピュッピュッピュッ・・・

「やった!3回もはねた!」

「きぃちゃん、すごいすごい、じょうずだね~」

「3回もはねたの、はじめてだよ。

あの石がよかったんだよ。まだないかな、平らな石」

2年生の私たちは帰りも早く、遊ぶ時間はたっぷりあった。

その日も、学校から帰ってきた私ときぃちゃんは、河原で石投げをしていた。

平べったい石を川の水面に向かって平行になるようにして、

斜めに風を切るようにして川に投げると、

石が水面を1回2回とはじいて飛ばす遊びも、いつもの遊びの一つだった。

「できるだけ平べったい石のほうがうまくはねるんだって、

お兄ちゃんが言ってたよ」

6年生になるきぃちゃんのお兄ちゃんは、

魔法使いかと思うほど石投げが上手で、

いつも川の上を5回も6回もはじかせていた。

きぃちゃんは、そんなお兄ちゃんから遊び方を教わることが多く、

私より早く上手に石投げができるようになり、

その他にも私の知らない遊びをたくさん知っていた。

きぃちゃんは、今見つけた平べったい石を一つ持ち、

ポケットにも、拾った平べったい石がいくつも入れていて、ふくらんでいた。

それらは、私が探した平べったい石よりも、もっと薄いものだった。

「きぃちゃん、今日は石いっぱいだね」

「お兄ちゃんからもらったのも入ってるから」

「見せて見せて」

きぃちゃんはポケットを探って、

薄くて丸い石を一つ出して私の手に乗せてくれた。

「こんな平べったい石ならうまくはねそうだね」

「さっきの3回できたのも、お兄ちゃんからもらったのだよ」

「きぃちゃん、いいな~お兄ちゃんがいて」

私はきぃちゃんが持っている平べったい石より、

もっと平べったいのがないか探したけれど、

そんな綺麗な丸く平べったい石は、なかなか見つからなかった。

「ガツッ」「いたっ」

右斜め後頭部に何かが当たった私は、

目がチカチカしてふわっとしたと同時に蹲った。

石を探している間にも、

石を見つけては川に向かって投げていたきぃちゃんの投げた石が

私の頭に直撃したのだった。

きぃちゃんは、お兄ちゃんにもらった丸くて平べったい石ではなく、

河原にあった、平べったいことは平べったいが、

自分の小さな手にやっと収まるような大きめの石を見つけて、

それを川面に向かって投げたが、

いつもより大きいその石は、上手くコントロールできずに、

きぃちゃんの左側の、

少し離れたところで石を探して屈んでいた私の頭に当たったのだった。

「みーこちゃん、みーこちゃん、ごめんねごめんね、

いたい?いたい?ごめんね」

泣きながら繰り返すきぃちゃんの声を耳元に感じながら、

痛みで涙が止まらない私は、

声も出せずに当たったところを押さえたまま蹲っていた。

すると、誰かが石の上を飛ぶように走ってくるような音が聞こえてきた。

「どうしたどうした?」

「みーこちゃんが、みーこちゃんが、石が、あたまに当たって・・・」

泣きながら私の名を呼ぶきぃちゃんの声がまた聞こえた。

「みーこちゃん、大丈夫か?横になろうね」

そういって私の身体を横たえたのは、牛乳屋のおじちゃんだった。

私を寝かせたおじちゃんは、持っていたハンカチを川の水で濡らすと、

石が当たったところに当ててくれた。

「みーこちゃん、痛むか?見せてみ」

そう言って、私の頭を少しだけ横にした。

「ああ、ちょっと血が出てるけど、大きな傷じゃないから大丈夫だよ」

「みーこちゃん、だいじょうぶ?」

申し訳なさそうにそう言ったきぃちゃんは、もう泣いていなかった。

大人が来て、大丈夫だよと言われて少しだけ安心したようだった。

痛いことは痛いが、だんだんそれも薄らいでいていたけれど、

少しだけ、意地悪な気持ちが出てきた私は、まだすごく痛い振りをした。

「痛い、痛い、血が止まらなかったらどうしよう、頭が割れたらどうしよう」

「あっはっはっは」大きな笑い声と、

「割れたりなんかしないから大丈夫だよ」という声が聞こえた。

「きぃちゃん、みーこちゃんの頭は割れたりしないから大丈夫だよ。

まだぶつけたばかりだから痛いけど、ほら、血だって止まってきた」

そういってハンカチを傷から外してきぃちゃんに見せた。

「でも、血がついてる」

「いっぱいついてる?」

そう言った私にも、そのハンカチを見せてくれた。

血は、濡れたハンカチの水に滲んでいたが、ほんの少しのものだった。

私は、ホッとしたと同時に、頭の血を目の前にして、ぞわりとした。

でも、そのぞわりはヘビを見た時やヘビの話をしたときのぞわりとは

少しだけ違うぞわりだなと、不思議な感じがしていた。

「頭の傷は大丈夫だと思うけど、今日はもう帰ろうな。

みーこちゃん、起きれるか?おじちゃん送って行ってやるから」

「うん、おきれる」

そう言って立った私の目は、さっき感じたチカチカもなくなっていた。

「石投げしてたのか?」

きぃちゃんのポケットの膨らみを見ておじちゃんがきぃちゃんに言った。

「うん」

「人がいるときは投げるときに気をつけないとダメだぞ」

「ごめんなさい」

私も一緒に投げてたけど、痛かったのは私だし、

注意されたのはきぃちゃんだけだと思った私は、少しだけホッとした。

牛乳屋のおじちゃんは私をおぶって、

堤防へ上がるのに砂利で舗装されている方向へと歩き出した。

おじちゃんにおぶさった私は、

スカートが上がってパンツが見えてしまわないかと、

右手でスカートの裾の辺りに手をやりながら、その位置を確認した。

ぎりぎりでパンツは見えないかなと思った私は、

でもここでは見えても見えるのはきぃちゃんだけだと思って、

まあ、いいかと、右手をおじちゃんの肩にかけた。

すると、いつもと違う何かを感じた。

その何かは、ひどくあやふやな、

かかってるのかどうかもわからない薄い靄のようなもので、

靄の中に手を入れてかきわけるようにして、その何かを探っていた私は、

そうだ、おじちゃんは、

いつも着ている牛乳を運んでくるときの給食着みたいな洋服と違って、

襟のついている洋服を着ているんだということに気付いた。

その襟を見ながら、そういえばおじちゃん、

どこかに行く途中だったのかな?

こんな洋服も着るんだなと子供ながら思っていた。

そんなこと思いながら、そうだ、

きぃちゃんにもそのことを教えようと顔をそっと後ろに向けると、

きぃちゃんは、選んだ石の上を落ちないように飛びながら、

その後ろをついてきていた。

きぃちゃんは、石の上を落ちないように飛ぶのも上手だった。

ふわっと風が吹いた。ジャンプすると同時だったその風は、

きぃちゃんのプリーツのたくさん入った短いスカートもふわりとさせた。

見えた。

きぃちゃんの白いパンツがしっかりと私の目に入った。

それを目にして、

私のパンツもきぃちゃんになら見えちゃってもいいやと思っていた。

顔を前に戻すと、おじちゃんも顔を後ろに向けていたことに気付いた。

もしかして、おじちゃんにもきぃちゃんのパンツが見えちゃったのかな。

そう思った途端、私はぞわりとした。

でも、どういうわけか、そのぞわりをおじちゃんに知られたらいけないと、

いつもと違う何かを無意識に感じ取っていた。

そのぞわりは、ヘビを見た時のぞわりとなんだか似ていた。



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