表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王代行の理想郷  作者: 瀬川裕
第2章  鏡魔王アスト
9/12

8話 疑念の正体

 依頼達成から1週間程が過ぎた頃、メフィストが城に訪ねてきた。すぐに来れなかった理由は、ギルドの受付を辞める為の手続きと、傭兵募集の呼びかけで忙しかったからだそうだ。


 その呼びかけには、今回の依頼達成も含まれており、おかげでかなりの兵士が集まった。

 何でも、より強い者の配下になることは、冒険者にとって誉れとなるらしい。


「ドラゴン討伐なら尚更か……。で、今は何人くらいなんだ?」

「およそ150人です。苦労の甲斐がありましたよ」

「ああ、ありがとう。おかげで助かった」

「あの、メフィストさん……。その言い方はアスト様に失礼では?」

「おっと、これは失敬。ご無礼をお許し願います」

「いや、良いんだよ。フェリスも、あまり責めないでやってくれ」

「……分かりました。アスト様が仰るなら、仕方ないですね」


 どうやら、フェリスとメフィストはあまり仲が良くないようだ。これから同じ城に住むのだから、もう少し仲良くしてほしい。


 しかし、フェリスは俺を買い被り過ぎてはいないだろうか。俺はそこまで立派な人間ではないのだが……。


「とにかく、この調子で集めていこうか」

「はい。それはそうと、アスト様は領地を取り戻す為――つまり、民の為に兵力を集めているのですよね?」

「ああ。誰から聞いた?」

「フェリスさんからご説明して頂きました。それで、その後はいかがするのです?」

「その後? ……特に考えていないが」

「ほう。てっきり、人の民を貶めるのかと……」

「メフィストさん!? 貴方……アスト様に何てことを!」

「2人共、やめ――」

「しかしフェリスさん。普通、それが魔王としての務めでしょう?」


 やはり、そうなのだろうか。あまり考えないようにしてきたが――考えたくないだけかもしれないが――魔王は人にとって、害悪にしかなれないのか。


「いい加減にして下さい! 貴方にアスト様の、何が分かるのですか!?」

「僕はただ……魔王がそういう務めだ、と言っただけです。論点をすり替えないで下さい」

「同じことです! 貴方はそれを、アスト様に仰ったのですから!」

「2人共、落ち着け! ……俺達はもう、仲間なんだ。争っても無意味だろ?」


 慌てて仲裁に入る。このままでは両者共、退かないと思ったからだ。もっとも、単にこの険悪な雰囲気が嫌だったというのもあるが。


「……そうですね。その通りです」

「アスト様がそう仰るのなら……」

「それと、俺は人に危害を加えるつもりはない。あくまでも、俺は領地の民の為に動く」

「良かった……。流石はアスト様です」

「そうですか。僕はご意向に従いますよ」


 ひとまずこの場は収まったので、俺は胸を撫で下ろした。

 メフィストが人間には敵対的なのかと、少しだけ疑ってしまったが、どうやら違うらしい。しかし、妙な引っかかりがある。何だろうか……。


「……まあ良い。とりあえず、今日はもう解散だ」


 そう短く告げて、俺は自室に戻った。


                    ***


 この1週間、俺は何もせずに過ごしていた訳ではない。兵の指揮系統を整えて部隊を編制したり、自分の能力について考えたりもした。

 

 兵は大きく3つの部隊に分けた。


 1つは進攻隊で、敵地に攻める役目を持つ、約60名程の部隊だ。


 2つ目は防衛隊で、こちらは領地に常駐し、治安維持や敵の迎撃に備える、同じく約60名程の部隊だ。


 最後は遊撃隊で、臨機応変な処置をする為に、決まった役割を持たない約30名程の部隊だ。


 自分の能力については、今のところ光を集めて、より強い光として反射出来るとしか分かっていない。

 具体的に何を、どこまで反射可能なのか。今後はそれらを明らかにすべきだろう。


「アスト様、いらっしゃいますか?」

「……フェリスか。いる、入って良いぞ」

「失礼します」


 そう言いながら、フェリスは部屋に入ってきた。あれこれ考えていても仕方ないし、フェリスと話すのも良いだろう。


「どうした? 何かあったか?」

「いえ……。その、先程は申し訳ありませんでした」

「先程? 何だっけ……」

「あのように騒ぎ立ててしまって……。お気を悪くされたでしょう?」

「ああ、別に良いよ。ただ……」

「……ただ?」

「フェリスは俺を買い被り過ぎだ。言っておくが、俺はそこまで出来た人間じゃないぞ」


 思い切って言ってみたが、流石にまずかったか。フェリスは呆気にとられたような顔をしているが、すぐにいつもの真顔に戻った。


「そんな……。アスト様は、とてもご立派ですよ」

「……何故そう思う?」

「えっ? ええと……民の為にご尽力されているからです」

「メフィストの手前ああ言ったが、実際はフェリス……お前の為だ」

「それでも、ご立派です」


 いつもより真剣な眼差しで言われ、思わず黙ってしまう。確かに動機はどうであれ、その行為自体は立派なのかもしれない――そう納得させられる程だ。


「そうだな……。上に立つ者が弱気じゃ駄目だよな。悪かった、もう大丈夫だ」

「はい……。良かった、いつものアスト様に戻って」

「いつもの? 戻った? ……どういう意味だ?」

「ええ。今日のアスト様は、どこか変でしたので……」


 言われてみれば、確かにそうかもしれない。原因は分からないが、何故か陰気になるというか、言い知れぬ疑念が生じてくる。


 いや、これはもしや――


「アスト様、北の砦から兵士が来ました。いかがしますか?」


 不意に、扉の外から声がした。その声の主はメフィストだ。

 しかし、何の為に北の砦から兵士が来るのだろうか。それが分かれば、俺の疑念の正体が分かるのかもしれない。


「その兵士と話がしたい。用意を頼む」

「分かりました。すぐに済ませます」

「……行こうか、フェリス」

「は、はい!」


 こうして俺達は、最低100年は使われていなかった謁見の間へと向かうことになった。

 

                    ***


 謁見の間は綺麗に掃除されており、100年もの間ずっと使われていなかったとは思えないくらいだ。

 

 彼――その兵士は疲弊しており、今にも倒れそうだった。聞けば、北の砦で何度も敵に襲われ、命からがらここまで連絡に来たそうだ。


「ご苦労だった。俺はアスト――アスタロトだ」

「あ、貴方が……!? 良かった……。これで姫様は救われる!」

「……何があった? 報告を頼む」

「はい……! 報告します。北の砦が疑魔王(ぎまおう)の軍に襲撃を受けています! 現在はアスタリード様が交戦中です!」

「なっ!? 襲撃!?」

「はい……。お助け下さい! このままでは、姫様が……!」

「……お前はもう、休んでいて良い。後は俺に――俺達に任せろ!」

「は、はい! ありがとうございます!」


「メフィストは……彼を寝室へ。それと、遠出の支度を」

「分かりました。お任せ下さい」


 なるほど。思った以上に事態は深刻のようだ。今は俺の妹が交戦中らしいが、それもいつまで保つか分からない。

 ここはやはり、迅速な対応が最重要だろう。


「フェリスは、先に遊撃隊を半分と進攻隊を向かわせてくれ。進攻隊は急襲、遊撃隊はアスタリード達の保護だ。それと、同じく遠出の支度もだ」

「はい! すぐに済ませます!」


 兵士はこれで良い。問題は敵の戦力だが……。今はそんなことを考えている場合ではない。

 不安と焦燥感を抱きながら、俺は支度を急ぐ。

 


 

 



 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ