11話 勇者との同盟
その来訪者は、たった1人だった。よくある『パーティ』を組んでいるわけでもなく、付き添いがいるわけでもない。
何より意外だったのが、まだうら若き女性だったことだ。年齢は恐らく、前世の俺と同じくらいだろう。
「……貴方が魔王?」
「あ、ああ……」
「ふぅん? 意外と人っぽいのね」
「えっと……。もしかして、勇者?」
「そうよ。どうして分かったの?」
「何となく。でも、俺も意外だな……」
「意外?」
「勇者なのに、女性だったから」
思ったことをそのまま言葉にした直後――俺は、猛烈に後悔した。彼女がこちらを睨みつけていたからだ。
「……何よ。女が勇者だったらダメなの?」
「あ、いや、そういうわけじゃなくて……」
「じゃあ何?」
「すまん、俺の偏見だった。勇者なんて、立派だな」
「……と、当然よ!」
立派と言われたからか、控えめな胸を自慢気に張っている。もっとも、彼女の胸はただ小さいのではなく、体とのバランスには造形的な美しさがある。
「それで……何の用だ?」
「もちろん、勇者として貴方を倒しにきたのよ!」
彼女はそう言って、背中まである栗毛色の綺麗な髪を払った。
だが、その光景に見惚れている余裕は、俺にはなかった。
「は? ……倒す? 誰を?」
「だから、貴方よ、貴方!」
「……は!? いや、ちょっと待った! ……冗談だろ?」
「本気よ! 覚悟しなさい!」
彼女は、気の強そうな瞳で俺を見据えている。
その瞳は金色で、温かい光を携えている――まるで、あの日の帰り道で見た月明かりのように。
「待った! ……頼む、話をさせてくれ」
「話? ……良いわ、聞くだけ聞いてあげる」
「その前に……俺はアストだ」
「……ルーシェよ」
「じゃあ、ルーシェ……さん。俺は、ルーシェさんとは戦いたくないと思ってる」
「どうして?」
「分からない。ただ、そう思うんだ」
「ふぅん……。でも、私は貴方を、倒さなくちゃいけないから」
それには一体、どのような理由があるのだろうか。その内容次第では、どうにか解決出来る気がするのだが。
考えられるものは、俺が人間にとって害悪となる、悪い魔王だと思われているということだ。
どうにか違うことを証明しないと、このままでは本当に戦わざるを得ない事態になってしまう。
「俺は、人に危害を加えるつもりはない」
「……すぐには信じられないわ」
「なら……!」
「……私がここに来たのは、貴方が不穏な動きをしてるって聞いたからよ――」
ルーシェから説明されたのは、ここに来ることになった経緯だった。
要約すると――占い師から、俺が復活して兵を集めていると聞いた。実際に来てみたら、それが事実だと分かったという内容だった。
確かに、事実ではあるが……。
「――そういうことだから、良い?」
「良くない! いや、それ、誤解だから!」
「……どういうこと?」
「良かった、聞いてはくれるのか……。実は――」
今度は俺が説明した。領地のことと、ソネイロン達のこと。兵を集めているのは、それが理由だということも、全て話した。
「――だから、俺は人に危害を加えるつもりはないんだ」
「……ふぅん? でも、その後はどうするつもり?」
「その後?」
「領地を取り戻した後よ」
「それは……」
正直な所、何も考えていなかった。正確には、ただ領地を取り戻して、その後は現状維持でも良いと思っていたのだ。
だが、今それをはっきり言うわけにもいかないだろう。ここは、話を盛ってみるとしよう。
「……人々の不安を取り除く為に、乱れた魔界を統一する」
「……何? 今、何て……?」
「魔界を統一する。それが俺の、やりたいことだ」
魔界が乱れているというのは、以前フェリスから聞かされていた事実だ。何でも、魔界を統治する魔神の力が弱まり、均衡が崩れたのが原因らしい。
俺の階級が下がったことも、その内の1つだろう。
「魔界を統一……貴方が!?」
「ああ。それが領地の為にも、人間の為にもなるはずだ」
「……確かに、魔界に秩序が戻れば――魔王が暴走することもないわね」
「だろ? で、ルーシェさんは人間の安心の為に戦っている……。利害が一致するってわけだ」
「なるほど……! でも、貴方に言いくるめられてるみたいで……何だか、気にくわないわ」
そういう問題だろうか。どうやらこの勇者様は、少しひねくれた性格のようだ。先が思いやられるが、多少のことは大目に見よう。
「とにかく。ここはお互いの為に、同盟でも結ばないか?」
「……まあ、どうしてもって言うなら――」
「どうしても、だ」
「……分かったわ。同盟、結んであげる」
半ば強引な流れだったが、何とか同盟を結ぶことが出来た。このまま上手くいけば、ソネイロン達にも余裕を持って勝てるだろう。
自分でも打算的な考えに呆れてしまう。だが、せっかく持てた希望を無下にすることは、俺には出来なかった。
《人物紹介》
名前:フェリス(女)
種族:魔族【側近】
特徴:水色の髪と瞳。巨乳。
特技:対人格闘術