10話 新たな能力
攻撃を回避され、剣が空を切る。俺は体勢を崩しかけたが、咄嗟に踏みとどまった。
「アスト様!? 何を……!?」
「敵は……切る!」
「そんな……。私は味方です!」
「フェリスさん、下がって! 多分……聞いてくれないよ」
そう言って俺の前に立ちはだかったのは、ツインテールの少女だ。こいつは――敵、か?
「邪魔をするな!」
「あなたこそ……! 油断なんかして!」
「ふん。仲間の手で身を滅ぼせェ!」
少女が何かおかしなことを言っているが、気にする必要はない。
俺は一気に間合いを詰め、少女に剣を振り下ろす。
「……!? どうして斬らないの?」
「お前は……敵、じゃ……ない?」
「……え?」
何故だろうか。俺は目の前の少女を、敵だとは思えなくなってきた。まずい、疑心暗鬼に陥っているようだ。何が真実なのか、確かめなければ――
「鏡の能力……。鏡のつく言葉の意味は……!」
「能力が完全に効いてねえのか……!? なら、もう一度だ!」
「くっ……間に合うか!? 眩惑よ、消え去れ――《鏡花水月》!」
「なッ!? 魔王固有能力か……!?」
力強く言葉を発し、能力を発動させる。直後、俺を包んでいた何かが霧散した。
俺の感情を支配していた疑念がなくなり、状況が飲み込めてきた。
正面にソネイロン、後方すぐ近くにはアスタリード――何故か俺に剣を向けている――がいて、やや離れた位置にフェリスがいる。
「アスト様……?」
「フェリス、その……。アスタリードに、剣を下ろすように言ってくれ」
「……!? 良かった……」
「え? えーと……?」
「こいつ、能力が通じねえか……。クソ、あばよマヌケ共!」
ソネイロンは、捨て台詞を吐きながら姿を消した。確かに、交戦中に仲間と話をして注意を疎かにしたのは、マヌケだったかもしれない。
「逃げられたか……あいつの仲間も消えたな」
「……アスト様、ご無事ですか?」
「ああ、何とかな。アスタリードは?」
「…………」
「あ、アスタリード……?」
「アスト様、実は――」
フェリスから顛末を聞かされ、俺は驚きを隠せなかった。いくら油断していたからとはいえ、仲間に切りかかってしまったのは事実だ。
俺は2人にしっかりと謝罪し、二度と同じ過ちはしないと誓った。
***
戦いの後の事後処理を終え、俺達はアスタリードを連れて城に戻ることにした。
道中は不自然なくらいに何事もなかったが、警戒を解くことはなかった。
「ここが俺達の城……って、知ってるか」
「うん……知ってる」
「アスタリード様は、お城にお住まいになられるのですか?」
「ソネイロンもいるし……北の砦に戻らなくちゃ」
「いや、それについて話したいことがある。しばらくは残っていてくれ。な?」
「……うん」
やはり、俺に対するアスタリードの反応は悪い。故意ではないとはいえ、あのようなことをしたのだから当然だ。今後は信頼回復に努めなければ、妹に嫌われっぱなしになる。それだけは避けたい。
話は食事場ですることにした。その方が、話しやすいと思ったからだ。
「それで、ソネイロンの城はどこに?」
「ここから南方ですが……。現在は、北方にあるグレシールの城に滞在しているようです」
「彼らは同盟中ですからね」
「同盟!? また、厄介な……」
ソネイロンが現時点で7階級ならば、グレシールは恐らく6階級の魔王だ。
俺の知る限りでは、グレシールの特徴はソネイロンと似ており、能力も封殺出来るはずだ。
だが、問題はそこじゃない。魔王は固有能力によって類を見ない強さを得ているが、実力そのものも常軌を逸しているのだ。
それが2人いるとなると、確実に勝てるとは言い切れなくなる。
「どうしましょう……」
「各個撃破は出来ないのか?」
「難しいかと。今回のことだってありますから」
「だよな……。やっぱり、上手く立ち回るしかないか」
俺の魔王としての実力が衰えていなければ、圧勝出来たのだろう。だが、その実力を取り戻す方法も分からない。どうすべきか――
「魔王様! あ、皆様お揃いでしたか……。ご無礼をお許し下さい!」
俺の思考を遮ったのは、物見の兵士だった。ノックもせずに勢い良く扉を開け、部屋に飛び込んできた。
「そんなに慌てて、一体何があった?」
「はっ! 魔王様に謁見を賜りたいと、人族の者が門に……」
「謁見? 人間が俺に?」
「ええ。ですが、何やら怪しく……その、物腰が強者のそれを感じさせるのです」
「なるほどね……」
出来るだけ落ち着いて言ったが、俺は焦っている。魔王の所に来る、強者の人間と言えば――勇者だ。こんな時に、勇者。間が悪いというか、良いというか……。
「怪しいですね。いかがします?」
「仕方ないな……。謁見の間に通してくれ」
「はっ! すぐ済ませます!」
「本当に、大丈夫ですか……?」
「無視も良くないからな。会うしかない」
それに、相手が人間なら、死ぬようなこともないだろう。そう心では思っていたが、口には出さなかった。
俺は覚悟を決めつつ、謁見の間へ向かった。
《人物紹介》
名前:アスト(男)
種族:魔族【鏡魔王】
能力:鏡花水月、反射
階級:魔王8階級
特徴:銀髪、赤い瞳。長身痩躯だがやや筋肉質
これから人物紹介をしていこうと思います。
それと、10話の記念(?)として、評価を募集します! 是非評価して下さい!