プロローグ
俺は1人、家路を急ぐ。空は暗く、足下の雪とは対照的に広がっている。周囲は風の音しか聞こえない程静かで、月の光だけが俺を優しく照らしている。
「バイト帰りのしがない高校生にとっては……まあまあいい景色か」
などと言いつつも、なんだかんだで俺はこの帰り道が好きだ。確かに自宅の方が暖かく、テレビもパソコンもあるが、それらの中にはこのような癒やしとなるものはない。両親にも疎まれていて、正直、居心地が悪い。
「そりゃまあ、こんな偏屈な息子は嫌だろうしなぁ……」
何より両親からすれば、俺はそれなりに悪い趣味――俺自身はそうは思っていないが――を持っているらしく、忌み嫌われてもしかたない。だが、たとえ忌み嫌われようとも、この趣味だけは譲れない。
「とは言っても、大して知識はないしな……下手の横好きってやつなのかな」
先ほどから独り言ばかりで、自分でも気持ち悪いとは思う。しかし、これもしかたのないことだ。いつもこの道を通るのは、俺だけだ――故に、油断していたのだろう。あるいは、おかしな考えごとに夢中になっていたせいか。何にせよこれは――
「あ……俺、死んだな……」
そう、まさしく瀬戸際だ。目の前から、トラックが迫ってきている。もちろん考えている暇もなく、あと1秒も経たずに俺はひかれてしまうだろう。だから、俺は祈る――
(せめて、来世があれば……俺が理想とする世界でありますように!)
そして、俺は意識を失った。