第一話 プロローグ
「――――はぁ。やっぱりこれは……あれ、だろうね」
湖のほとりに近づいて水面をのぞき込んだ私は、映し出された自分の顔にため息を吐いて項垂れた。
さらさらと流れるシルバーブロンドの髪に、雪のように白く透き通るようなすべすべの肌。長いまつげに縁取られたアーモンド型の淡いスミレ色の瞳に、流麗な曲線を描く鼻筋と輪郭。
この容姿は私が廃人と呼ばれるまでやり尽くした、あるVRMMOで使っていたアバターのものだ。
今着ている服や体格……性別も設定通りだから間違いない。
……けど、なぜアバター姿になっているんだろう?
ここがゲームの中だというならこの姿でも不思議じゃないし、突然湖のある森に転移したことも説明がつくんだけど……残念ながらその可能性はないんだよなぁ。
あのゲームは一年前にサービスが終了しているし。
それに、もし仮にあのゲームが続いてたとしても、ここがゲームの中であることはまずない。
いくらVRゲームと言っても、処理能力には限度があるもの。どれほどリアリティが高かろうが現実とは違う点がある。
……そう、空気に交じる自然の匂いや、草や土の感触などは再現できない。
だからここは……現実だということだ。まあ、元いた世界でもないだろうけど。
「異世界転移、か」
そんな言葉を零しながら、私はまたため息をするのだった。