5 飛べ飛空艇
空港に最後の飛空艇が待っている
方博士はボクにそう言った
空港は都の郊外、峡谷の底に隠されている
峡谷のへりから見下ろすと
方博士の言うとおり、一艘だけまだ離陸していなかった
それには、最後まで城の防御システムに魔力を提供するために
残っていた魔法大学と幼年学校の生徒が乗っている
ハッチはまだ閉まっていなかった
ボクが走っていくと、入り口には秋歌がいた
ボクはすごくびっくりした
秋歌に会うのは何か月ぶりだろう
「銀鈴じゃないか!」
「秋歌、早く離陸しなきゃダメだ」
「火炎竜はもうそこまで来てる」
入り口の技官はボクを見て首を振った
「自動制御で飛空艇の固定具をはずすことができないのだ」
「故障だと思う」
「あとは、管制塔の制御盤で解除する方法があるが」
「管制塔は破壊されてしまった」
管制塔を破壊しているのは
見たこともないほど巨大な火炎竜だった
赤く燃える眼が、竜遣いの魔力の大きさを現している
「ボクがやるよ」
技官と秋歌は止めたけど
飛空艇には、ボクのクラスの子たちが
たくさん乗ってた
方博士の研究室でみかけた魔法大学の学生さんも
「だいじょうぶ!」
ボクは火炎竜の足元をくぐって
壊れかけた管制塔の最上階に上った
ボクは魔法生物だもの
恐怖心なんてないはずだもの
だって、本当には死んだりしないもの
管制室の制御盤から、飛空艇の固定具をはずすパネルを見つけ
ボクはちゃんとそれを解除したよ
秋歌とみんなの乗った飛空艇は
ゆっくり浮上しはじめた
ボクはちゃんと方博士の言いつけが守れた
方博士の自慢の子どもになれたかな
でも、その離陸の振動が
火炎竜の注意を引いてしまったんだ
火炎竜は浮上する飛空艇に向き直った
そして、その口をあけて
火炎を吹きつけようとした
火炎竜の火炎をまともに浴びては
装甲の薄い非武装の輸送用飛空艇は
ひとたまりもなく焼け落ちてしまう
ボクは思わず大声を上げて
管制塔の展望台の上に飛び出していた
「うすのろ~!」
「お馬鹿竜!」
「どこ見てんだよ」
「こっち!こっちだよ!」
火炎竜のにぶちんで固まった脳に届いたかどうか
ボクにはわからないけど
そいつは口をあけたまま、ボクの方に向いたんだ
耳は聞こえるんだねぇ
あいつら
うぅん
ボク、英雄になろうとか
自己犠牲とか、ぜんぜん違うんだ
だって
ボクは間にあうつもりだったんだ
火炎竜って動きが鈍いんだ
だから、そいつの注意をそらして
飛空艇が火炎の届く範囲を脱出する時間を
楽に稼げるつもりだったもん
でも、お馬鹿な火炎竜は
大口をあけたまま、ボクの方を向いた
ぽか~んって
そりゃぁ、お間抜けな顔だったよ
ボクはそいつに魔弾をくらわせて
そのスキに、管制塔を飛び降りるつもりだった
火炎竜がこっちを向いた時
あけた口の奥に
火炎がこみあげて来てるのが見えた
マズイと思ったけど
もう遅いよね
ボクは魔弾を撃ちながら、左後ろに飛んだ
同時に火炎がボクを吹き飛ばした
でも、その寸前、ボクはちゃんと
飛空艇が離脱していくのを確かめたんだ