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4 月に叢雲

あぁ、頭の芯がいたい

さっきからちっとも動けない


ボク、けがしたんだろうか


ここは暗くて狭いね

でも、月の光でボクの右手が見えるから


あ、雲が月を横切っていくよ


方博士

方博士はどうしたろう


魔法研究所も火球弾で攻撃されて

あちこちから火の手があがってたっけ


壁が崩れて、ごっそり落ちた向こうに

大きな火炎竜が二頭いたんだ


ボクは方博士を守らなくちゃいけなかった

魔法研究所を守らなくちゃ

いっぱい魔弾をぶつけたのに

火炎竜にはあまり効かなかったな


あれって

生きてないんだよ

だから痛くもないんだね


火炎竜は竜遣いが呼び出す

昔むかしに滅びてしまった、大きな竜の種族なんだって

大地の奥に骨になって眠っているのを

呪文で無理やり地上に呼び出すんだって


呼び出されたら、竜遣いの言うままに

暴れて火炎を吐き出したりすることしかできない

自分の好きに休んだり、ごはん食べたりできないんだって

だから、ちっとも楽しそうじゃない


なんだか、かわいそうなんだ


ほかの魔法使いや戦士が何人もで取り囲んで

火炎竜をいっせいに攻撃したから

やっと一頭倒れたんだ

でも、研究棟に倒れこんだから

建物も壊れちゃった


ボク、方博士を助けに行ったんだ

だって、方博士は、研究に集中すると

まわりで起きてることも気づかないんだもの


方博士は研究室にいなかったから

ボクは実験棟に探しに行った

扉を開けると、方博士がいたよ


でも、いつもの白衣じゃなかったんだ


方博士は「天才」と言われてる

当代屈指の魔法使いにして魔法生物研究の第一人者


難しすぎて、ボクにはよくわかんないけど

でも、研究所で一番すごい博士なんだよ

研究所で一番てことは、この国で一番なんだ


方博士は


でも、扉の向こうに立っていたのは

長生族の戦士としての、方飛燕だった

魔力によって強化された伝統の戦装束をまとい

魔剣を腰に帯び、閃光槍を持ち

飛空橇の係留鎖を足輪に留めるためにかがみこんで


「銀鈴!無事だったのですね」


方博士はボクの顔を見て、喜んでくれた


「さぁ、ここはもう危険です」

「早く安全な場所へ逃げなさい」

「銀鈴はもう十分戦ったでしょう」


「方博士もいっしょに」

「ボクが博士を守るから」


方博士は少し悲しそうに笑った


「いいえ、銀鈴」

「わたしは長生族の戦士階級に生まれました」

「治にあっては、魔法生命研究がわたしの戦いでしたが」

「乱にあっては、剣を取って立ち向かうのが務めです」


「事ここに至らしめたのは、わたしたち大人です」

「わたしたちがけじめをつけなければ」

「それが大人の責任というものです」


「でもね」


「あなたがた、子どもたちは、生き残って」

「たとえ灰燼の中からでも」

「この国を再建しなくてはなりません」

「それが、あなたがたの戦いですよ」


方博士は、ボクをぎゅっと抱きしめた

甲装の金具が、ボクの肩にくいこんで

ちょっとだけ痛かった


「さぁ、もう急がないと」

「最後の飛空艇が、空港に残っています」

「魔法大学と幼年学校の生徒を乗せるために」

「銀鈴は、彼らを護衛して、いっしょに乗ってください」


「方博士、もう会えないの?」


ボクはすごく心細くなった

方博士にもう会えなくなるんだと思った

方博士に作られたボクは

博士と運命を共にしなくちゃいけない気がした


「銀鈴、よくお聞き」

「子どものいないわたしには」

「あなたが子どもなんですよ」

「あなたの脳神経回路を作るために」

「わたしの細胞を培養して使ったのですから」


あぁ、そうだ

だから方博士の目は、ボクと同じ緑色だ

そして、方博士の白い髪は、ボクの毛並みと同じだった


方博士は、剣の柄頭に下がっていた飾りをはずした

見ると、いつも首からかけていたお守りだ

銀でできた、シロツメクサの形の、小さい鈴だ


博士はそれをちりんと鳴らしてみせた


「これを持っておいきなさい」

「シロツメクサは方家の紋章です」

「あなたは、方銀鈴」

「方飛燕の子どもですよ」


方博士は、その鈴の鎖をボクの首にかけて


「ほおら、よく似合う」


にっこり誉めてくれた


銀のシロツメクサの鈴は、今でも

ボクの首にかかってるはずだ

動けないボクには見られないし

上着のポケットの秋歌の石筆にもさわれない

でも、それは絶対にあるとわかってるんだ


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