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3 星月夜

虫の声がかすかに響く

ぴょん、と飛んで右手のそばに落ちた

鈴虫だ

しばらく様子をうかがっているようだ

猫の手が動かないので、安心したのか

羽を立てて鳴きはじめた


りーりーりー


虫も仲間を呼んでるんだね


すきまから月の光が差し込んで

鈴虫をくっきり見せている


ボクには家族がないんだよ

だから誰も探しに来てくれないんだ

だって、ボクは


猫人の子は埋もれた記憶をたぐりよせる


ボクは、方博士が作った魔法生物なんだもん


そう、だからボクは死なない

だって本当の意味では、生き物じゃないから


死なないのなら、ずっとここにいるのかしら


ボクが普通の猫人だったら

きっと「王立魔法幼年学校」にも

あのまま、ちゃんと通えたんだ


普通にお友だちもできたんだ

きっと


四か月だけだったけど

方博士はボクを「魔法幼年学校」に入れてくれた

ボクが人工の魔法生物だとばれちゃって

入学が取り消されるまで


途中で編入したとき

クラスの子はみんなボクを避けた

きっと、ボクが家族がなくて

子どもの遊びもひとつも知らなくて

普通のおしゃべりもできなかったから

みんな、ボクをヘンだってわかったんだ


だって、ボク

外見は普通の猫人の子どもだもん

方博士はそれは腕のいい魔法科学者なんだから


だから

お友だちができなかったのは

みんな、ボクが悪いんだ


でも、ボクはクラスの人はみんな

全部覚えてる

みんなひとり残らず好きだよ


でも、一番好きなのは

秋歌


一番最初の日に

隣の席にしてくれた秋歌

石板も石筆も持ってなかったボクに

「半分つかいなよ」って

石筆を半分に折って、ボクにくれたね

石板も真中においてくれた


ボク、うれしかったんだ

あの日もらった石筆の半分

ポケットにいつも持ってるんだよ


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