1 薄ら日
右手の先に、うっすらと光が当たっている
そこだけがほのかにあたたかい
光はゆっくりと薄れ
また夜が来る
狭く重苦しい暗闇の中に
もうどれくらい横たわっているんだろう
そして、どうしてここにいるのか
どうして動けないのか
どうして、誰も探しに来ないのか
わからない
思い出せない
左目は見えてるみたいだ
右を下にして横になっているから
左の目で、右手の先に当たった光が見えるんだもの
でも、右目は?
右目をあけようとしても
何も感じない
何も動かない
光の当たっている手は
白い小さい猫の手だ
あたたかいのは感じるのに
すこしも動かない
白い手は灰色にかげっていく
また夜になるんだ
また?
何度夜が来たのか、思い出せない
三回?五回?
そういえば、少し前までいやなにおいがしていたのに
今はもうにおわない
鼻まで利かなくなったのかしら
さらさらさら
優しい音が聞こえ始めた
しめった草のにおいがする
あ、大丈夫だ
ちゃんとにおいわかるよ
横たわった鼻に水の粒が落ちてきた
水滴は鼻をつたって口に
小さい猫人は水をなめた
なんて甘い水の味
猫人のこどもは舌を出して
もっとたくさんの水滴をなめようとした
甘いね
おいしいね
お花のにおいがするよ
もっと飲みたい
猫人の左目から、ぽろりと涙が落ちた
生まれて初めて
こんなおいしい水を飲んだよ




