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7 累(かさね)

今は廃城となった、古の蜃気楼の城の天守に

夜の気をまとったままの影


雨月は灰狐の体を膝の上にかかえ

その頭を両手につかむ

青ざめて命の消えゆくその額に

妖魔は自らの額をぴったり重ねた

そうして、その消えかけた命をかきたて

去ろうとする魂に呼びかけた


「無償に差し出された命は重し」

「このまま我が消滅すれば、汝は死ぬ」

「しかれば、我が魂は、汝への負債のために」

「永劫に煉獄にもがくことは必定なり」


「汝の大欲は、それを望まぬ、と思う」


「そこでものは相談だが」

「我を憑かせよ」

「我と汝でひとつの命を有すれば」

「我は、汝を生かすことができる」


黎明の光は夜を払い

結界は解け

古城の廃墟の中庭に座り込む

六人の男と一人の娘を照らす


一夜の夢から覚めた人間たちは

朝の光の中を、人里に向けて降りてゆく


天守の上から、歩み去る一同を見送りつつ


「あれでよかろう」


雨月は笑いを含み

灰狐の隣にやや重なって座る


「酔狂なお方だ」

「私はただの旅人に過ぎぬ」


灰狐は蒼白な顔でつぶやく

死の淵に臨み、おのれの消滅さえ望んだはず

それが、この妖魔の甚大な魔力で引き戻された


「よいではないか」

「汝の力にこそなれ、悪しうはせぬ」

「この地に縛られた三百年よりも」

「汝とともに生きるほうが、よほどおもしろそうじゃ」


灰狐は頭をかかえた


「それに、な」

「汝の魂の虚ろに、代わりのものを埋めたい」

「そういう気もしないでもない」


雨月は優しく微笑んだ

旅の衣の下にさげたままの

紐に通した藍玉(アズライト)の指輪が

ほんのりとあたたかくなった気がした

灰狐は溜息をつくと、二人旅に足を踏み出した


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