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1 山路を辿るは誰そ

日は西にかたぶき

草乱れる踏みわけ道も

かすかになりゆく黄昏時


山路を登る人影がいくつか

静かに長い影を引いていく


先に立つのは墨染めの衣をまとった僧侶

間をおいて、四人舁きの手輿に乗せられた白衣の娘

輿に付き添う、やはり白衣の神官

そのうしろに続く灰色の髪の旅人


僧侶はやや伸びた剃髪に太い眉

日に焼け、足ごしらえも厳重に

旅慣れた様子


かたや、白衣の一団は土地の者と見え

初老の神官のほかは

行であるのか終始無言


殿(しんがり)をゆく旅人は

肩ほどの灰色の髪を鉢金で押さえ

くすんだ外衣をまとい

その腰には反りのある短刀を佩いている


奇妙な取り合わせの一団は

それでもつかずはなれず

山路をゆっくりと登っていく


蒼月山は禁忌の山

分け入っていく道はか細く

いつしか、日は釣瓶落としに落ち

空には銀の鎌のごとき上弦の皓月


これぞ逢魔が時


行く手に忽然として、ひとつの楼門があらわれる

深山にそぐわぬ青白く輝く門

その扉は開かれている


「やれやれ、やっとたどりついたか」


白衣の神官は安堵の声をもらした

手輿を舁く四人の白丁は無言のまま

この四人は四方神に擬されて

それぞれに

「虎」「竜」「亀」「鸞」の面をつけている


「これが蜃気楼の城に至る門とかや」


先頭の僧侶が見上げてつぶやいた


「いかにも魔性のこけおどしじゃ」


「御坊、どうか口をお謹みくだされ」

「蜃気楼の城の主はわれらがご領主」

「御山のことは、すべて御見通しゆえに」


神官が苦々しげに口を開いた


手輿に乗せられた白衣の娘は

恐る恐る目をあげて門の向こうを伺い見る

開かれた扉のむこうにあるものは

朧げな霧のごとくにして

誰の目にもさだかには見えない

神官は誰にともなく語った


「城へは、この門を通るほかにない」

「蜃気楼の城は確かに蒼月山の上にあるが」

「主の君の許しなくば行き着けぬ異界」


「強い結界だ」


小柄な旅人はつぶやいた


「なんと!」


僧侶は荒々と鼻息を吹く


「どこの国に、民の娘の生血を啜る領主があろう」

「しかも三百年もの長きに渡り」

「年にひとりずつ、妙齢の娘を贄に差し出せなどと」

「これを魔物といわずなんと言う」


「御坊」


神官が溜息をついて制止した


「われらが常夜(とこよ)の国は、弱い国」

「御山に坐ます御主の守護なくば」

「てきめんに他国の蹂躙を受ける国じゃ」

「民の中より娘をひとり」

「御前に奉ることで戦をまぬがれるなら」

「なにとて惜しむことができよう」


僧侶はますます勢いづく


「常夜の国など、すでにないではないか」

「蜃気楼の城は三百年以前に滅びた幻の城」

「そこに巣食う魔物をなぜ尊ぶ」


神官は僧侶をもてあまし

手輿を促して楼門をくぐろうとする

僧侶は神官をとどめようとする

門の前でもみあう二人


「輿の娘、このまま魔物に食わるるもよきか!」


手輿はぐらりと傾いた

たおれかかる娘の体を、灰色の旅人がささえる


「楼門をはいってはいかがだろうか」

「われらはみな、蜃気楼の城に至るのが目当てゆえ」


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