少しの勇気と500円
「うおおお!よっし!」
俺は「クリア!」と表示されたゲームの画面を見て歓喜した
ヒキコモリ歴3年の俺は、現在16歳の高校生である、現在時刻午前7時ということで、普通の高校生なら元気一杯にご登校していることだろう
しかし、俺はゲームをしている方が断然楽しいし、勉強はあまりしなくても困らない。
そんな風に自分の考えを正当化して、俺は引き籠っていた、断固として。
だって勉強なんて面倒だろ?友達だって要らないし……
いや、そんな分けないか、誰だって友達の一人は欲しいよな
俺だってこの将来、無職まっしぐらでお先に真っ暗な生活に何も感じてないって事じゃない。
俺が輝いていた時代が少なからずあるはずだ。
小学生。
そうだ、あれが俺の黄金時代だった、全盛期だったはずだ、新作のドラクエもあったし。
……しかし不幸な事に俺は中学入学とともにいじめを受けるようになった、ずっと俺は被害者より加害者側の人間だと思っていたのでショックは相当デカかった。
当時、ゲームのやり過ぎでメガネをかけており、しかも少々デブってたので付いたあだ名がメーガーネポッチャリンだ。
え?無駄に長いですか?
まあ、許してやってください、中学生の考え付くのなんてそんなもんです。
「……それにしても」
当時は色んないじめを受けた、殴る蹴るは当たり前だったし、日常生活で無視されたり、給食当番で自分だけ一人で残飯係やらされたり、あ、掃除中のほうき返却係はずっと俺だったな…
最悪だったのは音楽のテストの時に起きた
その日俺は、いじめっこたちに携帯電話を持ってくる様に言われていた、最初は理由を聞きたかったが、聞いた瞬間アンパンチ喰らいそうな雰囲気だったから聞いていなかった。
仕方なく俺は小学一年生の頃から使っている最新でも何でもないガラケーを持ってきてカバンの中にしっかり入れていた、当然だが、携帯電話の持ち込みなど校則で禁止されている。
俺も大方の予想はついていた、どうせ警察署とかにイタズラ電話しろ。とか命令されるんだろ。
俺はあらかじめ電源を切っておいた。
『プルルルルルルルルルル♪ プルルルルルルルル♪』
「……………!?」
テスト中に教室になり響いた着信音、その音の主は、案の定俺の携帯電話が発したものだった
奴らにハメられた
いじめっこたちは俺が切っておいた電源をオンにして、電話をテスト中にかけたのだ。
その後は最悪だった、先生は愚か、同じクラスの奴らも、メーガーネポッチャリンの言うことなんて誰も信じてくれなかった
結果、職員室に呼び出しを喰らい厳重注意となった、所詮、中学生がやってしまった事だ、と判断したんだろう
それは教師たちにすれば俺に対する救済だったのかも知れない、だが、明日教室に行けば更なるクソみたいなあだ名を付けられるに決まってる
親に合わせる顔が無かった、いじめられていることは話して居なかったが、流石に、テスト中に着信しちまったって事はご丁寧に連絡がいっていた。
俺は逃げる様に部屋に引き籠った、そしてヒキコモリマンとなった
それは嘘だ、そんな変な名前のヒーローにはなっていないが、俺は勉強とかしなくなりゲームや漫画の世界の住民になったわけ。
なんなんだよ………小学生の頃はインフルエンザの時期の学級閉鎖にウキウキしてた、ごく普通の少年だったはずだ。
それが、突然のメーガーネポッチャリンだ
一時期、異世界に行きました!なんて展開も夢見たもんだよ、まあそんな事は全然起こらなかったけどね……
おれはヒキコモリをやめるぞ_______ジョ○ョーーーーーーッ!!
なんて感じで俺は外に出た、てか、起きたら外に居たわけだ、玄関に貼られた張り紙の内容はこう。
========================
学校に行くまで家には入れません。
by 父。
========================
「……何がbyじゃボケっ!!」
俺はそう父親に言う勇気も起こらず、鉛筆で張り紙にお金下さいと書いてから家を離れた。
父親の粋な計らいか、500円とRPGゲームの『キリコクエスト』が入った袋も一緒に家を追い出されていた。
これは、アレだな、見限られたというよりは久しぶりに外の空気でも吸ってきなさいって所だな。
てか、今日は土曜日だし学校はやってませんぜ……おやっさん!
俺は家をアリーヴェデルチした。
***
そうだな、『キリコクエスト』の話でもしようか。
このゲームは俺が見事にハマったオンラインゲームで自分のアバターを使って自由に王国で職に付き、いつしか魔王討伐の旅に出る、という爽快ファンタジーだッ!
俺はこのゲームを何回もクリアしており、大体の事は知っている、つもりだ、現在のセーブデータも、今現在、俺が持ってる様に500円ポッキリではなく、もっともっと多額を所持しているんだ
ちなみに付ける職業も何から何まで自由という事だが、俺はずっと勇者のジョブでキリコクエストの世界で魔物の激闘を繰り広げていた。
まあ、あくまで仮想世界だから全部現実では無いんだが、その現実離れした展開やイベントが俺の心をくすぐったんだ、顔面兵器である俺でもイケメンアバターを創りプレイする事ができるので気分はまるで物語の主人公だ、主人公がデブのメガネだったら萎えるがイケメンなら話は別だ。
「さて……と」
この軽装で冬場の外を凌ぐのは少し困難だ、ここは服を買うか……?
「………………」
俺はポッケに入った500円を思い出して服の購入を断念した、たった500円で買えるのはせいぜいTシャツ程度だ、それよりカイロでも買おうかどうか……
「デスマシーン!『炎の弾 』で俺を暖めてくれ!」
『…………………………………』
「なに?MPが足りんか!?」
普通の人が見ればちょっと危ない奴だ、ま、同じくキリコクエストをやってる人になら話は通じると思うが。
まあ、知らない人から見ればちょっと危ない奴だ(二回目)
「おっ!?………あやつは………」
俺は嫁の浮気を目撃した夫のように電柱に隠れ身を潜めた。
「あいつ…………」
見たくもないやつの顔を見た、当時、俺をいじめていたグループの一人だった奴だ、あいつに隕石落ちて即死してくれないかなって位に嫌いだ。
身長が低く、俺から影で小人族と言われていた面影は感じられないほどにデカくなっていた。
180cmはあるだろうか小人というよりは巨人だった
……名前を……確か「杉山」だったっけ……?
「……………………………」
コンビニで何か買っている様だ、こちらから何もしなければあいつも気付かずにスルーしてくれよう。
よし、こんなのからはさっさと、さよなライオンするべきだ
「うわあああああああああああ!!」
グルリ。
そんな効果音が付いてしまいそうな勢いで俺はコンビニの方を振り向いた、あんな悲鳴をあげるなんて尋常じゃない。
「……………や、やめろ!刺す気かぁ!!」
コンビニ内で杉山が何かに怯えていた、もちろん俺ではない、よく見ると、コンビニのレジ裏で包丁を握りしめて杉山と、他のコンビニ店員を脅している男がいる、客は杉山の他に居らず、店員も二人しか居ないようだった。
「な、なんだよおぉ、殺すのか!」
杉山は焦ってハアハア言っている、購入しようてしていたであろう、飲料物をブンブンと振り回していた、しかし、分が悪い。
「た、助けるか…」
助けるのか?俺が?、三年間いじめられていた、そのいじめっこを助けるのか?
馬鹿な、感謝されるとでも?やめろ、死ぬぞ、死んでしまう。
しかし、そう言いながらも犯人の魔の手は杉山に迫っていた。
「誰か………!!助けてくれぇえ!」
俺の足は勝手に前へ前へと動いていた、ろくに運動もしていなかったため、かなり遅いが、着実にコンビニへと近付いている。
「くっそ!いつから俺はこんな聖者になったんだ!」
俺は全速力(のつもりで走った、小学生の頃、50m走で9秒より速くなれなかった俺だったが、とにかく走った。
「うおおおおおおおおおおお!」
杉山は人生の走馬灯と走ってくる俺を同時に見たのか、すごい顔をしていた、そうだな、ゴブリンみたいな顔だ。
「死ねやぁぁぁぁぁ!」
コンビニ店員の一人が顔を手で覆っていた。
犯人はまだ俺に気付いておらず、杉山の腹を包丁で狙い定めていた。
「やめろおおおおおおおお!」
ズブシュッ!
俺の腹に包丁が刃渡り10cmほど刺さった、血が溢れて、包丁も犯人の手も真っ赤になっていた。
「…………山口!?」
杉山が俺の名前を言った、覚えてたのか。
ああ、すまん自己紹介が遅れた、俺、山口幸人な
こんな時にいうのもあれだな……すまん
ああ、後悔はしてないと、言ったら嘘になるな……もっと良い人生の歩み方があったかもしれん……
ああ、童貞か……童テイ…ドウ貞……どうてい……ドウテイ……ど、どどど……
「…………………ぼほォッ……」
ああ……血が出とる……偶然500円に刺さって俺助かるみたいな奇跡は起こらず、後は死を待つのみ。
「血が………」
俺はその後、包丁でメッタ刺しにされあっけなく人生の幕を下ろした。