第一章 火種20
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身体のだるさを持て余しながら寝返りを打ち、隣にいる穂高さんを見る。煙草の紫煙をくゆらせながら、どこか気の抜けた表情をしていた。
視線に気づいたのか、穂高さんは何も言わずに手を伸ばし、俺の頭を撫でてくる。その手つきが妙に優しくて、思わず目を細めた――その瞬間。
「……何見てるんですか」
「ん?」
布団の中を覗き込まれ、慌てて身じろぎする。
「いきなりは反則です」
「もう今さらじゃないか」
笑い混じりの声が、余計に居心地を悪くさせる。しばらく黙ったまま見つめられていたかと思うと、ぽつりと問いかけられた。
「千秋ってさ。俺と関係持つ前、あまり経験なかっただろ」
図星を突かれ、言葉に詰まる。
「……そういう機会は、あったんですけど」
「うまくかわされた?」
「……はい」
答えると、なぜか納得したように頷かれた。
「やっぱりな」
「どうしてわかるんですか」
「雰囲気。千秋は守ってやりたくなるタイプだ」
その言い方が、少し引っかかる。
煙草を消した穂高さんが距離を詰め、自然な動きで肩に額を寄せてきた。
「……あの、近いです」
「触るだけだよ」
そう言われても今までの流れを思い出してしまい、素直に信じきれない。
「触るだけって、信用できません」
「ひどいな」
くぐもった笑い声と一緒に、腕を引き寄せられる。
「安心してくれ。今日はもう余裕ない」
「……本当ですか」
「本当。君がそばにいるだけでいい」
そう言って、力を抜いたまま身体を預けてくる。しばらくすると呼吸が規則正しくなり、完全に眠りに落ちたのがわかった。
「……この状況で寝るんですか」
呆れ半分、おかしさ半分で呟く。無防備な寝顔を見下ろしながら、胸の奥がじんわりと温かくなった。
危うい人なのに、こういうときは妙に無邪気で――だから、放っておけなくなる。
そっと穂高さんの額に口づけて、心の中で願う。
(――この時間が、ずっと続けばいいのに)




