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残り火  作者: 相沢蒼依
第一章
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第一章 火種18

***


「あっ、あの……その……」


 ファミレスを出てすぐ、意を決して声をかけた。


「股間のモノのお仕置き、についてなんですけど……」


 言い終わる前から、穂高さんの口元が楽しそうに歪む。


「改まってどうしたんだい。そんな顔で見上げられたら、今すぐ押し倒したくなる」

「押し倒さないでくださいっ」

「じゃあ百歩譲って、あそこの塀で壁ドンしてキスするのは?」

「全部、人目がありますから!」


 必死に否定すると、穂高さんは肩を揺らして笑った。俺のことを困らせている自覚があるのに、それを楽しんでいる顔だ。


(――俺は笑えないのに……)


「そんなに眉間にシワ寄せたら、老けるよ」


 そう言って、頭を撫でられる。


 拒否するより先に、なだめる動作。その手つきが、妙に慣れていて胸がざわつく。


「お仕置きの件なら、心配しなくていい。ソフトにするから」


 その言葉が、かえって想像を掻き立てる。


「……すみません。ソフトでも、もう無理っていうか……」


 撫でる手をそっと押し返すと、穂高さんは一瞬だけ目を瞬かせ、それから穏やかに頷いた。


「淡泊なんだね、千秋」

「俺は普通です。穂高さんが……その……」

「変?」


 否定の間も与えず、わざと被せてくる。


「千秋違うよ。あれは愛情表現だ」


 真顔で言われて、言葉を失う。


「でも、一晩であんな回数――」

「本当は朝までしたかった」


 あっさり言われて、背筋が凍る。


「君がもたなさそうだったから、配慮しただけだよ」

「……はい?」


 配慮という言葉と内容が、まったく噛み合っていない。


「千秋からもっと触れて、もっと欲しがって――」

「だ、だだ……っ」


 慌てて口を塞ぐ。


「穂高さん、お願いですからもう無理です。打ち止めでお願いします」


 息を切らしてそう言うと、ようやく穂高さんは一歩引いた。


「わかった。じゃあ別案だ」


 そう言って、手首を取られる。


「マッサージしよう。千秋の疲れた身体、ほぐしてあげる」

「い、いりません!」

「職場じゃ“ゴッドハンド”って言われてる」


 握られた手に、力がこもる。


「上司も、一瞬で寝るくらいだ」


 拒否の言葉より先に、身体が引かれる。


「本当に大丈夫ですから!」

「じゃあ」


 一瞬、声のトーンが落ちた。


「股間のほうを、ソフトに――」

「わかりましたっ!」


 反射的に叫んでしまった。


「穂高さん……普通の普通のマッサージでお願いします!」


 俺からの提案に、穂高さんは満足そうに微笑む。


「そう来なくちゃ」


 その表情を見た瞬間、遅れて気づいた。


(……俺、結局断れてない)


 選んだつもりで、選ばされている。それでも流されてしまう自分が、何より怖かった。


 ――けれどその怖さを口に出すことは、どうしてもできない。

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