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残り火  作者: 相沢蒼依
第一章
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第一章 火種15

***


 言わされてしまったような感じの告白に、どうにも頭が追いつかず、身体もどこかふわふわしていた。俯きながら、穂高さんの背後にちょっとだけくっついてお家にお邪魔したときも、地に足がついてない感じだった。


「どうぞ……」


 そんな俺に穂高さんはふわりと笑って、リビングに通してくれる。目に映ったのは、黒とグレーと白の3色の色合いで統一された家具。まるでモデルハウスみたいだ。


 お洒落な部屋のデザインに見入っている傍で、穂高さんは着ていたコートをハンガーにかけ、壁につるしてから俺に向かって手を伸ばす。何の気なしに自分の手を乗せたら、ぷっと笑われてしまった。


「着ているブルゾン、欲しかったんだが」

「えっ!? わっ、そそ、そうですよね。何やってんだ……」


(いくら頭がふわふわしているからって、いきなり懐きすぎだろ。恥ずかしすぎる!)


 置いてしまった手を引っ込めようとしたら、逃がさないと言わんばかりにぎゅっと握りしめてきた。


「……俺が脱がしてあげる」


 薄い笑みを口元に湛え、ぐいっと腕を引っ張られる。そして俺の背後に回りこみ、後ろ手からブルゾンのファスナーを、ゆっくりと下ろされてしまった。うなじにかかる吐息が、やけにくすぐったく感じる。


「自分でやります。そこまでしなくて、いいというか……」


 くすぐったさを必死にガマンしたら、声が震えてしまった。変に掠れてしまった声色に、焦りを覚える。穂高さんに感じてることが、きっとバレたに違いない。


 照れる俺を尻目に脱がしてくれたブルゾンを、白いソファの背にかけた。


「自分でやるって、どこまでするんだい?」


 ぎゅっと羽交い絞めしてきた力強い両腕。耳元で囁かれる言葉に、一気に体温が上がった気がする。


「ぶ、ブルゾンくらい自分で脱げるということで、他のは――」

「……俺に手伝って欲しい?」


 間髪いれず告げられた言葉に、首を激しく横に振ってみせた。背後にいる穂高さんの体温が伝わってきて、目を白黒するしかない。


「耳まで真っ赤にして、そんな恥らう君も堪らないね」


 吐息をかけながら、くちびるがうなじに軽く触れた。


「んぅっ!?」


 ぞくっとした感覚に変な声を出してしまい、甘い雰囲気をぶち壊してしまう自分。なのに穂高さんはイヤそうな顔を一切せず、じっと覗き込むようにして、俺を見つめる。それはそれは愛おしそうに――。


「このまま寝室に連れて行っても、いい?」

「はい……」

「イヤだと言われても連れて行く手筈だったのに、随分とあっさりOKしたんだね」


 瞳を細めて嬉しそうに聞いてくれたのだが、俺としてはこれでも迷っていた。ここまで来るのに随分とムダに、知能を駆使して考えまくっていたのだから。


「だって穂高さんに抵抗しても、勝てる気がしません。はい以外の言葉が見つからなかったし……」

「君のそういう聡明なトコ、惹かれてやまないね。どうしてくれるんだい、こんなに好きにさせて」


 弾んだ声で言いながら、後ろから隣の部屋へと誘導してくれる。


 扉を開けるとリビングの漏れた明かりで、そこが寝室だとわかった。そのまま俺をベッドに座らせると、傍に置いてあるリモコンを手に取り、間接照明の明かりをつける。


 ベッドの脇に置いてあるそれは、消しガラス製のたまご型をしたキャンドルグラスで、中を覗いてみたらライトが光を放っていた。


 リビングの電気を消した穂高さんがすぐに戻って来て、俺が不思議そうにしている姿を瞳を細めて笑う。


「何か、面白いものでも入っていたかい?」

「あ、その。キャンドルが入っているのかと思っていたので、ちょっとビックリしました」

「うまくできてるだろ。それ、LEDキャンドルっていうんだよ。本物のロウソクの火のように、光が揺らめいているだろう?」


 しゅっとネクタイを外して、ワイシャツのボタンを外していく。ライトの明かりがほんのりとその姿を映し出していて、何だか色っぽく見えてしまった。それを悟られないように、慌てて間接照明に視線を移す。


「息を吹きかけると消せる機能もついているし、ほらリモコン」


 ギシッと音を鳴らして俺の隣に密着するように座り込み、さっき手にしたリモコンを握らせるように手渡してきた。


「ライトの色は12色あるんだよ。千秋はどの色がお好みかな?」


 そのリモコンにはブルー、オレンジ、ピンク、グリーンなど十二色のボタンがあって、たくさんあるそれに、どれにしようかと迷ってしまう。


「千秋の肌の色がキレイに見える色は、どれだろうね」


 腰を抱き寄せられ、ちゅっと頬にキスをされる。くすぐったくて肩をすくめたら、手に持っていたリモコンを取り上げられた。


「あ……」

「とりあえず、どの色がいいか全部試してみようか」


 優しい笑みを浮かべる穂高さんの顔に、思わず魅入ってしまう。俺の持っていないものを、この人はたくさん持っていて、憧れずにはいられない――。


 優しく押し倒されてじっとしてると、胸元に手を置かれた。


「千秋のドキドキが伝わってくるね。俺のも触ってみる?」


 ゆっくりと穂高さんの胸に、手を当ててみた。自分の心臓よりも速い鼓動を感じたことで、穂高さんのドキドキが伝わって、心拍数が更に上昇した。


「怖いかい? 千秋」


 未知の世界に、今まさに足を踏み入れようとしている。なので怖くないワケがない。


「……怖い、です。半分くらい」


 この人の優しさは心地いいと身体は覚えている。その先だってきっとそうなのかもしれない。新しい関係に対する不安が半分、穂高さんを好きになりすぎるのが怖いということのが、半分といったところかもしれないな。


「怖いのを忘れるくらい、優しくするよ。千秋が安心できるように……」


 いつものように優しく髪を撫でてから、くちびるがゆっくりと重ねられた。何度も軽く触れてから、角度を変えて俺を抱きしめるように、深くキスをしてくる。


「んっ、ンンっ……あっ」

「まだ……足りない、よ。もっと近くにいて。……俺を求めて千秋」


 穂高さんが優しく寄り添うように、必死になって応じているというのに足りないと言われ、息を整えながら、思いっきり抱きついてみた。なのにそれ以上の力で、俺のことを抱きしめてくる穂高さん。静かな部屋に、ふたりの息遣いが響き渡った。


(――心地いい……この温もりが、ワケがわからないくらい安心する)


 優しいキスに、頭の芯がふんわりと温かくなっていった。


「……ん、あっ……ぁ」


 Tシャツの裾から、穂高さんの手が優しく肩を抱くように触れていく。手のひらが身体を包むように、ゆっくりと寄り添われた。いつもは冷たい手なのに今は燃えるように熱くて、ちょっとした加減で、ほっとしてしまう。


 ただ抱きしめられているだけなのに、どうしてこんなに安心してしまうんだろう。


「あぁっ、……うぁ、やっ、……ンンっ!」


 ゆっくりとTシャツを脱がし、入れ替わりに穂高さんのくちびるが首筋に軽く触れた。


「……噛んでいいかい?」

「へっ!?」

「千秋が、俺のだっていう印を付けたいんだ。誰にも触れられないように、ね」


 いつもより優しい声で告げられた言葉に、眉根を寄せてみせる。そんなモノを付けなくたって、俺に触れる人は穂高さん意外いないのにな。


 だけどこの人が望むのなら、できるだけ何でも受け入れてあげたい。


「いいですよ……」


 ちょっとだけ硬い口調で言ってしまった。そんな俺の声を聞いて、胸元に埋めていた顔を移動させ、わざわざ覗き込んでくる。


 揺らぐように動くライトで照らされている顔は、本当にカッコよくて胸が痛くなってしまう。そんな切なさを感じていたら、唐突に赤い色が部屋を包み込んだ。


(――まるで燃えるような赤だな。まるで穂高さんの気持ちみたい)


「穂高さんのモノにしてって、言ってみてくれないか? 千秋の口から直接聞いてみたいんだ」


 俺の緊張感を解くように、左手で頭を撫でてくれた。右手は愛おしそうに頬を擦る。


「俺は千秋のことが好きだよ。ひとつになって溶けてしまいたい。君の中に溶け込んで、ずっと一緒にいられたらいいのに」


 赤いライトに照らされる、穂高さんの顔がぐっと近づいてきた。何だか自分が、ロウソクになった気分。穂高さんの想いという名の炎で、ドロドロに溶かされてしまいそうだ。


「俺を、穂高さんのモノにしてくださ――」


 息が止まるくらいの抱擁と一緒に、奪われた言葉とくちびる。求められるまま寄り添って、穂高さんの身体に腕を回した。自分とはまったく違う、広くて大きな背中。あたたかくて守ってくれそうなそれに、やっとしがみつく。


 ここから先はジェットコースターに載せられた子どものように、ムダに声をあげていた。不安以上に与えられる温かな優しさに、ただただ身体を震わせて声をあげるしかできなかった。


「ああぁ、ぁ、……あぁ、んっ、……くっ」


 身体中に穂高さんの温もりが優しく伝わり、感じるところばかり丁寧に触れられる。強く抱きしめられても、その温かささえ心地よいものに変わっていって――。


「ぁ……ん、……っ」

「……千秋、は、……俺の――」

「はぃ、俺は穂高さんのモノ、です……」


 シーツをぎゅっと握りしめた手に、穂高さんのあたたい手が優しく添えられる。それだけで安心感が増すから不思議だ。


「千秋の、ここも……ここも――」


 優しい声で言って、柔らかくそれらを包んでいく。くすぐったさも手伝って、身体をよじってしまった。ずっと熱いと思っていたのに、触れ合う肌の熱が侵食しあって、更に体温を上げていく。


「ここも……俺のモノにしてあげる。全部」

「はぁっ、やぁっ、ソコ、は――」

「千秋の熱くて気持ちがいい。もっと感じてくれ」


 優しい部分に触れられる温もりに、声にならない声をあげた。身体を駆け巡る熱いものが、その部分に集まってくるのを感じる。


「やっ、やめっ……ダメ」


 思わずズリ上がろうとした身体を引き留めるべく腰に両腕を回されてしまい、逃げることができなくなってしまった。


「逃がさないよ千秋。中にも外にも俺のだっていう印、付けてあげるから」

「穂高さん……ううっ」


 捕まってしまった俺は、抵抗できなかった。イヤで抵抗したんじゃなかったのに、何となく言ってしまった言葉が酷く穂高さんを傷つけたのか、どこか寂しげな表情を浮かべた。


 そのせいで余計何も言えなくなり、後はされるがまま応じるままに体を開いた。ひとつになることはすごく心地よくて、何ともいえない安心感で嬉しいと言いたかったけど、あえて言葉を全部飲み込んだ。


 ただ、穂高さんの喜ぶ顔が見たかったから――。

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