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残り火  作者: 相沢蒼依
第一章
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第一章 火種13

***


「もうすっかり元気そうだね、本当によかったよ」


 その日の夜、いつも通り煙草を買いに来た穂高さんの第一声。平常運転みたいな口調が、逆に胸の奥をざわつかせる。


「おかげさまで……これ、お釣りです」

「ん……」


 差し出された手に触れられる前に、素早くお釣りを置いた。


(触れられたら困る、絶対に――)


 ほんの一瞬でも距離が縮まるのが、怖い。


「じゃあ、待っているから」


 当然のように言われて、息が詰まった。


「……もう諦めて帰ってくださいっ!」


 思っていたよりも声が大きく出て自分で驚く。穂高さんがわずかに目を見開いたのが見えた。


「昨日だってちゃんと寝ていないだろうし、疲れてるでしょう。それに俺は――」


 口元に柔らかい笑みを浮かべて出て行こうとした背中に、思いきって大きな声をかけてみた。他にお客さんがいないのが、助かったというべきだろう。それなのに穂高さんは、俺の言葉を最後まで言わせないように口を開く。


「疲れは君に逢えた瞬間に、全部消え失せてしまったよ。だから待ってる」


 断り文句を最初から無効にする言い方に、胸の奥で何かがきしんだ。


「じゃあ、またあとで」


 引き止める隙も言い返す余地もない。自動ドアが閉まる音がやけに大きく響いた。


「迷惑の、二文字も言わせてくれないのか」


 レジカウンターに手をついて、深く息を吐く。


(――近づかれるほど、逃げ道がなくなる)


 寄せられる想いが強すぎて、迫られて優しくされて。強引に近づいたと思ったら、逃げるように身を翻す。強く求められているはずなのに、こちらの気持ちは確認されない。


 しかも拒否しようとすれば、笑顔でかわされる。


「どうしていいか、ホントにわからないんだ」


 恋愛経験の浅い俺には彼の対処について、本当に困り果ててしまう――。穂高さんの“好意”は、最初から逃がす気のないものだったのか。


 レジの向こうに残った、さっきまで彼が立っていた場所を見つめながら、胸の奥に小さな火種が落ちた気がした。


 まだ熱くはない。けれど確実に消えない――そんな予感だけが残っていた。

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