表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/20

16 穏な眠り

 早朝から活動して眠たいはずなのに、緊張で目は冴えてしまっている。

 瞼を閉じても眠れそうになくて、首だけバルドさんの方に向ける。

 バルドさんとばっちり目が合って頬が染まる。


「眠れない?」

「はい」

「俺も」


 バルドさんは眉を下げてはにかむ。

 短い言葉の中で、バルドさんも同じ気持ちなのかな、と照れくさくてむず痒い。

 顔の半分まで布団に潜り込む。

 バルドさんがこちらに手を伸ばした。


「手を繋いで眠ってもいい?」


 私はそっと握った。バルドさんが力強く握り返してくれる。

 大きくて温かくて安心できる、私の大好きな手だ。


「クレアの手は小さくて優しい手だね」

「優しい手、ですか?」


 首を傾けると、バルドさんがゆっくりと頷く。


「人のために一生懸命薬を作っている、優しい手だよ」


 私の手は薬草を洗うから、水で少し荒れている。短く切り揃えた爪は、薬草の色が移っていてあまり綺麗とは言えない。


 そんな手を褒められたのは初めてで、自分の手が誇らしくなった。

 バルドさんの言葉は私の心を満たしてくれる。


「ありがとうございます」


 心が温かくなると、体まで熱が回るようで急に眠気がやってきた。瞼を開けていられず「おやすみ」とバルドさんの声に返事をできたかわからない。眠りの中に落ちていく。




 振動と呻き声が聞こえて、無理矢理瞼を持ち上げる。

 目の前には大きな狼がいて、バルドさんと一緒に眠ったことを思い出す。

 私の手に硬い肉球が乗せられていた。眠っても手を繋いだままだったんだな、と顔が綻ぶ。


 バルドさんの顔を見ると険しくて、グルグルと喉を鳴らしいた。

 怖い夢を見ているの?

 バルドさんに近付き、体に手を回す。背中をさすって「怖くないですよ。大丈夫ですよ」と声をかけ続けた。


 次第に表情が和み、穏やかな寝息と可愛らしい寝顔を見せてくれた。

 私はバルドさんが怖い思いをしないように、寝落ちするまで背中をさすった。





 顎をくすぐられたような感覚で目を覚ます。

 目を開けると、バルドさんとピッタリ引っ付いていた。

 抱きしめて眠ったようで、私の腕がバルドさんの背に回っている。


 くすぐられたと思ったのは、バルドさんの耳が顎に触れたからだ。

 腕を離して顔を見る。バルドさんはベッドに寝転がって、ジッと私を見つめていた。


「おはようございます」


 頭を撫でながら声をかけると、頬擦りされた。

 硬めの毛が少しくすぐったくて、甘えるような狼のバルドさんが可愛くて口元が緩む。


 バルドさんは起き上がって私の顔の横に前足を付き、足を跨いで後ろ足をついた。

 覆い被さられて、頬を舐められる。

 パジャマの中で尻尾が揺れていた。


 もう一度頬を舐められ、私はバルドさんの耳の付け根を撫でる。

 バルドさんは「ワフー」とため息のような鳴き声を出して、私の上から退いた。


「撫で方がダメでしたか?」


 バルドさんは小さく首を振る。

 外は日が登り始め、淡い光が部屋に差す。


「温室に行きましょう。着替えますね」


 バルドさんは部屋を出ていく。

 待たせるわけにはいかないから、手早く着替えて髪を一つにまとめて部屋を出た。

 扉の傍にバルドさんが座っていて、すぐに立ち上がって歩き出す。私はその隣に並んだ。





 温室に入ると庭師がいて、乳鉢と乳棒を用意してくれていた。

 乾燥させたエテールムをすり潰すのも手伝ってくれる。

 バルドさんは落ち着かない様子でウロウロしていた。

 すべてを擦り潰し、密閉容器にしまう。


「ありがとうございました」

「こちらも持っていってください」


 昨日のうちに乾燥させたものを、粉末にしていてくれたようだ。私がすりつぶしたものは、昨日の夜に乾燥機にセットしてくれたものらしい。

 使える量が倍になった。これだけあれば、池の浄化は充分だろう。


「ありがとうございます」


 バルドさんが吠えると、庭師は目を潤ませて深々と頭を下げた。お礼を言ったのかな?

 私も頭を下げてから温室を出た。


 中庭を駆けて階段を下りると、動物たちがずらりと並んでいた。ライオンやチーター、クマやサイといった強そうな動物ばかりだ。

 みんな青い服を着ていて、お城の旗と同じマークが襟に刺繍されていた。胴にはポーチを巻き付けている。


 王様と王妃様、アークス様とイヴリン様がお城から出てくる。


「サンドウィッチを作ったから、休憩の時にバルドと食べてちょうだい」

「ありがとうございます」


 王妃様からサンドウィッチを受け取ってリュックにしまう。


「道中はうちの騎士団が護衛をするから」


 王様の声で、動物たちは短く吠えた。

 持ってきたクーニアの花は少ししおれている。花の匂いが薄れているかもしれないから、すごく心強い。


「気をつけて帰るのよ」


 イヴリン様に両手を包み込むように握られた。私は「ありがとうございます」と頷く。


「みんな、バルドとクレアを頼んだ!」


 アークス様が叫ぶと、士気を上げるように動物たちが一斉に吠える。

 バルドさんが体勢を低くして、私はその背にまたがった。


「また二人で帰ってくるのよ!」

「はい、次は美味しいものをいっぱい食べて、いっぱい遊びたいです」


 動物たちが私たちを囲うように隊列を組む。

 バルドさんの「アオーン」という遠吠えを合図に、駆け出した。

 私は落ちないように、バルドさんの首にしがみつく。

 道の端では獣人たちが膝をついて頭を下げていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ