庭付一戸建てモフモフ付きへの道 vol.7 ~完結~
~ここ誰んち~
モフモフが35匹を超えた頃、僕たちは庭にテントを張った。
家の中はモフモフでぎゅうぎゅうで、仕方のない決断だった。
久々に妻と二人、茶を啜った。
夢のマイホーム、まさか、テント暮らしをする日が来るとは……。
世の中、何が起こるか分からない。
常に笑って生きよう…いや、心の中での話。
~家族そして……~
そんな時、天気は大荒れになった。
タイフーンの季節が来たのだ。
家の窓を補強し、タイフーンに備えた。
モフ達は初めての様子にどこか浮かれて見えた。
過去最大級のタイフーンだと放送されている。久々の家の中、モフモフに交じって団子状で眠った。もうぎゅうぎゅうで、酸素も薄い。
外は、容赦ない雨と爆音の風。
時々、補強した窓ガラスも揺れる。
さっきまで、楽しそうに見えたモフ達が一斉に怖がった。震えが止まらないようだった。
「大丈夫さ。じっとしてれば、そのうち過ぎ去る。」
……はずだった。
あまりの突風に屋根が、限界を迎えた!!
ギシギシギシ…。ミシミシミシ…。
ドッカーン!!!
え?屋根がーーー!!屋根が飛ばされた!!
「新築やのにーーーーー!!」
それどころではなかった。
「モ……フ」
あーーーーー!モフが……
モフが1匹ずつ消えていく……。
雨。本当に、雨に当たると……消えるなんて……。
小さな光の粒になって、空に溶けるように――
モフは、1匹、また1匹と、静かに姿を消していった。
待ってくれ!待って、頼む、待ってくれ……
消えないで……お願い……ごめん……
ごめん……。うるさいなんて思って……。
――終わった。
そう思い、妻の方を見た。
え?妻がモフを抱きしめて、雨風から守っていた!
あ、最後のモフ……。
守らなきゃ!
僕は、夢中でそのモフに駆け寄った。
ビニールシートをかぶせ、妻と肩を寄せ合い、
ただただ小さな命を、手の中に包んだ。
「……もう増えなくていいから」
「モフ」
小さな返事が聞こえた瞬間……
ゴオォォォォォォッ!!
嵐がうねり、
僕たちを目掛けて、
巨大な瓦礫が宙を飛ぶ――!
「――やばい!!」
もう、ダメだ。
……そう思った、その瞬間――
モフが大きくなった!!
え??伸縮自在?
毛が、ふわぁっと広がり、僕たちをぐるりと包み込む。
「え、モフ……お前、そんな力が……!!」
いつもふわふわで何もしてないと思ってたのに――
瓦礫から守られた。
しかし――
モフの体が透明になっていく……
「え?まさか、消えるのか?」
「雨に当たると消える、それが掟……。」
モフは静かに言った。
「え?章典か??」
「ああ、そうだ……。」
「お前、お前、どうして……。なにか、何か方法はないのか!!なにかーーー!!」
「……ある……。でも、無理だ……。」
どんどん、モフの影が薄くなる……
「無理じゃない!教えろ!絶対、なんとかするから!!」
モフは何も言わなかった。
「あ?章典の5は?」
「あれは……。」
モフは、一瞬だけ、悲しそうに微笑んだ。
「あれは?」
「わしが心から笑えたら、一匹の単体となり、以上の条件は無効となる。」
「笑え!なんでもいいから笑え!!」
もう、モフはほとんど見えない……
「……無理だ……心から笑ったことなどない……。だから、無理だ……。」
もう、声しか聞こえない……
「ばかやろう!何でもいい!何でもいいんだよ……消えるな……笑え……消えるな……。もう、家族だろ……置いてくな……。俺たちを置いてくな!!!」
「わしは……こんなにも想ってくれる人を置いていかねばならないのか……可笑しな話だ……。」
え?モフが風の中で優しく笑っている……そんな気がした……
ドン!
小さなモフが床に落ちた。
「え?モフ!!」
「モフちゃん!!」
「モフ」
モフは雨に濡れている。でも、確かにここにいる。
――こうして、モフモフは一匹の単体となった。――
~それから~
モフはもう喋ることはなかった。
章典の話もしない。金貨も出ない。
ただ、そこにいて、ふわふわしてるだけ。
でも、それでよかった。
あの雨の日を超えて、僕たちは家族になった。
……ただひとつ、問題があるとすれば。
屋根、飛んだままなんだよね。
しかも追加ローン、組んじゃった。
だから、決めた。
これからは、モフを連れて――
住宅ローン返済の旅に出る!
**―――冒険は今、始まる。―――**
(完)
ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます!
初めて書いた小説ですが、ゲラゲラ笑いながら、時には徹夜しながら、楽しく書き終えることができました。
この物語は、一応ここで完結です。
ですが、スピンオフや外伝、エピソード0など(めっちゃやる気満々やんw)、気が向いたらまた書くかもしれません。
それが3日後かもしれないし、数年後かもしれませんが……
そのときは、また読んでいただけたら嬉しいです。
最後に。
ここまで付き合ってくれた読者のあなたに、心からありがとう。
……妻より。
(え、まさかのオチまで持ってくの!?)