第5話 予期せぬ出会い
静かな寺に現れた謎の行商人。
ただの商人か、それとも主人公の秘密を解く鍵?
懐かしいトウモロコシの香りが蘇る時、
カタコトだった日本語が、突然「魔法のように」流れ出す!
茶目っ気ある清次は荷物だけでなく、
寺の外の世界への扉も運んできた――。
騒がしい市場と答えのない問いの中で、
新たな能力が目覚める…これは運命か、それとも暴走する力の代償か?
時が経つにつれ、俺の日本語は目に見えて上達していたが、まだ流暢に話すのには苦労していた。基本的な会話は理解できたものの、いざ自分の考えを表現しようとすると、言葉が頭の中で絡まってしまうのだ。
その朝、寺の入り口を掃いていた時、小さな荷車を引いた男がやってくるのが見えた。身なりは質素だが手入れが行き届いており、態度はゆったりとしていた。僧侶たちは彼を親しげに迎え、俺にはほとんど理解できない言葉を交わしていた。その様子から、彼が寺の常連の商人なのだろうと推測した。
好奇心から、僧侶たちが商品を検めている間、商人が持ってきた様々な品物を観察しに近づいた。すると、どこかの時点で商人は俺の存在に気づき、人懐っこい笑顔で話しかけてきた。
「見かけない顔だな。新入りかい?」
答えようとしたが、俺の限られた日本語では、言葉はたどたどしく、途切れ途切れになった。彼は興味深そうに俺を見つめ、そして、根気よく、もっとゆっくり話してくれた。
「ここの人間じゃなさそうだな。言葉には苦労してるのか?」
俺は頷き、少し恥ずかしくて顔が赤くなるのを感じた。言葉がおぼつかないことを指摘されたのは初めてではなかったが、どういうわけか、彼の口調は見下すような響きではなかった。むしろ、純粋に興味を持っているように見えた。
「俺は千住ってもんだ。通りすがりの商人さ。この寺にはよく来るんだ」と彼は自己紹介した。
さらに少し言葉を交わした後、千住さんが開けっ広げで外向的な性格の持ち主だとわかった。俺が言葉に詰まっても気にしないどころか、むしろ、俺がもっと気楽にいられるように努めてくれているようだった。
「これから町へもっと品物を届けに行くんだ」彼は荷車の商品を整えながら言った。「もし坊さんたちが構わないなら、一緒に来るかい?日本語の練習になるかもしれんぞ。」
その提案は不意打ちだった。俺は僧侶たちを見た。断られるだろうと思ったが、驚いたことに、彼らは反対しなかった。おそらく、外に出ることが俺の学びの助けになると考えたのだろう。俺は軽く頷いて承諾し、すぐに俺たちは町へと続く小道を歩き始めた。
町は想像していたよりもずっと賑やかだった。通りは人で溢れ、ザワザワとした喧騒の中、売り子が大きな声で商品を勧め、俺にとっては未知の匂いが無限に漂っていた。千住さんの配達に付き添いながら、俺はこの活気ある町の細部一つ一つを驚きをもって観察した。
ある時、穀物や香辛料を売っている市場の一角を通りかかった。その時、ある考えが頭をよぎった。ここでトウモロコシが見つかるかも? チレも? 突然、郷愁が俺を襲った。故郷での日々を思い出した。祖母がメタテ(穀物を挽くための石皿)でトウモロコシを挽いているのを見ていた日々、焼きたてのトルティーヤ(トウモロコシの粉で作る薄いパン)の香り、食事のたびに感じたチレ(中南米産の辛い香辛料)の辛さ。それはあまりにも鮮明な記憶で、一瞬、その匂いを嗅げるような気さえした。
頭の中がスペイン語の言葉の渦でいっぱいになり、まだ覚えようと苦労している日本語のフレーズと衝突した。俺の中の何かがカチッとはまったようだった。まるでその強い感情が俺の心の中の何かを解き放ったかのように、突然、日本語がより良く理解できるようになった。だが、今回は違っていた。
頭の中に急な熱を感じた。何かが俺の中で点火したかのようだった。思考がすっと整理され、以前は苦労していた言葉がはっきりと流れ始めた。まるで見えない壁が壊れたかのようだった。
「すみません… ここにトウモロコシはありますか?」予想していたよりもずっとはっきりとした声で尋ねた。白い、粒がぎっしり詰まった穂軸と、それを覆う緑の葉を思い浮かべた。もしかしたら、ここでは違う名前で知られているのかもしれない。
売り子は怪訝な顔で俺を見た。
「トウモロコシ? なんだそりゃ、知らねえな。」
俺は瞬きし、戸惑った。自分自身の声が違って聞こえた。より流暢で、より自信に満ちている。千住さんも驚いて俺を見つめていた。
「おい… いつからそんなに上手く話せるようになったんだ、タケチくん?」彼は眉を上げて尋ねた。
俺自身も驚いていた。ほんの数分前まで、長い文を作るのに苦労していたのに、今は言葉が自然に出てくる。
「トウモロコシ? ええと… 穂軸に実る白い粒のようなものです」売り子に説明しようとした。「粉にして…」
売り子はまだ眉をひそめていた。千住さんが割って入った。
「もしかしたら、別の名前で知られているのかもしれないな。タケチくんの故郷ではどうなんだ?」
「えっと… 主食なんです。トルティーヤ(トウモロコシの粉で作る薄いパン)とか、タマレス(トウモロコシの生地で作る蒸し料理)とかを作るんです…」売り子が理解できる言葉が見つからず、苛立ちを感じながら説明を続けた。
千住さんは理解したように微笑んだ。「心配するな、タケチくん。習慣を学ぶのは良いことだ。いや、そんなものは聞いたことがないな。だが言ったように、この世界は広い。もし本当にそれを見つけたいなら、いつか見つかるかもしれん。もし望むなら、俺と一緒に旅を続けて、他の場所で探してみるのもいいかもしれん。」
彼の誘いは義務ではなく、可能性の一つだった。そして、探しているものが見つかる確信はなかったが、さらに探検を続けるという考えが魅力的に思え始めていた。
寺への帰り道をコツコツと歩きながら、千住さんはしきりに俺を横目で見ていた。ついに彼は沈黙を破った。「なあ。お前に初めて会った時、少し変わった奴だと思ったんだ。だが今… この言葉のことだが… 何か一夜にして変わっちまったみたいだ。」彼の口調は好奇心に満ちていたが、目にはわずかな疑念の色も宿っていた。俺は寒気を感じずにはいられなかった。彼は何か他のことに気づいたのだろうか?