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蝶の羽音  作者: 綾瀬昂夜
3/7

懐古

ミツはいつもふわふわしている。何を考えているかわかりにくいし、人と合わせるということができない。

いつも笑っていて、余計に掴み所がないけど、嫌われるわけでもない。


俺はそんなミツを見ていると、たまにイライラして、たまに安心して、そして、いつもどおりだと日常を思う。


部屋に入って、机に鞄を置く。

学校のロッカーにほとんどの教科書は入っているせいで薄い鞄。

はぁ。

自然にため息をつくことが癖になっているのに気がついて、また一つため息をついた。


『幸せが逃げてしまうわよ?』


死んだ母親の声がよみがえる。

幼いころから苦労性だったのか、ため息の多かった俺に、よく母親は微笑んでそういった。

俺も大概嫌なガキだったが、母さんも結構おかしな人だった。


少し、ミツに似てるかもしれない、と。

かすかに浮かんだ考えを、強く消した。

理由は知らない。


団地に住んでるうちでも置ける小さな仏壇には、二枚の写真と、位牌と、なんでか派手だと俺は思う布に入れられた、小さな二つの骨壷。


「ただいま、父さん、母さん」


俺は毎日の日課、ただいまの挨拶を二人にする。

自己満足でしかないって、わかってはいるんだけどな。



俺の父さんは、俺が生まれたすぐ後に事故でなくなったらしい。

母さんは、俺が中学二年の春に、病気でこの世を去った。

もともとあまり身体の強い人ではなくて、お嬢様って雰囲気がぴったりの人だった。

小さいころ、母さんに本を読んでもらうたび、「お姫様っていうのは、きっと母さんに違いない」って思ってたくらい。

それだけ、儚い感じではあった、と思う。

いつもにこにこ笑っていて、でも叱られるとすごく怖かった。

何がどう怖いって、滅多なことじゃ怒らないのに、俺が自分でどう悪いか、思い知らせるまで徹底的に思い知らされた。

怒鳴ったり、叩いたりするわけじゃない。

ただ、身をもって・・・自分がやったのと、同じ状況に置かされた。

母さんは、そんな時でも、笑顔なんだよなぁ・・・。


思い出して寒気のしてきた俺は、さっさと立ち上がって、キッチンに向かった。

父さんと母さんがいなくなってからも、俺は父さんと母さんが暮らして、俺が生まれた時から住んでいる団地の一部屋に一人暮らししている。


父さんには父さんの死んだ父と母の遺産があって、さらにそれに父さんの保険金もきたから、うちは遺産で金に困ったことはなかった。

母さんも母さんで、なにもいわなかったけれど保険と、その他なにかわからないけれど桁の違う額が入った通帳が残された手紙と共にタンスの引き出しから出てきて、遺産だけで結構な金持ちだと判明した。

そんなの、いらなかったりするのだけれど。



ついでに、ミツの家は母親は小さいころなくなっていて、親父さんは海外出張中。そろそろ年単位だから、転勤なんじゃないのかといいたいが、本人はけして認めようとしない。

たまにしか帰ってこれないが、帰ってくるたびにミツと俺に抱えきれないほどのプレゼントと、ぎゅうぎゅうと抱きしめてくれる。

優しい、大きな人だと思う。


そんな家族同士の俺とミツは、家は隣同士、生まれたときから一緒にいる幼馴染。

現在は、俺は親をなくし、一人暮らし。ミツも親父さんが帰ってこないから、ほぼ一人暮らしで、半分以上一緒に住んでるといっても過言ではない。

イイ暮らししてんな、とやっかみ交じりにからかわれることもあるけれど、正直、俺とミツは青春とは程遠い、ジジイとババアのようだと思う。

二人しかいないから一緒にいる。そんな状態なんだと、俺は思っている。



・・・・・・・・・・・・・。

どうして帰ってきてまで、こんなことを考えているんだ自分。しっかりしろ自分。

なんだか寂しい、墓前を思い出した気分だ、疲れた。

とっととメシを作ってしまおうと思っていたが、気がそがれてなんだか落ち込む。


こういうときは、寝てしまうに限る。

幸い、まだミツもきていないことだし。


子供の頃から使っている、木目のでた木のベッドにダイブして、目を閉じた。


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