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呼声 1

新作です!週末で完結まで一気に投稿します!!

試験会場を出た瞬間、思わず目線を足元に落とした。靴先をじっと見つめながら、足は重く引きずられるように動く。会場の外に貼り出された合格者リストに、自分の名前がなかったことは何度も確認した。その度に胸の奥がぎゅっと締め付けられるようで、息苦しささえ感じた。


深く息を吐いて空を見上げても、視界には曇りがかった灰色の空が広がっているだけだ。「こんな日は晴れてたらもっと悔しくなるのかな……」と、ぼんやりと思った。


人通りの多い道沿いを歩きながら、周囲の人々の笑い声や話し声が耳に入る。軽やかに会話を交わす誰かの声に、なんとも言えない疎外感が湧き上がる。まるで自分だけがこの場所に馴染めない異物になったような気がして、無意識に歩くスピードを速めた。


「……またかよ」


低く吐き捨てるように声が漏れる。誰にも聞かれるはずがないのに、それでも言葉を出すのが恥ずかしく感じた。ポケットに突っ込んだ手をぎゅっと握りしめると、硬く冷たい指先がじわりと汗ばんできたのが分かる。


会場の入口から少し離れたベンチが見えた。誰も座っていないのを確認して、ふらふらと腰を下ろす。肩を落としてため息をつくと、自分の置かれた状況がどっと押し寄せてきた。


「あー……情けないな、俺」


拳を握り締めて膝に押し当てる。周りから見れば、ただ落ち込んでいる人間に過ぎないのだろう。でも、この失敗続きの結果をどう受け止めたらいいのか、もう自分では答えが出せなかった。


ポケットの中に丸めた通知書の感触が指先に触れるたび、胸の奥がちくりと痛んだ。軽く湿った紙の感触が妙に現実感を伴っていて、これがまた結果を突きつけられているようで嫌だった。それでもその紙を捨てる気にはなれず、ただポケットの奥深くに押し込むだけだった。


「……はぁ……」


思わず、長いため息が漏れる。空を仰ぐと、曇天がどんよりと広がり、まるで俺の気分を代弁しているようだった。頭を掻きながら立ち止まり、振り返ることもせずに歩き出す。試験会場の入口はもう視界の外だが、さっきまでそこにいた自分の姿が頭の中にちらついて離れない。


ポケットの中の通知書が重りのように感じられた。それを破り捨てたい衝動に駆られたが、どうせまた受験するだろうと考えると、そんなことをしても意味がないと思い直した。ただ、いつまでも続くこの無力感に耐えるのが辛かった。


「何回目だよ、これで……」


苦笑とも自嘲ともつかない声が、呟きとなって路地に吸い込まれる。通りを行き交う人々の中で、こんなことを考えているのは俺だけかもしれないと思うと、余計に自分がみじめに思えた。


頭を軽く振って気分を変えようとしたが、うまくいくはずもない。目に入る景色が全部ぼやけているように見えた。だけど、それでも足を止めるわけにはいかない。ただ歩くことで、どこかにたどり着ける気がしたからだ。


近くのベンチが目に入った瞬間、無意識に足がそちらへ向かっていた。身体が重い。心の中の負担がそのまま身体に乗り移ったみたいだ。ふらりと座り込み、背もたれに深くもたれかかると、視界に広がる灰色の空がどこか遠く感じられた。


「探索者か……」


思わずつぶやいてしまったその言葉が、風に乗って消えていく。幼い頃から、探索者は俺にとって憧れそのものだった。迷宮の奥に眠る秘宝を探し求める姿。どんな危険が待ち受けていても、その鋭い眼差しで前進する勇姿。テレビのニュースやドキュメンタリー番組で見るたびに、あれこそが自分の目指すべき未来だと思っていた。


「俺も、ああなれるはずだって……そう思ってたんだけどな」


膝に肘をついて顔を覆い、苦笑いが漏れる。だが、それは何も解決しないことくらい自分でも分かっている。実際、今日も試験に落ちた。夢に向かって歩き続けたつもりが、気づけば夢を見上げることしかできなくなっている。


ポケットに手を突っ込むと、通知書の感触が指先に触れる。くしゃくしゃになった紙の感触に苛立ちを覚えながら、それでも捨てられない自分が嫌になる。破り捨てるべきだと分かっているのに、それができないのは、まだどこかで希望を捨てきれていないからだろうか。


「……やっぱり、才能がないんだろうな」


その言葉を口に出すと、自分の情けなさがさらに突きつけられる。異能がない平凡な俺が、あの迷宮で活躍するなんて、無理なのかもしれない。試験場で見た、他の受験者たちの輝くような姿が頭に浮かんでくる。自信に満ちた態度。異能の力を自在に操る技術。あれこそが探索者の姿だ。


「それでも……それでもさ」


視線を地面に落としながら、手のひらを軽く握る。ぼろぼろでも、みっともなくても、俺はまだ諦めたくない。憧れが簡単に消えるような軽いものなら、こんなに苦しむこともなかった。胸の奥に燻るものが、諦めるなと叫んでいる。


「……どうすればいいんだよ」


ぽつりと零れたその声は、空へ吸い込まれていく。ベンチに腰掛けたまま、何気なく視線を上げると、遠くで楽しげな声が聞こえてきた。声のする方を見ると、数人の探索者たちが迷宮から戻ってきたばかりなのだろう、大きなバックパックや武器を肩にかけて談笑しているのが見えた。


「いやぁ、今回は危なかったな!」

「お前が最後の扉でトラップに気づかなかったら、全滅してたぞ!」


そんな声が風に乗って耳に届く。彼らは迷宮での冒険の余韻に浸りながら、お互いに笑い合い、軽く肩を叩き合っている。その表情には充実感が溢れていて、疲れているはずなのに、どこか活き活きとして見える。

中には腰に大きな剣を下げた屈強な男や、異能らしい光を手のひらに灯す華奢な女性の姿もあった。それぞれが特別な力を持ち、それを当たり前のように使いこなしているのが一目で分かる。


俺は何も言わずに彼らを眺めていた。羨ましい。いや、それだけじゃない。憧れと嫉妬が入り混じった感情が胸の中で渦巻くのが分かる。楽しそうな笑顔を見るたびに、彼らと自分との圧倒的な違いを突きつけられているようだった。


「俺も、ああなりたかったんだよな……」


自分の声がやけに乾いて聞こえる。憧れた姿は、あそこにある。冒険者として迷宮を駆け抜け、仲間と共に困難を乗り越え、成功を分かち合う。その輝かしい瞬間が彼らの日常だなんて、なんて眩しいんだろう。


一方で、俺はここに座っているだけだ。ポケットの中の通知書は、失敗を裏付ける重りのように感じられた。何度も挑戦して、何度も弾かれて、それでも夢を捨てられないでいる自分が、ただ滑稽だった。


彼らの笑い声が遠ざかっていく。楽しげな話題を続けながら、彼らは迷宮から戻ってきたその先へ進んでいく。俺のいる場所には目もくれずに。


「……違う世界にいるみたいだな、ほんとに」


呟きながら、ふと目を閉じた。その光景を見ていたら、自分が小さく、透明になったような気がしてならなかった。それでも、心の奥で小さな炎のようなものがまだ揺れている気がする。消えない炎。消せない憧れ。


探索者たちの声が完全に聞こえなくなると、俺は視線を再び曇った空に向けた。曇り空の下、ぼんやりと通りを眺めていた時だった。どこからか、かすかな声が耳に届いた。それは風に紛れるような微弱なものだったが、確かに言葉らしき響きを含んでいる。


「……た……すけて……」

「続きはどうなる?」「面白い」「もっと書け」

など、少しでも感じていただけましたら、


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