第29話 病床の兄と再会
ビルイェル伯爵領・ヴェスティの街まで、ボクたちは戻ってきた。
今は騎士のキルシュ、鳥人族の僧侶ヴィク、エレオノル姫様が率いる騎士団も一緒である。
「大丈夫ですか、ヒューゴさん? また、門前払いということは」
「身内なので、おそらく平気です」
まず、ボーゲンさんにあいさつをする。
療養所で、ボーゲンさんを呼んでもらった。
「お久しぶりです」
「おお、ヒューゴじゃないか」
快く、ボーゲンさんはボクを迎えてくれる。
「ひさしぶりね、おじいさま」
「ああ。ソフィーア。無事だったかい」
ソフィーアと聞いて、騎士団がざわついた。
「あの、ソーニャさん。あなたはもしや、ボーゲン・マインラート殿の」
ヴィクの質問に、ソーニャさんはあっけらかんと「そうよ」と答える。
「マインラート卿の、お孫さんだったとは」
「伝説の魔導騎士、ボーゲン様の、孫だったとは」
「ボボル・ギソと双璧をなす、最強術師の一角」
また、騎士団がざわめいた。
「お静かに。存じ上げなかったのですか? 彼女は、ビルイェル伯爵のお嬢様ですよ」
姫様の一言に、騎士団のどよめきがより大きくなる。
「やめてくださいまし。エレオノル姫様。そういう騒動を避けるため、町娘風に変装していましたのに」
「ウフフ。あなたのような町娘がいますか?」
姫様は、すぐにソーニャさんの正体をカンパしていたらしい。
まあ、あれだけテーブルマナーが行き届いていたら、誰だってソーニャさんが貴族だってわかっちゃうよね。
「一〇代前半で【メテオバースト】なんぞ放つ魔力、お父上によく似た目鼻立ち、どれをとっても、ただものではないとお見受けしておりました」
「バレていたんですね?」
「ウソです。わたくしは、赤ん坊だったあなたを抱っこして差し上げたこともありましてよ」
姫様にジョークを言われて、ソーニャさんが頬を膨らませた。こっちのほうが、ソーニャさんらしいや。
「エレオノル騎士団の方々とご一緒ということは、遺跡に向かうんだね?」
「はい」
ボクは、事情を説明する。
ソーニャさんが、ファミリアを召喚した。
ファミリアは、両手にハンドベルを持っている。
「これは、【恬淡の鈴】……すごいな、ヒューゴは。ワシでも、文献でしか見たことがない。どこにあるかすら、わかっていなかった」
ダンジョンで手に入れたハンドベルを見ながら、ボーゲンさんがつぶやく。
「そうか。これが必要だったんだね。だから、やめておけといったのだ。しかしエルネスト王子は、自分がいるから大丈夫だと」
エルネスト王子は、レアアイテムの存在を知らなかった。こんなアイテムが必要だと分かったのは、ギソのダンジョンの最下層にあった文献からである。
エレオノル姫を待っていれば、兄はまた違った結末を迎えていたかもしれない。
「兄の愚行は、お詫びいたします」
「いや、エレオノル姫よ。あなたの責任ではございません。お顔を上げてくださいませ」
ひざまずいたエレオノル王女を、ボーゲンさんは両肩を持って抱き起こした。
「ヒューゴさんも、ごめんなさい。あなたのお兄様を、我が兄は」
「お気になさらないでください」
姫も、同じように兄に危機が及んだ。
ボクは、姫様の気持ちが痛いほどわかる。
でも、なぐさめの言葉は見つからない。
タイミングが悪かった。それしか言えない。
「して、ヒューゴよ。あの遺跡に行くんだね?」
「はい。その前に、ロイド兄さんに話を聞こうと」
「わかった。ついておいで」
ボーゲンさんが、方向転換をした。一瞬立ち止まって、姫様の方を向く。
「おっと。王女よ。申し訳ないが、騎士団殿たちには待機してもらってください」
騎士団がゾロゾロと来ては、ボクの兄の精神に関わるからと。
「わかりました。ザスキアさん、皆には待機するようにお伝え下さい」
「承知いたしました。お気をつけて」
王女が、ザスキアさんに指示を送る。
ボーゲンさんは、ボクたちを畑の方へ案内した。
「今回は、すんなり通してくださいましたね?」
「ヒューゴと孫といえど、会わせるわけにはいかなかった。まだ、完全に治っているわけじゃないですからね」
だがボーゲンさんは、ボクが遺跡攻略に必要なアイテムを手にしたことで、考えが変わったらしい。
これなら、会わせても大丈夫だろうと。
「ここだよ」
兄ロイドは、畑でトマトを品定めしていた。
この間まで、寝ていることすら苦痛に見えたのに。
「人はね、誰かの役に立つってのが重要なんだよ」
今までのロイド兄さんには、休む時期が必要だった。なにもさせず、ただ眠らせる日が続いたという。
身体を起こすようになったので、畑仕事を手伝ってもらうことにしたそうだ。
ボーゲンさんは、少しずつでいいから動くように働きかけたという。身体を動かすことで、余計なことを考えずに済むからである。
働いていないと、人はずっと自分のことしか考えなくなっていく。自分のだめなところばかりにスポットを当てて、余計に自分がイヤになる。
「役に立たなくてもいいから」と、ボーゲンさんは兄をほんの少しだけ働かせた。
少しずつでも働くことで、自分以外のものが見えてくるそうだ。
身体を動かせば、血の巡りもよくなるらしい。
土いじりから初めて、ようやく野菜を植えるくらいには回復した。食べられなくてもいいから、何かを育てることで、自分以外にスポットを当てている。
ボーゲンさんの治療は、うまくいっているように見えた。
ここでボクが遺跡に関して問いかけて、また悪化したらどうしよう。
そんな事ばかり考えていると、ソーニャさんが前に出た。




