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一攫千金を夢見て旅立った兄が、病んで帰ってきた。結局ボチボチ冒険するのが幸せなんだよね  作者: 椎名 富比路
第一章 一攫千金を夢見て旅立った兄が、病んで帰ってきた
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第1話 年老いた冒険者に、弟子入りした

「ヒューゴ、世話になったな」


 久々に村へ帰省したと思ったら、ロイド兄さんはすぐに旅へ出るという。


「もう行くの?」


「ああ。つい最近になって新しい遺跡が見つかって、今は冒険者が殺到しているんだ。グズグズしていたら、他の冒険者にお宝を取られちまう」


「一日しか、滞在していないじゃん」


 いや、半日いたかどうかである。両親へのあいさつもそこそこに、弓の手入れしかしていない。ほとんど会話らしい話はなく、旅の土産話すらなかった。


 他の冒険者たちも、なんだかそっけない。

 村の名産品である「さつまいもの糖蜜揚げ」くらい、食べていけばいいのに。

 

「ロイド兄さん、どうしても行くのか?」


「ああ! オレはあの遺跡に向かって、一攫千金を狙うんだよ!」


 朝の食事もそこそこに、兄は旅の支度を始めた。


 兄とパーティを組んでいる仲間たちも、いそいそと準備をしている。


「ボーゲンのじーさん、なにしてやがる?」

 

 ただ一人のんびりしているのは、老魔道士のボーゲンさんだけ。彼は他の冒険者と違い、一向に席を立とうとしない。ウチのテーブルで、ずっと酒を飲んでいる。


「なにって、朝から飲んでるのさ」

 

「じーさん、なにをやってるんだ? 行くぞ」

 

「ワシは、遠慮するね。ここに残るよ」

 

「どうしてだ? 遺跡でお宝をゲットできれば、老後も安泰だ。これまでも危険な旅があったが、うまくやってこれたじゃないか!」


「財宝なんて、もういいよ。ロイド、ワシは引退する」


 ボーゲンさんの発言に、他の冒険者たちがどよめく。


「マジで言ってんのか、ボーゲンじーさん。あんた、このパーティじゃ最古参じゃねえか」


「だからだよ。もう疲れたんだ。ワシは、もう冒険はせん」


 ボーゲンさんの顔には、諦観のようなものが現れていた。

 

「どうしても冒険者を続けろというなら、ワシはこの村を守る職につくよ」


「こんな田舎町なんて守っても、どうしようもねえだろ! 大魔道士って言ったら、この辺りだとあんたくらいなんだよ」


「じゃあ、他をあたりなよ。ワシはもう、冒険には行かない。もう、うんざりなんだよ」


 そう、ボーゲンさんが愚痴をこぼす。


 高額の依頼は、冒険者同士で奪い合い。お宝は他のパーティと取り合い、足を引っ張り合う。傷つけることだって、珍しくないそうだ。


 冒険者と言っても、みんな仲がいいわけでも、華やかでもないんだな。

 

「こんな田舎に住んでも、成長なんてありえねえよ。安い金をもらって、小さいモンスターを倒す隠居生活でもするつもりか? それが、大魔道士なのかよ?」


「それもいいかもね。一人のほうが、気楽で」


 どうあっても、ボーゲンさんは兄との旅に同行する気はないらしい。


「待てよ!」と詰め寄るロイド兄さんを、パーティのリーダーであるパラディン止めた。

 

「それが大魔道士したるあなたのたどり着いた、真理というわけですか」


 ボーゲンさんは、パラディンさんの言葉に答えなかった。それが答えである、というかのように。


 パラディンさんは、無言で兄を言いくるめる。


 

「……じゃあ、勝手にしろ。あばよ」


 ロイド兄さんは、ボーゲンさんの同行をあきらめた。

 両親と、一番上の兄さんにあいさつを済ませる。 


「待ってくれ、ロイド。荷物の一部を、置いていってほしい。アイテム袋も、古いものでいいよ」


 ボーゲンさんが、ロイド兄さんを呼び止めた。


「金目のものなら、ロクなもんがねえが?」


「ダブったショートソードとか、ダンジョンの拾いものでいい。いらないもので構わないから」


「わかった。ほらよ。なんかの足しにしな。酒代くらいには、なるだろう」


「どうもありがとう」と、ボーゲンさんはボロボロのアイテム袋を受け取る。

 

 兄さんは、仲間たちと冒険に出ていってしまった。


「本当に、行かなくていいの?」

 

「危険な依頼をするだけが、冒険者ではないよ」


 ボクが注いだお酒を、ボーゲンさんはグイッと煽る。

 

「どうもありがとう。ああ、うまい。これも芋かい?」


「はい。芋を蒸留しています」


「なるほど、だから甘いのか」


 今度はボーゲンさんは、なめるようにお酒へ口をつけた。


「どうしてこの味を、もっと早い段階で覚えようとしなかったのか。だとしたら、もう一生この地に根を張っていたのに」

 

「ウチの酒なんて、どこでも飲めるでしょ?」


「そうじゃない。旅から遠ざかりたいって意味だよ。もう、ワシは疲れた。これからはエンジョイ勢として、この地を守ることにしよう。若い彼らからすれば、ワシなんてもう足手まといでしかないし」


 どうもボーゲンさんは、口減らしのために自ら身を引いたようだ。

 

 兄がこの家を宿代わりにしていたのも、旅費の節約のためである。


 冒険者って、結構お金がかかるんだなぁ。


「魔道士様なんでしょ? 他のパーティからも重宝がられるよね?」


「大魔道士って言っても、歳には勝てないよ。血の気の多い彼らについていくのは、骨が折れるんだ。若いもん同士でつるんでいる方が、楽しかろうよ」


 それに、とボーゲンさんは付け加えた。


「じきに、彼らもわかるだろう。地道な仕事こそ、最高なんだってね」


「そうなの?」


「ああ。ヒューゴ。キミだって、橋を直してあげたり、近所のおばあさんに薬品を届けたりしているだろ? そんな仕事が、どれだけ大事なのか。彼らにはわかっていないのさ」


 ボクは何度も、この村を出ようと思っていたことがある。

 自分の役目が、地味な仕事に思えて。


 しかしボーゲンさんからすると、ボクのほうがよっぽど立派なんだって。


「いいか。冒険者ってのは、人の役に立つのが仕事だ。それで初めて、報酬を得るものさ。自分から危険な遺跡に入り込んで、お宝をパクってくることが立派なのではない。最強とか億万長者を目指すなんて、人からすればどうでもいいことなんだ」


「でも、強くはなりたいかな? そしたら、もっといろんなコトができるでしょ?」


「今の時代は、世界を襲う魔王なんていない。最強になったところで、どうにもならないけどね」


 昔は、魔王とかが世界を支配していたらしい。

 今となっては、伝説でしかないけど。


「最強じゃなくていいんだ。ひとまず、困っている誰かを助けられるなら」


「そうか。じゃあ、キミ一人でも生きていけるように、ワシが鍛えてやろう」


 ボーゲンさんは酒を飲むのをやめて、立ち上がる。


「ほんとう? でも、お金がかかるんじゃないの?」


 ボクの稼ぎでは、返すことができないだろう。


「なぁに。客間を貸してもらうんだ。それでいいさ。ワシも、この村でできる仕事をさせてもらうよ。それで、チャラだ」


 両親も、この農村を継ぐ長男夫婦もボーゲンさんと話し合った。

 

 結果、滞在を許可してくれることに。


 両親は、すごい深刻そうな顔をしていたけど、大丈夫だよね?


「ではボーゲンさん、お願いしますっ」


 ボクは、ボーゲンさんの弟子となった。

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