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メイの到着

 「うわ、オルトさん強いなぁ」

 言辞(ゲンジ)と私の寝室にある机の上で、言辞(ゲンジ)とオルトがゲームをしていた。

 言辞(ゲンジ)の世界にあった『チェス』というのを、暇だからと言って思い出して即席の駒を作り遊んでいた。


言辞(ゲンジ)様も、なかなか油断できないですね。思わぬところから仕掛けこられる」

「オルトさん、表情ひとつ変えずに切り抜けるんだもんなぁ。まいったなぁ」

 

(まったく。新妻が怪我して寝ているというのに。そんなことして! 暇だったら原稿の1枚でも書くのだ)

 ルナが旦那のアミュレットの事が心配だからと、一時的に離れている。

 私と言辞(ゲンジ)が別々にいると警備に負担がかかるので、言辞(ゲンジ)も寝室に原稿用紙一式を持ち込んで仕事をしているというわけ。


 油断していたとはいえ、私があんな目に遭ったので警戒が慎重になってしまっている。

 オルトが休んだり、言辞(ゲンジ)が別行動を取る時は、メンバーズの人間でも2人もつける用心ぶりだ。


「あの、オルト君。ちょっと用心深過ぎないか?」

 私だって、完治はもうちょっとかかるけど、傀儡(ググツ)ごときに負けないぞ。

 しかし、オルトは表情ひとつ変えずに返答する。

「一時的ですし。それに、そんなに長く休むつもりなのですか?」

 もう、可愛くないやつなのだ。


「リリィ様。メイ様がお着きになられました」

 使用人さんが伝えてくれた。

 久しぶりにメイが来たのだ!


「あ、今行く!」


 起き上がろうとしたら、オルトに制止された。

「姉様。まだ、横になっていてください」

「お前、さっき、いつまで休むつもりなのかって言ったでしょ?」

「あれは言葉の(アヤ)です。メイ様には、こちらに来てもらいます」

 

「二人きりで話したいのだ」

 私は、少しムッとした顔をして言った。

 

「はぁ。しょうがない姉様ですね。では、部屋の直ぐ下の庭に2名、ドアの前の廊下に2名。これを配置するまで少し待ってください」

「わかった」

 なんだか私が我儘(ワガママ)を言っている様で不満だ。

「では、言辞(ゲンジ)様、書斎に参りましょう。使用人さん、配置が済んだら声を掛けます。その後で、メイ様をこちらに」

 オルトは、そう言うと元帝国暗殺部隊の1人に声をかけ、4人直ぐに配置に付くように指示を出した。


「じゃ、リリィ。メイさんには、あまり心配させるような事言わないでね」

 言辞(ゲンジ)が、メイの事を気遣ってくれた。

「わかっているのだ。でも、今回の事聞いているのかな?」

「流石に、誰も知らせてないと思うけど。知ってたとしたら、どこで聞いたのかなぁ?」

 言辞(ゲンジ)は、首をかしげていた。


 そんなやり取りをしているうちに、メイの方が先に入って来た。

「ん! 元気? とは、言えないけど、元気そうね」

「ん! 元気なのだ」

言辞(ゲンジ)さんも、お久しぶりです。本読んでますよ」

「えへへ。嬉しいなぁ」

 言辞(ゲンジ)がニヤケた顔をした。

「あなたは、仕事あるんでしょ? 早く行って!」

 つい、声が大きくなってしまった。

「は、はい」

 慌てて言辞(ゲンジ)が出ていく。


 オルトは、軽くメイに挨拶をすると、言辞(ゲンジ)の後に続いて書斎に向かった。


(ん?)

 メイの視線は、オルトを追っていた。


 ローズかシャトレーヌ、あるいはルナがいたら何か言いそうな状況だった。

 しかし、自慢ではないが私は鈍感系だ。

 普通の女性の心の機微が分かろうはずもない。

 

「どうしたのだ、メイ。オルトの事が怖いか?」

 オルトも、元暗殺部隊の人間だ。

 一般国民からしたら、それはそれは怖いでしょう。

「ん? 何? 何でもないよ。それより、座っていい?」

 メイに、はぐらかされたかもしれない。


「あの方も、リリィの帝国では、お元仲間の方だったの?」

 あれ?

 何でもないよって、さっき言ったよね?

「うん。あいつは、親方様配下では3番目に強いやつだ。今は、私もルナも抜けたので、ナンバーワンかな?」

「へぇ。そうなんだ。凄いね」

「今日は、見舞いに来てくれたんじゃないのか?」

「ああ、そうだった」

「メイ。やっぱり知っていたのか?」

「あっ!」

 メイはしまったと言う顔をした。

「誰から聞いたのだ?」

「う、うん。実は、ルナさんから……」

(あ、あいつか――!)

(あいつ、私らの警備をオルトに押し付けて何してんだ? 早く戻って来いよ!)


「御免。心配かけた?」

 私はメイに尋ねた。

「ちょとはね。でも、リリィの生い立ち知っているから、多少は覚悟していたし。もしかしたら、また起きるかもって」

「そうか」

 私は、ちょっと落ち込んだ。

「何で、あなたが落ち込むの? 私は、知らせてくれたほうが嬉しかったわ。知らないで過ごすほうがショックだわ」

(ああ、そういう考えもあるんだな)

 私は、メイの気持ちが嬉しかった。


「で、怪我の具合は? 流石に、ルナさんも詳しくは教えてくれなかったから」

「うーん」

 ちょっと悩んだが、傷を見せて説明した。


 メイは、私の傷を撫でながら言った。

「やっぱり、リリィは、私と違う次元で過ごしているのね。凄いな」

「いや、私だってこんなこと経験ないぞ。串刺しだぞ! あいつ、言辞(ゲンジ)が言うには『ストーカー』とかいう奴なんだぞ! 『サイコパス』とかいう奴なんだぞ!」

「ははは。串刺しかぁ? それは、経験したくないね――」

 メイは、私の言い方が可笑しかったのか、ケラケラと笑った。

 

「やっぱり、あの噂。本当みたいね」

 メイがポツリと言った。

「噂って?」

「帝国政府が、言辞(ゲンジ)さんとリリィの抹殺命令を出すんじゃないかって言ってるの?」

 その指示が出ることは、私達も察していた。

 後は、公式に出るのは、いつなのだろうと言う状態だった。


「それもあって、今日は来てくれたのか?」

 メイは、優しいなぁ。

「うん。それもある」

「それも?」

「うん」

「他には、何なのだ?」

「もし。もしだけど、戦争になったら私は奥地に引っ込むことになるかもしれない。一時的だけど」

 そうか、メイのいる街は帝国との国境付近だ。

 戦争となれば、避難できる人は避難することになるだろう。

「そうなると、こうしてこれなくなるから。それもあってリリィに会いに来たの」

「すまんな。私らのせいで」

 原因が、私達夫婦に大いに関係するので申し訳なかった。

「何言ってるの? 言いがかり付けて引っ込められないのは、あいつらの方よ。枇々木(ヒビキ)夫婦に、何でそこまで固執するの? ほんと、おかしいよ」

「ああ。うん。ありがとな」

 メイが『フンッ!』と言う感じの言い方するのには、ちょっと圧倒された。

 けど、うれしかった。

 友達って、ありがたいのだ。


 

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