気になる隣国のお医者様
コンコンっとドアをノックする音が聞こえた。
「はい、どうぞ」
言辞が返事をした。
そして、ルナがドアに向かう。
「あら、お医者様。何の御用時?」
ルナが、ドアを開けながら声をかけた。
「そろそろお暇ましようと思いまして。その前にリリィ様の御様子を見に参りました」
「これは、これは。この度は、突然に色々お世話になって、本当に申し訳ありませんでした」
言辞が深々とお辞儀をして礼を言う。
私も礼を言おうと起きあがろうとした。
「いやいや、リリィ様。そのままで」
お医者様は、そう言って私が起きあがろうするのを静止した。
「では、寝たままで失礼します。別の用事で尋ねて来られたのに申し訳ない」
私も言辞に続いて礼を言う。
「これが私の仕事ですから、お気になさらずに。皇国のお医者様には、連絡取れましたかな?」
「はい。直ぐに来て下さるとの事です」
「それは何より」
「いつか、この礼をしたい。先生は隣国のどちらにお住まいなのですか? 後でお礼に参りたいのです」
と、私は尋ねた。
「えっ、えっと、それは大丈夫なんじゃないかな?」
言辞が焦って、医者の先生の代わりに返事をする。
「どうして?」
何だ?
どうして言辞は焦っているのだ?
「いや、ほら。お医者様って忙しいからお邪魔かなって。そう思うでしょう?」
「うん。忙しいのは知ってるけど、礼をするだけなのに何時間もかからないから問題ないでしょう?」
「いや、でもさ。遠いし」
言辞は、不自然に抵抗する。
何か怪しい。
「……」
私は、言辞の顔をじっと見た。
「ん? な、何かな?」
と、焦る言辞。
そのやり取りをニコニコしながら見ていたお医者様は、こう言った。
「お二人とも。仲がよろしいですね」
「!」
私達二人は、恥ずかしくなって小さくなった。
「あ、いや、その。礼をしに行きたいだけなのに、この人が変なこと言うから。すいません」
私は、慌てた。
「いや。だって、その……」
まだ、渋る言辞。
「言辞様、リリィ様。いつでも来てください。」
「あ、でも……」
と言う言辞。
「言辞様。うちの家内も先生のファンなんです。会えると知ったら喜ぶと思いますので、どうかおいで下さい。どうでしょうか?」
「は、はい」
ん――?
何だ、この二人は?
「えっと。そ、そうですね。お伺いします。よし、行こう」
何かの覚悟を、うちの旦那様は決めた様だ。
「これから、ひと騒動あるのですかね?」
医者の先生は尋ねた。
「僕からは何とも。リリィは、どう思うんだい?」
「うん。覚悟しておいた方がが良いかな。堂々と帝国の暗殺組織の奴を送り込んできたんだ。失敗するとわかっていて」
「そうですか。では、こちらに来られるのは、事が片付いてからという事になりそうですね。かなり先になるのですね」
と、先生。
「ですが、そうならば、私の家内の方が先にこちらへ来るかもしれませんな」
「ええ? な、何で?」
慌てる言辞。
「だって、家内は言辞先生のファンですから」
そう言って、意味ありげな笑顔をしながら先生は席を立った。
「では、この辺で失礼します」
「あ、門の外まで送ります。リリィちょっと良いね」
「うん。先生、お世話になりました。失礼ですが、ここで見送りさせてもらいます」
「はい。リリィ様も、お大事に」
それにしても、あのお医者様もなかなだな。
巻き添えになったというのに、慌てる様子が無い。
最前線で負傷者を治療していたのは本当の様だ。
私の傷を見ても、手早く治療した。
流石に、地元の医者から道具などは取り寄せさせたらしいが。
あのお医者様、言辞とどんな関係なんだろう?
奥様も、ただのファンではないような。
(でも、家に来てくださいって言ってたか、悪いことを隠している風には思えないしなぁ)