異世界への切符 六枚目
「なあ、言辞。これからどうするかなぁ?」
ナビ婦人と語らった後、初めて二人で外泊する部屋のベッドの中で、言辞に尋ねた。
「う――ん。どうって言われてもなぁ」
「だよね――」
「取り合えずは、平々凡々に暮らしていけるように頑張ろうか?」
「え? それって、頑張ることなのか?」
「頑張らなくても出来る?」
そう言辞に言われると少し悩む。
「私自身が波乱万丈な人生だったからな――。やっぱり頑張らないと無理か?」
「クスッ。大変だね、リリィさんは?」
「あ、笑ったな!」
「いえいえ。笑ってませんよ。普通ですよ――」
夜遅く、ナビ婦人の旦那様である貴族の御医者様が帰って来た。
私達が到着していると聞いて、本当は直ぐにでも帰りたかったと言った。
患者を置いていけないから、我慢していたのだと言う。
夜遅く帰って来たにもかかわらず、傷の後を少し診てくれた。
完治しているのを見て嬉しそうな笑顔をしてくれた。
ナビ婦人の旦那様は、これから孤児院を開くつもりだと言っていた。
事故や病気、戦争で孤児となった子供達を引き取って守ってあげたいと言う。
ナビ婦人は、終始ニコニコして旦那様の話を黙って聞いていた。
あれだけ私達に対して熱く語ってくれたナビ婦人は、旦那様の思いを優しくジッと聞いていた。
闘いしか知らない私には、その二人の様子はとても新鮮に思えた。
お手本はあまり周りに無かったからだ。
使用人さん達も結婚している人はいるが、家族まで連れてきているわけではない。
私は、やっと平凡な日常を過ごす事が出来るようになったのだろう。
そして、その日常を全うした先に、次の展開があるのかもしれない。
その扉を開けるのは、多分私ではないだろう。
いつか親方様には、父と母のことについて聞いてみようと思った。
親方様もこの世界の闇には飲み込まれそうになっていたと言っていた。
親方様は、母に希望を見たのだろうか?
数日ナビ婦人の屋敷で過ごした後、皇国の屋敷に戻ることになるだろう。
フェイス達が帰ってくれば、また忙しくなる。
私も、新兵達を鍛え上げるので一生懸命になるだろう。
言辞も『リンド皇国戦記』 みたいなのを書くらしい。
持ってきた原稿用紙をメモ代わりにして、沢山何か書いていた。
私も知らない秘密の『能力』は、次の世代で花開くのだろうか?
それは、今この場の誰もわからない。
毎日毎日の平凡な日々を必死に生きて、少し先が見えるくらいなのかもしれない。
だけど、それで良いんだろう。
生きるか死ぬかが当たり前の世界に比べれば。
「ねぇ。言辞!」
「何だい?」
「……。何でもない」
「うん。そう。何でもないのか? それなら良かった」
言辞はニコリと笑顔になっていた。
言辞のニコリとした笑顔を見られる日常を守れて、本当に良かった。
言辞の笑顔を見られて、心からそう思う瞬間だった。
ようやく完結しました。
皆さま、ありがとうございました。
新作も執筆開始しました。
宜しければ、そちらもお楽しみくださいませ。




